第2話
日照りによってひびが入った湖底のような土色のうろこをぼんやりと眺めていると、ギリシア風彫刻の顔立ちの青年の隣にいる重厚な鎧を身にまとった男に蛙のようなしゃがれた声で話しかけられた。
「このあたりはムラのひとつもないからなあ。なのにどうして君があそこにいたのか俺にはまったくわ
からないのだよ。」
「酒に溺れてあんな所に迷いこんだとしてはあまりにも不思議だ。もしかしたら別の世界から迷い込んだのかもしれないね」
と青年は独り言のようにつぶやいた。
「お前こそ酒を飲んでいるんじゃあないだろうな。こいつはどうせ竜から落っこちた腑抜けな男だよ」
草原の先に見えた急峻な山脈を越えると、やがて雲のように広がる森林が見えてきた。木々は親から与えられる餌を我先にもらおうとする小鳥たちのようにぐんぐんと背を伸ばしている。木々の間を悠々と闊歩する竜の親子も見かけた。翼はないもののキリンのように長く伸ばした首と、象のようにたくましい脚からはこの世界における自然の巨大さをひしひしと感じられた。興奮した僕はここで初めて、ぼそりと口を開く。
「竜なんて初めて見たよ。」
鎧の男は口をぽっかりと開けて、
「おいおい、記憶がなくなっちまったのか。竜なんてものはそこらじゅうにいるんだぜ?あの首なが竜なんてポピュラーなペットさ。」
男は瓶に入った黒が混じった赤い液体を飲みながら続けていった。
「あんなかわいい竜なんかに比べれば、いま俺たちが乗っているこいつは数十倍の価値がある。なんせ空を飛べるし、服従を誓い、飼い主をお守りする。強いから襲われることもない。それになんといったって、こいつの血は美味いからな。」
どうやら彼の飲んでいる飲み物はこの竜の生き血らしい。しばらく声を出していないもので喉が乾ききっていた。あのきみの悪い液体を飲むのにはやや気が引けるので、普通の水が恋しくなった。
「水はないのですか?」
「みずだって?そんな高級品あるはずがないだろう。だから僕たちは竜の血を摂取するしかないんだ。君の住んでいたところは水が飲めたのかい?」
「発展した国であれば、どこでも。でも竜はいません」
「君はずいぶんと良い暮らしをしてきたんだなあ」
青年は驚いた様子でそうつぶやいた。
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