第18話 襲撃(2)

「お~お~、いたいた。ようやっと見つけたぜ」


 唐突に響いた声に、ベンはぎくりと動きを止めた。メリルも、怖気を伴う汗が噴き出した。


 ベンが来た方角とは別の道から、その者たちは歩いてきた。この炎の中を、悠然と、平時の如く進んでいる。

 数は十人前後。軽装ながら、全員が皮や鉄の鎧を身に着けている。手には、剣や槍。どれも使い込まれたように古びていて、持ち手周りは黒ずんでいるが、刃だけは炎の光を照り返してぎらついている。


 間違いようがない。村を襲った一味だ。


「て、てめぇら……!」


 ベンが体を向き変え、メリルとコリンを庇うように立ちはだかる。しかし、山賊たちは意に介した様子なく、退屈そうに、のんびりと口を開く。


「ったく、この村の連中、逃げ足速すぎだろ。ぱっぱと人質確保してとんずらする予定だったのに、まだこいつしか捕まえられてねぇんだぜ?」


 独り言のような口調で、先頭の男が愚痴をぶつけてくる。「こいつ」という謎の言葉に、男の視線を追って目を向け――凍りついた。

 先頭の男より数歩後ろにいる山賊、その一人が肩を掴んで連れている女の子。


「に、にい、兄ぢゃぁあん!」

「ポリンっ!?」


 コリンの双子の妹、ポリンが、捕まっていた。

 目立った怪我はしていないようだが、顔の前に小刀を突きつけられ、歩かされている。その目からはボロボロと涙が零れ、真っ赤に腫れ上がっている。


「き、貴様らあ! ポリンをどうする気だ!? その子を離せ!」

「嫌だよ。言ったろ、人質だって。そんで、あんたらも今からおんなじ立場ってわけさ」


 ベンの怒号にもどこ吹く風で、男は剣を片手に近づいてくる。


「で、どうする? 全員連れていくか? 女なんか、少し年は行ってそうだが、なかなかだぜ?」

「バカ言え。時間がないんだ、ガキだけでいい。男は暴れられたら面倒だし、その女を引っ張り出している余裕はない」

「へいへい。あ~あ、もったいねぇ」


 淡々と、男はポリンを掴んでいる仲間と相談しながら迫る。剣を片口に担ぎ、両目はベンをまっすぐに見据えている。


「そんなわけだから、おっさん。大人しくガキを渡せば、何もしねぇからさ。退いた方がいいぜ? いや、俺はどっちでもいいんだけどさ」


 歩みを止めず、男が問う。実に楽しそうに。唇が、徐々に吊り上がっていく。

 ベンは背後にコリンを押し隠したまま動かない。人質を前に、せめてもの抵抗とばかりに男を睨みつける。ベンの隣に控えるアルフォンス2世が、歯を剥いて唸り声を上げる。

 しかし、男の歩みは止まらない。その笑みが、ますます深くなる。

 剣が、振り上がる。


「っ、ベンさん!」


 メリルが引き裂けるような悲鳴を漏らす。刃の白と、照り返す緋色が、揺らぎ走り――



 その刹那、横から別の銀閃が飛来した。



「っでぇええ!?」


 まさに剣を振り下ろそうしていた男の肩に、深々と突き刺さる。それは小さなナイフ。木の枝や獣の皮を剥ぐ際に、村の男たちが日頃使っている刃物だ。

 そして、それを追うように。立ち昇る炎の壁を突き破って駆け、男の横合いから飛びかかった少年の足が、


「――母さんに、何してくれてんだこらぁぁあぁあああ!」


 男の顔面を、思いっきり蹴り飛ばした。

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