第6話

 僕は夢を見ていた。僕がいた場所は中学校の帰路で、懐かしい中学生の制服を着て、ぼんやりと歩いていた。空はどんよりと雲が降りている。空気が澄みわたり、冷たい風が吹きつける。季節は冬に差し掛かっていた。車のエンジンの音が絶えず響き、近くの山にわずかにこだまする。右には元気な高校生らが集団になって走っている。ここはいわば都市部と山間部を繋ぐトンネルのようなもので交通量がとにかく多い。僕の中学校は山間部にあった。地元では有名な進学校で、高偏差値の高校の常連であった。一方、恵まれない学生も中にはいる。僕はそのうちの一人だった。いま振り返ると、彼らと僕の違いは自我の目覚めにあったのかもしれない。彼らはとにかく頭が良かった。自分を知っているのでどこが課題なのか、自分は何をすべきか、意識せずともわかっているのだろう。僕はまだ自分のことについて何も考えず、今日の授業をどうさぼっていこうかなどという低次元の思考をめぐらすばかりだった。彼らは自分のことについて知っていた分、とにかくプライドが高かった。僕の中学校について高飛車な人間が多いという人もいるがそれは否定すべきものである。彼らは絶え間ない努力をしてきたからこそ、誇りを勝ち取ることができた。まずいのは、その努力にも見合わない自負心を手放さない人間のことである。こういう類の人間は周りのプライドの雰囲気に感化されて、どこか自分には「隠された力」があると信じて止まず、周りをとにかく卑下するのだ。そういったことにばかり目が向くので本来注目すべき大事なことについては何も考えないのだ。おそらく考えるのが怖いのだろう。誰を糾弾すべきか、それは間違いなく僕だ。この人はいつもはぼんやりしているくせに、気まぐれな自尊心に身を任せているような人間だ。もしあのときこのことに気づいていれば、何か変わったのだろうか。

 僕は首に巻いたマフラーを気づいた。―はて、マフラーなんていつ巻いていたのだろう。茶色と黒色のチェック柄で滑らかな肌触りで、軽いので心地が良い。誰かにもらったはずなのだが、いかんせん思い出せない。

 突然何か大きなものにぶつかったような衝撃がしたので、ここで夢は終わった。

どうやら青年が僕の体を揺らしていたようだ。もっと優しく起こしてほしいものである。床に寝ていたので腰が痛い。青年は僕の事情を気にせず、話しかけた。

「そろそろ起きてくれ、出発の時間だ。」

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