第3ターム:防衛
疑似魔導機兵が一機爆散するのと、トラックヤードの放送が入ったのはほぼ同時であった。
「あと10…いや5分持たせてくれ!もう少しで『新兵器』が起動できる!」
わずかな間、第203帝国特殊部隊員に緊張が走る。
アラクネは素早く周囲を確認。放送の主は後方にのトラックヤードの、まだ損害の少ない一角にいるようだった。おそらく我々が到着するまでの間、第123中継基地に残された人々はあそこに集結して籠城戦をしていたのだろう。
(新兵器ですか?どうやら共和国側の重要破壊目標はまだ無事なようですね…しかし起動までの時間、共和国側は新兵器破壊の為に死に物狂いになるはず…なら、起動を待つよりも先手必勝!)
最初に動き出したのはアラクネだった。
『ラーエルさん!タカコさん!敵騎兵対処を!パスカルさんは下がって!ケルベスさん!私と一緒に歩兵を撃ってください!共和国の新兵器接近を阻止します!』
『『了解!』』
指示を受けた二人が前に出る。ラーエルは後退するパスカルの援護へと向かい、彼と入れ替わるように機体を前に踊らせる。
『パスカルさん!』
『!!』
ふいに放られたバズーカへ、パスカルは一瞬当惑する。しかしすぐに意味を理解し、代わりといわんばかりに彼女へバトンを投げ渡す。
受け取ったバズーカを追い来る疑似魔導機兵に放ち、コンテナ影へと退避する。そのすぐ脇を、野戦砲の弾が掠っていった。
「た、たまげた女だな……何はともあれ、前は頼んだぜ」
パスカルは奇妙な雄叫びを上げながら敵の機兵へ突撃するアラクネを思い出して嘆息する。軽口を叩いてはいるが、コンソールの魔導球を掴む手は冷や汗でじっとりとしていた。そして前線では、彼と入れ替わった隊員による、面での防衛が繰り広げられていた。
「光の槍よ、幾重にも穂先を解き放ち…敵の群れを穿て!『散烈』!」
突き出されたバトンの先から、幾重にも分たれた光の槍が、機兵の周囲に展開していた歩兵たちに降り注ぐ。
その光の槍の隙間を縫うように、ケルベスがライフルを掃射していく。
「畜生、畜生っ!死ねるか、死ねるか!お前らが死んじまえ!馬鹿野郎、馬鹿野郎!これが終わったら退役してやるからな!!」
降り注ぐ薬莢の雨の中、果敢にも自機へとカービン銃を向ける歩兵をケルベスは見た。
そして、もはや言葉にならない呪詛を喚き散らしながら、数百キロはあるであろう機兵の足でその歩兵を蹴り飛ばし、踏みつけながらもさらに機銃を共和国軍へと向け撃ちまくった。
二人による弾幕斉射により、徐々に面での「抑え」が成立しようとしていた。
その「面」を突き抜けるように、タカコとラーエルの機体が駆け抜けていく。
(私が攻撃に参加していればパスカルさんも手傷を負わず済んだかもしれない……しかしここで血気に逸れば全滅の危険もある!)
自責と血気が、タカコの頭によぎる。しかして、幼きに教わった戦いの理を思い出し、それをぐっと飲み込んでいく。
「ラーエルさん、私も向かいます!」
ラーエルに向かって振り下ろされた、『もどき』のスタンバトン。
その間へ彼女は機体を割り込ませ、無事な右肩装甲で受け止める。
「くっ…この!」
ゼロ距離でライフルの撃鉄が5回、するどく鳴いた。
風穴を開け、さらに共和国兵がひとり葬られることになった。
状況は好転しつつあったがしかし、既に時間がかかりすぎていた。
『敵の増援を確認!』
誰かの報告が、全員のコクピットに響き渡る。
しかし、それよりも早く飛び出した機体があった。ラーエル機だ。
共和国の機兵は帝国のそれと比べて機動性を欠いていた。それは機兵自体の性能の低さだけでなく、乗っているパイロットの熟練度の問題でもあるのだろう。それが分かっているからこそラーエルは臆することなく敵機兵へ肉薄する。
近距離戦はラーエルが最も得意とするところ。持ち前の反射神経と判断力で敵弾を避け、突出する一機の懐へ潜り込み、
「そこぉっ!!」
不意をついた一撃は奇跡的に、あやまたず動力炉を突き壊すに至った。
しかし、たかだか1機で増援が怖気づくこともなく。部隊はまたしもて、劣勢へと追い込まれつつあった。まだ幾分か余裕があったはずの防衛線も、気が付けば敵の機兵に徐々に押し込まれて、あともう一押しで突破されるところまで来てしまった。
と、突然背後で爆発が起きた。もうもうと立ち上がる煙の向こうで、装甲板を兼ねたシャッターが崩れ去る。ついに最後の砦が落とされてしまった……これで終いか。と部隊の誰もが肩を落としかけた。が、そうではなかったのだ。
もはや満身創痍の部隊が耳にしたのは、重く低い、戦車のようなエンジン音。
そして聞き慣れた魔導機兵起動時特有の、魔術の共鳴音。
『すまない、遅くなった!さぁ…やるぞ!』
今しがた自ら吹き飛ばしたシャッターを踏み潰して、ゆっくりと“それ”が動き出す。
トラックヤードの奥深く、真っ赤な閃光と、そして陸上には不釣り合いなほど巨大な砲門が、谷を縫って掛ける共和国軍へと向けられていた。
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