第6話 そんなこんなで15歳

「おい、そっち行ったぞ!」


 森の中を大鹿が走る。


 取り囲む者たちが放った矢や槍を俊敏に避け、わずかに空いた隙をついて包囲を突破していく。


「まずい、逃げ――」


「――任せろ!」


 他の連中が翻弄される中で、俺は鹿の動きを的確に読んでいた。予想した鹿の進路に、拾った石を思いっきり投げつける。


 樹の表面を砕くほどの勢いで鼻先を横切った礫に、鹿が慄き、首を振る。跳ねるように、逃げる向きを変える。


 だが、その先にはすでに俺が走り込んでいた。

 礫を投じた方向と、これまでの鹿の動き、そして前世譲りの勘で鹿の動き方を予想、誘導したのだ。


 鹿の体に飛びつき、手にした短剣をその首筋に突き刺す。


 甲高い悲鳴を上げながら、鹿が倒れる。

 もがき、暴れるが、急所を深く刺されたため、いくらもしないうちに、息絶えた。


 それを見届け、静かに手を合わせていると、他の連中が集まってきた。


「ちぇー、またティグルの手柄かよ」

「お前、ちっとは俺らにも花を持たせろ!」

「だったら、まずは矢をまっすぐ飛ばせるようにならねぇとな」

「んだとお!?」


 意地悪く返してやると、一人が語気を荒くして掴みかかってきた。それに続いて、残りの奴らまで面白半分で飛びかかってくる。


 俺は、15歳になった。


 近頃はこうして、村で年の近い仲間と狩りをして過ごすことが多くなった。

 大人になる直前の俺たちは、こうして大人の真似事をするのが「仕事」なのだそうだ。


 俺たちが住む村は、大半の人間が猟師か農家かのどちらかだ。それも、村の中で消費する分だけしか獲らないような小規模なもので、それだけで、ここがどれほどの田舎なのかが知れる。

 外との交易なんて、1~2か月に一度行商人が来る程度だ。


 数回だけ父さんたちについて最寄りの町へ行ったことがあるが、世の中にはこんなにも多くの人間がいたのかと目を回したものだ。

 だというのに、衝撃的だったその町でさえこの国では小さい方だという。

 人間の繁殖力、恐るべし。


「よーしお前らー。大物も獲れたし、今日はこの辺で戻るぞー」


 そんな取り止めのないことを考えていると、一行の中で最年長のナックがそう指示した。

 しかし、


「ええー! 俺、まだなんも仕留めてねぇんだぞ!?」

「まだいいだろう!」

「そうだそうだ! ってか、なんでナックが仕切ってんだよ!?」

「一足先に『大人』になったからって、威張りやがって!」

「去年までは俺たちと同じ『子ども』だったくせに! 裏切り者―!」


 非難轟々であった。

 しまいには、みんなで寄ってたかってナックに掴みかかり、もみくしゃにし始めた。


「おい、ティグル! お前も見てないで手伝え!」

「え、いや俺は鹿も兎も獲ったから、もういいわ」

「みんな、こいつもやっちまえー!」


 思わず素直に返すと、連中は矛先を変えて、今度は俺に飛びかかってきた。

 首を絞めたり腹を殴ったりと、散々に攻められるが、まあお互いに悪ふざけみたいなものなので、甘んじて受けて


「って痛え!? 今本気で尻蹴ったのどいつだー!?」


 ――とまあ、これが今の俺の日常である。

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