第3話 発進! シャングリラ号
僕の言葉に反応したのか、目の前に淡く発光する板が現れた。
テーブルほどもある大きさで、文字や船の絵が書き付けてある。
この絵は小さな手漕ぎボート?
名前 レニー・カガミ
年齢 13歳
MP 180
職業 船長(Lv.1)
走行距離 0キロ
所有船舶 ローボート(手漕ぎボート)全長2.95メートル 全幅1.45メートル 定員2名
22:24
これが僕のステータス?
職業が船長になっているけど、僕の本当の力って船に乗ることなの?
でもステータス画面を開いた瞬間に頭の中に情報が流れ込み、船の扱い方などが分かるようになっている。
まるで昔から船に乗ってきたみたいな感覚だ。
一番下にある数字の羅列は時刻を表しているようで、これはとっても便利な機能だった。
神殿の鐘に頼ることなく正確な時間がわかるというのはすごいことだ。
翌朝、日が昇るのと同時に家を飛び出してセミッタ川までやってきた。
一刻も早くローボートを浮かべてみたかったのだ。
セミッタ川はゆったりとした流れの大河で、いつも運搬船や漁船が行き来している。
ミーナさんもこの川の船便を使ってミラルダからここまでやってきたと言っていた。
僕も自分のボートを手に入れたからにはさっそく使うつもりでいる。
ミラルダの町は川下にあるから漕ぐのが大変ということもないだろう。
僕の船は「召喚」の呪文で現れ、「送還」の呪文で送り返すことができる。
ついにこの時がやってきた。
大きく深呼吸をしてから、誰もいない早朝の川べりで僕は呪文を唱えた。
「召喚、ローボート」
それは静かに現れた。
まるでずっとそこにあったかのように、川の淵に白いボートがぷかりぷかりと浮いている。
小さな波を受けてぱちゃぱちゃと水音を立てている様子は、まるで僕に早く乗れと誘っているかのようだ。
ロープでつながれていないのに船は流されることもなく岸辺にとどまったままだ。
これも僕の能力の一つで、自分のボートが見える範囲にある場合は呼び寄せることができるのだ。
「すごい……。本当に船を召喚出来た!」
疑っていたわけじゃないけど、実際にこの目で確かめるまでは不安だったのだ。
僕は嬉々としてミーナさんに渡す鍋と着替えなどが入った鞄を積み込んだ。
ミラルダの町までは40キロあるので、街道を歩けば丸一日かかってしまう。
でも船なら5時間くらいでつけるだろう。
船長としての最初の仕事は船に名前を付けることだった。
しばらく思案して僕は決めた。
この船の名前はシャングリラ号だ。
じいちゃんのおとぎ話にでてきた理想郷から名前を貰った。
カッコいい名前のわりに船は小さいけど、そんなことは気にしない。
これは僕とともに成長する船だ。
いつか名前にふさわしい立派な船になるはずだ。
「よし、シャングリラ号、出発進行!」
掛け声も勇ましく、僕は大河へと乗り出した。
のんびりとオールを漕ぎながらミラルダの町へと向かう。
川の両岸からは朝の早い漁師の船が何艘も出航しだしている。
しまった、僕も釣竿を持ってくればよかったと後悔した。
セミッタ川にはアユーリやカプッタなどの魚がいっぱいいる。
いざとなればそれを釣って食料にすることだって可能だ。
レベルが上がると船自体がグレードアップするだけじゃなくて、様々なオプションもつけられるとステータス画面に書いてあった。
大きな船ならキッチンをつけられるし、こんなボートでもグリル台くらいなら設置できるだろう。
あればお湯を沸かせるし、簡単な調理だってできる。
もちろんオプションはそれだけじゃなくて、様々な魔道具や武装なんかもつけられるようだ。
村を出てから2時間たったころ頭の中に不思議な声が響いた。
(レベルが上がりました)
もう!?
すぐにステータス画面で確認してみた。
名前 レニー・カガミ
年齢 13歳
MP 240
職業 船長(Lv.2)
走行距離 10キロ
所有船舶 ローボート(手漕ぎボート)全長295センクル 全幅145センクル 定員2名
レベルアップにより船にオプションがつけられます。
a. 魔導エンジン 4馬力の船外機(およそ60MPで1時間の運用が可能)
b.セール(帆) 樹脂製のセール
帆のついた船というのはどこにでもある。
現に今だって多くの船が帆を上げて川を渡っていた。
でも魔導エンジンというのは聞いたことがない。
ただそれがどういう装置で、どのようにして扱うかは能力のおかげでわかっている。
僕は迷わずにaの魔導エンジンを選択した。
途端に船の後方に小型の船外機が取り付けられた。
これに魔力を送ればスクリューが回転して推進力を得られるのだ。
エネルギーの供給は僕のMPを直接送るか、魔力の結晶である魔石をセットすればいい。
魔石は魔物からとれるので街でも普通に販売されている。
余裕があったら買ってみるのもいいだろう。
エネルギーチャージは最大で200MPだったので、僕は自分の魔力でエネルギータンクを満たした。
「よし、エンジン起動」
魔導エンジンを動かすとブーンという低い振動音が響きだした。
船外機から伸びている操作レバーについたスロットルを少しずつ手前にひねっていく。
するとスクリューが回転しだし、ボートは徐々にスピードを上げ始めた。
「おお! 快適ぃ~」
嬉しさについ独り言が漏れてしまう。
スピードは今までのおよそ3倍近くは出ている感じだ。
なんと言っても自分で漕がなくていいのが楽でいい。
これなら遡上するときだって座っているだけですむ。
帆を使った船と違い、風の影響も受けないですむ。
気分よくボートを操りさらに1時間が過ぎた頃、再びあの声が聞こえてきた。
(レベルが上がりました)
名前 レニー・カガミ
年齢 13歳
MP 280
職業 船長(Lv.3)
走行距離 20キロ
所有船舶 ローボート(手漕ぎボート)全長295センクル 全幅145センクル 定員2名
魔導エンジン 2馬力の船外機 魔力チャージ200MP
レベルアップにより船にオプションがつけられます。
a. 魔導エンジン 6馬力の船外機(およそ100MPで1時間の運用が可能)魔力チャージ250MP
b.ボートカバー+専用クッション付きチェア
aはエンジンのパワーアップでbはカバーと椅子か……。
雨が降れば当然カバーは必要なんだけど、空は青く澄み渡り、穏やかな春風が吹いている。
やっぱり男の子としてはパワーアップを目指すよね!
僕は今回も魔導エンジンを選択した。
スキルボードの画面をタッチした瞬間にエンジンが入れ替わる。
4馬力のものより若干大きくなったようだ。
「さっそく試してみるかな。シャングリラ号、発進!」
スロットルを解放していくと、スピードはずっと速くなっていた。
倍とまではいかないけれど、これならあと2時間もかからないうちにミラルダへついてしまうぞ!
走行距離10キロでレベルが2に上がり、20キロで3に上がったな。
次は30キロか20の倍数である40キロのどちらかで上がるような気がする。
ミラルダの町まではおよそ40キロあるから、いずれにせよ今日中にもう一つレベルは上がるだろう。
漁船や貨物船を軽快に追い越しながら、僕は気持ちよく鼻唄を歌っていた。
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