第14話 だからマザコンじゃあないって

「それで、騎士の人たちに協力することになった、と」

「そ、そうなんだよ。いやぁ、ホント参ったよね。は、ははは……」


 家に戻った俺は、母さんに事の成り行きを説明していた。正座で。いや、別に正座する必要はないんだが、自然としていた。


「いや、俺も嫌だったんだよ! でも、テッドの奴らが『せっかく指名されてるのに断るバカがいるか!』とか言って、勝手に承諾しやがって。あれ、絶対やっかみだよ。だったら、あいつらが代わってくれればいいのによ」

「…………」

「そ、それに、やるのは案内だけだし! 危険なことは一切ないってさ!」


 険しい表情で話を聞く母さんに、説得を続ける。というか、なんで俺がこんな必死に頼まなきゃあいけないんだ。俺だってやりたくないのに。

 でも、家の前ではすでに騎士の連中が待っているし、窓にはテッドたちが顔を貼りつけて「もっと強く言えって!」「ほら、頭を下げて!」「これだからマザコンは!」と騒いでいる。あいつら、後でぶっ飛ばす。


「まあまあ。そこまで深刻にならなくてもいいんじゃあないか?」

「……お父さん」


 なんかもう全部投げ出したい気持ちになりかけた所に、外から父さんが帰ってきた。見ると、後ろに続いて騎士の隊長と、なぜかベンさんも家に入ってきていた。


「今、騎士の人たちと話してきて、改めてティグルの身の安全は保障してくれたよ。それに、どちらにせよその山賊を何とかしないと村全体が危険なんだしさ。大丈夫、こいつはちっとやそっとでどうこうなるほど柔じゃあないって」


 父さんの説得を受けて、母さんの表情から幾分険が取れた。それでも、眉尻を下げて、暗い色は変わらない。


「……ところで、ベンさんは何でいんの?」


 父さんと母さんが話しているのを聞きながら、俺が小声で尋ねる。


「そりゃあ、こういう盗賊やらモンスター対策は俺の担当だからな。騎士連中と話すのにも、俺が同席した方がいいだろう」


 ちなみに、この国では、軍人は有事の際の外国との戦闘、騎士は国内のモンスターや山賊退治に要人警護、といった具合に、簡単に言えば外向きと内向きで役割の住み分けがされている。とはいえ、協力して事に当たることも多いため、騎士との話し合いは元軍人のベンさんには慣れたものなのかもしれない。


「なあ、メリル。俺らを助けると思って、許可してくれんか?」


 このままでは埒が明かないと思ったのか、父さんたちの話し合いにベンさんが横槍を入れる。


「ティグルの狩りの腕は、もう誰もが認める村一番だ。それに、どういうわけかは知らんが、こいつは夜だろうが霧の中だろうが、山の中で迷ったことがない。今回の話には打ってつけだ。……本当は大人が行くべきなんだろうが、正直、こいつに行ってもらうのが一番安心なんだ」

「……それは」

「それに、ここで恩を売っておけば、将来騎士団や軍に取り立ててもらえるかもしれんぞ。こいつならすぐに出世でき――」

「この子は軍人になんてさせませんッ! 絶対にッ!」


 ベンさんが母さんの耳元で何か囁いたが、それが却って逆鱗に触れたようで、ベンさんは飛び上がり、「じょ、冗談だよ。悪かったから、そう目くじら立てんなって。……ふう、あのお淑やかだったメリルが、今じゃあすっかり母親か」と零していた。何その後半の興味深い話。詳しく聞きたい。


 母さんは、その後しばし俺の顔をじっと見つめていたが、やがて深く深く息を吐くと、


「…………何があっても、無事に戻ってくること。約束できる?」

「っ! も、もちろん! 絶対に約束する! いざとなれば、騎士のおっさんたちを身代わりにしてでも帰ってくるから!」

「少年、さすがにそれは酷くないか……?」


 それまで黙って成り行きを見守っていた騎士の隊長が、苦笑を漏らした。

 ええい、やかましい。母さんとの約束を守るためには、手段なんて選んでられるかってんだ。

 こうして、俺は山賊討伐のため、騎士の道中案内役を務めることとなったのだった。

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