第2話 思い出してきた

『バドライズアカデミア』

 ざっくり言えば異能学園をテーマにしたアドベンチャーゲーム。

 主人公、キキョウ・アマノを中心としてヒロインと共にオリュンピアでトップを目指す物語だ。

 オリュンピアでは特殊な能力に目覚めた能力者エフェクターを集め、それらを戦い合わせるバトルエンターテインメントを繰り広げられている。

 タイトルにアカデミアと書いてあるようにここでの競い合っているのは学生だ。

 各々の目的はあるだろうが大体は名声や金の為に戦っているだろう。

 定期的に行われている大会では優勝すれば賞金も手に入るらしいし。

 10代から20代前後までの学生たちが能力でドンパチしてるのを見てキャッキャするとか普通に考えたらめっちゃヤバい光景では?

 でもゲームをしてる時の私もそんな感じだし、人の娯楽としては最高なのだろうな。

 次は私自身の話だ。

 私の、この身体の人物の名前はアリーア・テレジア。

 ヒロインの一人であるカノン・アレクシアの取り巻きの一人である。

 腰まで伸びた長い青色の髪、可愛いというよりも美人系な顔立ちで見た目はゲームに登場するヒロインたちにも引けを取らない。

 ただこのアリーア、名前もあり、恵まれたビジュアルのくせしてカノンが登場するイベントCGに2回しか映らないのだ。

 別にボイスがついてるわけでもなくただそこにいるだけ。

 しかも後に出た設定資料集ではアリーアのめちゃくちゃ凝った設定が開示されたため、それを読んだプレイヤーからあるあだ名がつけられた

 その名は『最高級モブ』。

 ……マジでぇ?

 ここはこう、主人公やヒロイン、またはその敵か準ずるものになるものじゃないのか?

 私モブじゃん!

 いや、落ち着け……むしろいいのではないだろうか?

 変に物語に介入するとこう、なんだ。

 何か恐ろしい事態になってしまったりするのでは?

 だとしたら好都合ではないだろうか。

 幸い、私は推しヒロインであるカノンの取り巻きだ。

 彼女のそばにいたりいなかったりすれば平穏に過ごすことが出来るだろう。

 今までなんてことのない日常を過ごしてきた私には異能バトルなんてあまりにも刺激が強すぎる。

 よし、できるだけ平凡に過ごす方針で……。


「ほら地面に下りるから」

「あ、うん」


 白髪の少女はそう言って私を先に降ろしてから着地する。

 この少女はキュレル・カラット。

 私と同じカノンの取り巻きだが、こちらはカノンルートに入ると助言や過去の開示などといった形で積極的に主人公と関わってくる。

 能力は『浮遊』と『探知』。

 この作品でも珍しい二重能力者デュアルエフェクターだ。

 『浮遊』は自分や触れたもの、身に着けている物を浮かせることが可能で、基本的な戦い方は重装備で動き回りまくる。

 主人公と戦うシーンは大量の重火器を用いて弾幕をばらまくなど、イベントCGやシーンの描写では高速で過剰なくらい攻撃を叩きこむような場面があった。

 もう一つの『探知』は直径で300メートルまでの生命を探知できる。

 ただ、数年程の親しい相手だと数キロ先まで探知距離が延びるらしい。

 この能力を使って寝ていた私を見つけたのだろう。

 めっちゃ優遇されてるやんけ。

 一体アーリアとどこで差がついたのか。

 胸か?やはり胸なのか?

 カノンは私と同じぐらいぺったんこなんだけどなぁ……。


「あら?

 見つけてきたのね」

「申し訳ありませんカノン様。

 なぜか一つ先のフロートにある森林区画で寝ていました」

「アーリアは昔から森林浴が好きでしたものね」


 私はその姿を見たときにそれまで考えていたことが一瞬で真っ白になった。

 透き通るような肌に綺麗な金色のウェーブヘア。黄金の瞳はとても眩く、何物も照らしてしまいそうだ。

 あ、この人のこと好きだ

 推しだからとかそういうレベルではなく、これは本能で思った。

 それと同時に知らぬ光景が、いや


 荒れ果てた地。

 瓦礫や兵器の残骸が辺りに散らばっており、火の手も上がっている。

 太陽の熱い光が容赦なく降り注ぐ中、ゆっくりと歩きながら瓦礫をどかして水や食料を探す。

 だが幾度も幾度も探しても見つからず、すぐに倒れてしまった。

 意識が朦朧としている中、一つの影が私にかかる。

 顔を横に向けるとそこには太陽よりも眩しく、優しい光がこちらを覗いていた。


「いっ」

「アーリア?

 どうかしました?」

「だ、大丈夫」

「あんなところで寝るから身体が固まっちゃうんでしょう」

「そんなことない。

 あそこは中々寝心地はよかった」


 今のは私ではなくアーリアわたしのだ。

 過去に戦場で両親や居所を失ってしまった私の記憶。

 カノン様に初めて出会い、拾われた記憶。

 なんとなくだが、私とアーリアわたしが一つになった気がする。

 現に口調はアーリアわたしのものだ。

 もし私の方ならもっとこう、バカみたいな喋り方になるはずだ。

 一つになったことで推す気持ちと慕う気持ちが足して膨れ上がってしまった。

 先ほどまで平凡に過ごすと考えていたがそれは撤回しよう。


「お嬢」

「んっ?

 どうしました?」

「好きな男性とか、いる?」

「あんたいきなり何言ってんの?」

「えっと、ほんといきなりですね。

 どうしたのです?」

「いや何となく」

「そうですねー、今はいないですよ」

「そう……」


 なるほどなるほど。

 これを聞いて私は決意した。

 私はお嬢を幸せにするために全力を尽くす!

 目指せお嬢END!

 

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