第2話 転生(2)

 その後も、色々なことがあった。


 空腹になり、声を上げると、二本足が走ってきて、胸の一部を咥えさせられた。

 出てきた液体を飲んでいると、空腹がなくなった。


 体が大きい方の二本足が顔の前に近づいてきて、手を小さく振ったり、顔を隠してまた出してを繰り返したりと、わけのわからないことをやり出した。

 不快だったので、また声を上げたら、もう一方の二本足がやはり走ってきて、大声を出した。なぜか、体の大きい二本足が何度も頭を下げている。本当にわけがわからない。


 また別の時には、二本足に抱えられて、どこかに向かった。


 そこには、他にも二本足がたくさんいて、そして今の自分とそっくりな形をしたモノがいた。そいつも二本足に抱えられていた。


 そうしてしばらく時間が経って、いくつかわかったことがある。


 どうやら今の自分は、この二本足のモノと同じモノに変わっているらしい。

 動くモノには、大きいモノと別に、小さく弱いモノがいるのは知っている。その小さい方になっているのだろう。


 それと、最初に見た二つの二本足は、こちらを害する気がないようだ。

 むしろ、自分を守っている気がする。

 前に、いつもはすぐに逃げ出す動くモノが、連れている小さいモノを守るために攻撃してきたことがあった。あれと似た行動なのかもしれない。


 守られ、飲むものを与えられ、やっぱりわけのわからないことをさせられ、日が進む。




 始めは霞んでいた視界が、だんだんとはっきりしてきた。

 白黒だったモノに、色があるのがわかった。

 木と同じ色、草と同じ色、空に似た色、火に似た色、見たことのない色。

 こんなにたくさんの色を見たのは初めてだ。




 二つの二本足の姿も、細かく見えるようになった。

 いつも白い飲み物をくれる柔らかい方は、頭の毛が長い。目が大きくて、少し垂れ下がっている。

 もう一方の二本足は、体が大きい分、皮も肉も固そうだ。頬に傷跡があるのがわかる。

 いままで二本足の姿や顔の違いなど気にしていなかったが、今はすごく違って見える。




 自分だけでは動けなかったが、少しずつ、体を起こせるようになった。

 何度も崩れながら、ようやく手と足を地面について歩けるようになった。

 見ていた二本足が、手を叩いて声を上げていた。




「ほら~、パパだよ~。言ってごらん~」


 二本足が何かを言っている。何を言っているのかは、相変わらずわからない。けど、いつまでも言い続けている。


 あまりにしつこいので、追い払おうと「ぱー、まー」と声を出すと、


「っ!? 今、パパって言った! 言ったよね!?」

「違うわよ! ママよ! 絶対にママ!」


 二本足同士が、大声で何か言い合いを始めた。本当に、よくわからない。




 歯が生えてきた。やっぱり前のような鋭い牙ではない。

 けど、ちょっとずつ色々な物を食べられるようになってきて、嬉しい。




 少しずつだけど、二本足の言っていることがわかるようになってきた。

 この二本足で動くモノは、「人」と言うらしい。

 人は、色んな物に名前という呼び方をつけているが、自分にも名前があるようで、


「ちーぐーうー」

「チグウじゃない、ティグル。お前の名前はティグル。うーん、やっぱりもっと言いやすい名前の方が良かったかなぁ……?」

「焦らなくても、そのうち言えるようになるって」


 自分に名前を言わせようとする「お父さん」に、「お母さん」が笑っている。

 この二人は「お父さん」と「お母さん」の他にも、名前があるらしい。なぜ二つも名前があるのか。まだまだわからないことは多い。




 体が大きくなり、だんだん手と足を突いてでは歩きにくくなってきた。

 仕方ないので、お父さんたちがやっているように二本足で立ってみた。最初はふらついたが、頑張れば一人で立っていられるようになった。

 歩こうとして、転んだ。お父さんたちに手を引いてもらって一歩、一歩、毎日ちょっとずつ頑張って、ついに一人で歩けるようになった。

 お母さんとお父さんが抱き合って飛び上がった。大喜びだ。

 自分のことではないのに、なんでそんなに嬉しいのだろう。でも、自分も嬉しくなって、一緒に飛び上がった。そして転んだ。




 それから、少しずつ、けど毎日何かが変わりながら、どんどん時間が過ぎ――

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