第4話

 鎧の男は頭を覆っていた兜を外して、部屋の隅に置いた。男は浅黒い肌で頭は五分刈り。無精ひげ、まん丸な団子鼻が目立つ。微笑を浮かばせながら手のひらに竜の血を注いだコップを置いた。手は大きく、ぼろぼろの爪や数か所の大小さまざまの傷が目に入った。少しの時間が経過するとゆっくりと僕に差し出し、

「飲んでみるかい。酔いが冷めるにはこれが一番いい。」

コップを受け取ると、なぜかコップはほんのりと温かくなっていてうっかり落としてしまいそうだった。竜の血はやや酸味があるものの、舌にしっかりとしたコクがある。のどから胃にかけてしみこむように温かさが伝わってくる。血であることさえ知らなければホットワインだと思って買ってしまうかもしれない。

「どうだ美味いだろう。もしこれを市場に出そうものならあのムラごと買えるような金が入るだろうさ。そんな代物をタダで飲めるお前は運がいいよ」

鎧の男は大きな笑い声をあげながらそう言った。

 青年はテーブルの下にあった木製の箱から黒くて丸いボールのようなものを取り出してテーブルの上にそっと置きながら僕に話しかけた。

「それじゃあこれから魔法の説明をしよう。君の世界ではおそらくないだろうからね。」

 彼の説明によると、この世界における「魔法」にはいくつかの種類が存在するそうだ。以下の順番は汎用性の高さに基づくものである。

1.「火」……物を燃やしたり、温めるのに用いられる。コップが温かったのは男が魔法を使用したからである。

2.「生命」……植物の成長促進や知能の低い動物を操るのに用いられる。どうやらゲームに出てくる「回復」という概念は存在しないようだ。

3.「力」……近年開発された新しい魔法である。この発見によって、物体の移動など今まで人力で行っていたことを魔法で解決できるそうだ。しかしこの魔法によって力仕事を生業としていた労働者の失業者数が増加することが社会問題となり、制限すべきとの声が挙げられている。

4「水」……「力」から派生したもの。水の操作が可能になり、将来は水の生成や漁における効率性を高めるとの期待が寄せられている。一方、研究に必要な純水の入手が困難なことや、「力」によって生まれた問題も懸念され、実現化にはまだ時間がかかるそうだ。

 青年は次に黒い球体の説明を行った。これは手を当てることで触れた人間に最も適した属性を教えてくれるそうだ。かつては「火」と「生命」の二種類しか判別できなかったそうだが、この球体なら先ほど挙げられた「力」や「水」も判別できるのだと、彼は自慢げにそう語った。ちなみに青年は「生命」の魔法が適しているそうで、その場合は球体が緑色に染まるようだ。

 彼は説明を終えるとすぐに僕の手を取って、黒い球体の上に乗せるのだった。それも半ば強制的にである。鎧の男はすでにカエルの鳴き声のようないびきをあげ、コップは冷めきっている。空は青紫色のカーテンがかけられていた。

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