第3章 革命の旗は誰がために翻る

第71話 遡ること数か月前

 窓一つなく、日の光がまったく入らない部屋。


 その中で、男は跪いている。


 たとえ顔を上げたとしても、暗闇の先の姿は朧気にも見えないだろう。

 しかし、見えずともはっきりと伝わってくる存在感に圧されて、男は身じろぎもできずに座していた。


 いや、単に己の内の恐怖心がそうさせているだけかもしれない。


 そう思い直し、男は頭を垂れたまま、皮肉気に唇を歪ませた。


「報告を求める」


 暗闇の向こうから声が届く。男とも女とも判ぜぬ声色だが、不思議と一句も漏れなくはっきりと耳孔に入り込んでくる。


「聖槍の現存と適合者を確認しました。これまではぐらかしていたエガリテも、公式に発表しました。軍の動きも活発化しており、近く大きな動きがあるかと」


「了解した。引き続き聖槍と適合者の回収に注力せよ」


「はっ」


 目を伏せたまま男は立ち上がり、踵を返す。


 短いやり取りだった。しかし、男は潰れそうな重圧を胸に感じていた。


 それは先程までの恐怖だけではない、高揚にも似た緊張。


 ついにその時がきたのだ。


 自分の全てを賭けてきた――いや、自分が生まれる前から連綿と受け継いできた悲願を果たす、その時が。

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