第7話 ムラ
うろこは遠くから射す曙の光を反射し、宝石のように輝いている。口からわずかに漏れ出す橙色の炎、空気を震わすように滾る血脈の振動が僕の身体にまで伝わってくる。猛々しい巨体に見合わない美しさがそこにはあった。
美辞麗句を並べている僕は不躾にもその美しい獣の上に座り、足の踵のように固いパンをもそもそとむさぼり、竜の血で飲み流す。味がないのでどうもつまらないが文句は言えない。「血」と言われて当初は驚いたものだが、意外にも気に入ってしまった。本来は衛生面を考慮すべき事態ではあるが、夢にまで現実を持ち込むのは野暮に違いない。
しばらく風に吹かれていると、遠くからほかの竜も見られるようになった。彼らは海に浮かぶクラゲのようにゆらゆらと空を流れている。青年はこちらに向かってくる竜の騎手に右手を挙げると、向かい側の騎手も同じ動作をする。合言葉のようなものなのだろう。青年らのムラはなだらかな丘の上にあった。緑色のとがった切妻屋根がぽつぽつと見える。
「野生の竜に襲われないように緑の保護色の屋根にしているんだ。木々と同じ角度の屋根にすることで違和感をなくしている。素晴らしいアイデアだろう。」
青年は僕と同じ方向を眺めながら、聞いてもいない答弁をした。竜はそのまま紙風船のようにふわふわと下降していった。
地に足を降ろすと、団子鼻の男と同じ鎧を着ている男が駆け寄ってくるのが目に入った。男は団子鼻にはつらつとした声で話しかける。
「やあ、警備おつかれさま。異常はなかったかい」
「特になかった。見つかったのはこの破廉恥な間抜け野郎だけさ」
「どういうことだ」
「いや、実にけったいな話でね、こいつ草原に裸で立っていたんだ!記憶もなくなっていてね、水がただで飲める世界からきたなんて抜かしてやがる」
「どこかの回し者じゃないだろうな」
「道具もふんどしも持っていないのにどうやって密告するんだ」
「それもそうだな。それじゃあ『遭難者』ということで報告しよう。」
男は立ち去ってくれた。金属の重なる音はやがて小さくなった。
「いやあ良かったね。わかってくれて。」
青年はすました顔で僕に耳打ちをした。こうは言ってはいるが、昨夜僕に関しての報告を担おうと約束したのはまぎれもなくこの青年であった。僕は彼の発言に反駁する印としてせせら笑いを含んだ愛想笑いを送ることにした。
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