残された猶予
第9話
それはまだ幼いころ。気が付けば俺は見知らぬ場所にいた。
「私は神様です」
何もない空間の中に一つだけある浮島の上で、唐突に少女がそう名乗った。
「人間にしか見えないけど」
自分のことを様付けするような態度も去ることながら、外見も中学生ほどの何の変哲もない少女だ。神なんて名乗るほどの神々しさは微塵もない。
「そういうものです。あなた方人間が勝手に想像しているだけです。実際は人間と大差ありませんよ」
そんなものだろうか。
「ここはどこ?」
「どの次元にも存在しない空間の狭間です。誰も存在を認知することのできない秘密の空間です」
「じゃあなんで俺はここにいるの?」
「私にも分かりません。こんなことは初めてなので。正直、困ってます」
などと言いつつも自称神の少女はどこか楽しそうに微笑んでいる。
「でもそうですね。せっかくここに来てくれたんですから、いいことを教えてあげましょう」
「いいこと?」
「運命って、知ってますか?」
「うんめい?」
「はい。過去、現在、未来、すべての時間は繋がっています。過去があるから現在があり、現在があるから、未来があるのです。だから、あなたがその行動を起こした時点で未来は決定される。もっと言うのなら、あなたが過去に何をしたかで現在が決まってくるのです。いくら運が悪かっただけのことでも、あなたが過去にどんなことをしたかでそうなることがすでに決定されていたのです。それによって幸せになったり、あるいは不幸になったりします。これを人は運命というのです」
「はぁ」
「でも逆に、未来があるから今がある、というのもまた事実です。もし未来の自分が夢をかなえられないことが分かったら、理由を探して自分が頑張る、というのも可能なのです」
「???」
「ふふふ、さすがにまだ難しかったですかね。無理もないです。じゃあ話を変えますか。でもその前に質問です」
神様はにっこりと笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。
「もしも、人を幸せにしたり、あるいは不幸にしたり、ということを誰かが決めているとしたら、あなたはどうしますか?」
「それはつまり、誰かが人を幸せにしたり、不幸にしたりできるってこと?」
「その通りです」
「うーん」
あまり実感が湧かない。もし今の人生が誰かに決められていたとしても、それに気づくことはない。
「それが変えられないんだったら、自分がやりたいことをして楽しむ、かな」
俺が少しだけ間を開けて答えた内容に、神様は目を丸くした。
そしてまたすぐに、口元に手を当てて上品な笑みを見せた。
「あなた、面白い人ですね。普通は憎悪や嫌悪感を抱くものですよ?」
ふふふ、と再度笑みを漏らす。
「気に入りました。あなたにいいことを教えてあげましょう」
「いいこと?」
一体どんなことを教えてくれるというのだろうか。
「世界の運命というのは全て、私が管理しています」
「……?」
「簡単に言うと、誰かの運命を私が自由にできる、ということです」
「はぁ」
「あ、信じてませんね? でも必ず分かるときが来ますよ。だって私はあなたの運命も知っているのですから」
心底楽しげな神様を不思議そうに眺めると、不意にめまいがした。
「そろそろお別れですね」
急に世界が歪み始める。
「あなたはこれから少し辛いことがあるでしょう。でも、頑張って乗り越えてください。あなたなら大丈夫です」
視界が暗くなり、意識が遠のいていく。
「これは私からのプレゼントです。受け取ってください」
最後にうっすらとそんな言葉が聞こえ、意識は完全に途切れた。
この日から俺は、不思議な力を手に入れた。
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