エンドターム:エピローグ

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 後世、著されたタカコの手記にはこう記されてる。

「機兵……巨大な鎧、鋼の手足。樹脂の手綱を振るう戦いについていくのがやっとでした。しかし変わらないものが一つありました。それは結束です」と。この時の戦いが、彼女の初陣だった。


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 戦闘の直後、ラーエルは独断で追撃をしようとしてルークの砲手に止められる。

「よせ、手負いの獣は新兵には重い」 

「で、ですが……」


『あとは任せなルーキー、よくやった!』


 上空を、別の飛空艇が飛んでいく。おそらく整備と調整の終わった正規の戦闘部隊だろう。

 その軌跡を目で追う彼女のコクピットへ、キャノン・ルークから通信が入る。


「死にたがりにピッタリの場所がある。俺から打診してやってもいいぜ?」


「共和国を打ちのめせるのなら、何処にでも行きますわよ…?」


 その通信を聞き喜々として、彼女は口元を歪めた。

 ……帰還後、彼女がいっときの間を経て、西部国境線部隊へと編入されるのはまた別の話。

 その頃、戦場の端では、土埃にまみれた機体の中でひとりの青年が歓喜の声をあげていた。


「よし……よし! 生きてる……!!」


 歓喜のあまり叫ぶパスカル。死線を潜り抜けた仲間と共にひとしきり喜び分かち合ったところで、ふとコクピットの中に漂う臭いに気付く。


 ……数か月後、パスカルはとある基地の食堂の隅に、賭け事をしながらあの日の武勇伝を針小棒大ぎみに語る。

 揃って胡乱げな顔の同期たちが話の隙に仕掛けたイカサマに気付いていない事に、彼はとても満足げだった。

 勿論、チビっていた事は誰にも話していない。


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 軍靴を鳴らし隊舎を歩くその姿は紛う事無く軍人のそれであった。

 彼女……アラクネは本来、魔導の道を志す求道者――魔術師であると思いいたる者はいないだろう。

 書類束を小脇に抱え、姿勢を正し、表情は鉄の如く。

 それはまさしく先の「極秘任務」を達成してきた新進気鋭の部隊の隊長にふさわしい威容であった。


 幾人かがすれ違い、噂をするように指を刺し、或いは囁き合っていた。

 しかしアラクネはその全てを意に介さず、いつもの沈黙高速思考を展開させていた。


(あー、どうしてこうなってしまったのでしょうか…騎兵運用の成績では最下位だったから、この役職を指名される可能性は低かったのに……やはりあれですか?会敵前に教本通りに伏兵を警戒してから他の人が殺気立っていたり狼狽えていたりしたから指揮官役を買って出たからですか?いやしょうがないじゃないですか。私はパスカルさんのように出世意欲は無いですし、ケルベス君みたいに死の恐怖とか無いですし、ラーエルさんみたいに共和国への復讐心とかありませんし、タカコさんみたいに武芸の心得があるわけでもありません……単に、軍部にいた方が魔術の求道に有利だっただけ……まったく……)


 ふと、鉄の表情が歪む。口角が本人も気付かぬほどにわずかに上がった。それは……

(浅ましいですね、我ながら)

 自嘲の笑みであった。

 やがて、彼女は目的の部屋に辿り着いた。

 書類束を胸元に持ち直し、年の頃に比すれば豊満な胸元が僅かに潰れる。


 だが、彼女は特に意に介したりはしない。

 軍人となり、隊長となったとはいえ、彼女の魂はどこまでも真理を探究する魔術師のままである。2度のノックの後、生気のない声が入室を促した。


「失礼します」


 彼女は決然と入室した。


 部屋には若い男性がひとり。濁った目で、白い印刷紙を眺めている。

 常人であれば怯みかねない陰気をアラクネは意に介さなかった。『魔術師たるもの、如何なるものに動じず、その神髄を見定めるべし』アラクネの師匠の言葉であり、彼女自身の人生の指針である。


 ……詰まる所、アラクネと言う魔術師は、なるべくして軍において頭角を現すこととなるのだ。

 彼女はその青年の前に書類束を…正確に言えば、彼が司令部に提出した退役届けを……突き返し、魔術師らしく無慈悲に言った。


「ケルベスさん、残念ですがあなたの退役届けは受理されませんでした…理由は、お分かりですね?」


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 俺の名前はケルベス。

 夢は画家だ。

 そのための人生設計をして来たはずだった。


 なんでこうなっているんだろうな。

 あの戦いの光景を絵にできればきっと俺は今頃売れっ子だっただろう。


 目の前にある白い紙を、俺はただただ生気を失った目で見つめていた。


 俺の名前はケルベス。軍属だ。

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魔導機兵 @MagicMecha000

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