第2ターム:接敵
魔導機兵。それは戦局を一瞬で変貌させた、帝国の巨大兵器。
歩兵の機動性と柔軟性に戦車の火力と装甲を兼ね備え、1人の騎士を当千の戦力へと進化させる魔導機兵の発明は、元来寡兵である帝国にとって、画期的なソリューションだった。
そう、これまで帝国は、魔導機兵のもたらす圧倒的な武力をもってしてこの大陸を席巻し、かの共和国に対して優位を保ってきたのだ。
しかし、今目の前に存在しているのは、紛れもなく「共和国製」の「魔導機兵」であった。
「くそっ、さっそく敵さんのお出ましか!早いとこ加勢してくれよ……!」
反応が一足早かったのはパスカルだった。アクセルを全開。エンジンが吠えるに合わせて計器類が振れ上がる。
パスカルは彼に目をかけている貴族のコネで機兵乗りの訓練所に潜り込んだ小狡い男だ。しかし、機兵乗りになる前は親衛隊として実戦を経験していたし、仲間を守るという考えを持つ程度に情も持ち合わせていた。
陽動を兼ね、彼が真っ先に行動を開始し、手持ちの武装を、件の「魔導機兵のようなもの」へとぶつけ始めた。
(やはり潜んでいましたか……この状況、パスカルさんが黙っていても飛び込んでいきそうですし、調査中の方の安全確保はケルベスさんにお任せして私は敵の気勢を削がせてもらうとしましょう!)
アラクネは見越していたように魔導干渉をしかけていく。だが、すぐに、とはいかないのが実情だ。効果が戦域に広がるより先に、共和国の機兵の砲が火を噴く。
相手の武装はおそらく、既存の戦車などに搭載していた火砲の流用品だろう、しかし想像よりも相手の火勢は強く、また多勢に無勢であった。
いくら一日の長があるとはいえ、急な実戦に対応が追いつくはずもない。パスカルの機体はどんどんとダメージが蓄積していく。
「ケルベスさん!援護を!」
「わかってるよアラクネ!チクショウチクショウ!だから嫌だって言ったんだ!ふざけやがって!」
魔素通信機からの通信へ、ケルベスはがなりたてる。コクピットでひとしきり呪詛を吐き出しながらも、彼の適切なカバーにより、敵の動きは一歩また一歩と下がっていく。
ケルベスも、素行を除けば教導団内で最優秀の部類に入る成績を誇っている。怯えとは裏腹に冴えわたる機兵の操縦テクニックも彼の本能のなす業か、あるいは彼も知らない素質の現れか。
パスカル機はなんとか持ち堪えているが、依然として状況は厳しいままだ。いかに戦車の砲撃をものともしない特殊魔導装甲といえども、同じ個所に何度も砲弾をぶつけられてはひとたまりもない。
そんな身を挺した援護を無駄にしないため、タカコとラーエルは急いで機兵を起動。パスカル機の影に隠れつつゆっくりと攻撃地点へ移動する。
気取られぬように動く最中も、タカコは思考を巡らせていた。
父に仕込まれた兵法曰く、少兵同士が向き合っての膠着状態は長くは続かない。
間もなく相手方に増援が来るか、はたまた隠し玉を持ち出すか。だが、そこに生まれる気の緩みこそ、付け入る隙。
(相手が攻撃に転じようとした時ほど攻める絶好の機会……ここはあくまで慎重に行く)
パスカルの攻勢にあわせ、タカコは機兵用シールドを構えながら機を伺う。
ラーエルがそれに合わせるように、バズーカを構えてタイミングを図り、そして、
「「今だっ!」」
両名が擬似魔導機兵2機へと奇襲をしかける、が、しかし踏み込みが浅く、一機を撃墜するにとどまってしまった。
徐々にではあるが、部隊はジリ貧へと追い込まれていた…。
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