第3話
この森の中に彼らの家はあるようだ。男たちの用意していた簡易式のはしごで降りていった。鎧の男が腰につけていた角笛を吹くと、竜はこの体格に見合わない文鳥のような甘いさえずりを響かせながら先ほど通過した山脈へと戻って行った。どうやらあのなだらかな山脈が彼の住まいのようだ。青年は微笑み、
「あいつはでかすぎて俺たちの家には入らないからね。あの山脈に住まわせたほうがあいつのためにもなるんだ。それじゃあ俺たちの住処へ案内しよう。」
森はあの草原とは打って変わり、陰湿な雰囲気で充満していた。動物の気配は感じるものの、森に同化するかのように息を潜めているため、彼らのオーラが木々ににじむように伝わってくる。あの楽園のような草原とこの陰鬱な森の共通点を一つ挙げるとすれば、底からとめどなく噴き出すような生命感に違いない。空に押されて地表にこそ現れないが、そこには確かに莫大なエネルギーがあるはずだ。樹木の根というのは、樹木の占める空間の数倍を占めるそうだが、この世界でもそれは変わらないのだろうか。この樹木の下で、根は他の樹木の根と交わりあって連鎖し、網のようになって、この大地を底から掬いあげる、僕はそんな妄想を思い浮かべた。
彼らは大きな樹木にくり抜かれた穴に潜っていった。僕も後に続くとそこに彼らの住まいがあった。天井には豆のように小さなランプが吊り下げられ、木の古びたテーブルに2脚の椅子が向かい合っている。壁にくり抜かれた穴には擦り切れた本が何冊と、あの液体で満たされた大きな瓶が置かれている。青年は僕のほうに振り向き、
「本当はムラに連れていってあげたいんだけど、もう日が沈んでしまったことだし、今日はここで泊まろう。」
青年は鎧の男の持っていた赤い液体を飲みながら付け加えてこう言った。
「それにそんな姿でムラに入ったら皆に怪しまれるだろうから」
「僕のことは牢屋に入れないのですか」
青年にとって、この質問は愚問にちがいなかった。
「君みたいな不思議な人間をそんなところに入れておくはずがないだろう。君のことは『遭難者』として上部に報告する予定さ。そのかわり君は前にいた世界について教えてくれたまえ。みずが自由に飲める世界なんて面白いに決まってるからね」
彼は声のトーンがあがりながらも微笑んでそう言った。
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