いざっ、ママ友会へ!

 何の収穫もない平日があっという間に過ぎ去り、凛がママ友会に参加する日になった。

 当日は梅雨にしては比較的よい天気で、雨の予報はなかった。日差しも強くなく、気温的には過ごしやすいが、湿度が高いから熱中症に注意が必要だ。

 凛の人生初のママ友会の舞台に選ばれたのは、広大な敷地を有する自然公園。その広さを生かして、科学館や美術館なども併設されている。基本的には公園内の遊具やアスレチック、水場などで遊ぶ予定だが、急な雨や気温上昇があった場合は科学館に避難がてら、遊ぶこともできるという2段構え、さすがママさんたちの集まり、用意周到だ。


 郊外にあるため、歩いていくわけにはいかない距離なので、各家庭で車を出して家族単位で移動する。参加するのは凛の一家を含めて4家族。それぞれの内訳は以下の通りだ。


 1つ目は加賀美家。

 お母さんの瑠璃るりさんとその息子の隼人はやとくんが参加するらしい。

 以前、カンガルー怪人になった彼女のことだ。今日、旦那さんはおうちの用事を済ます為に不参加とのこと。無事にワンオペ育児からの脱却を図っている様でいい傾向だ。他人事ながら嬉しく思う。


 2つ目は平山家。

 お母さんの麻里さん、旦那さんと智希ともきさん、そして年長の健太けんたくんと、年少の康太くんの4人で参加。今回のママ友会の幹事的な存在で、瑠璃さん曰く、麻里さんがこの会のリーダーで所謂キラキラママということだが…キラキラママってなんだろう?まぁ、とりあえず置いておこう。


 3つ目は井上家。

 お母さんのさきさん、年中の咲良さくらちゃんの2人で参加。旦那さんは家事、育児に非常に協力的で非常に羨ましいとのことだ(瑠璃さん談)。今日もママさんのリフレッシュのためにお家のこと一手に引き受けてくれたらしい。こういう家庭が増えて行くと少子化に多少なりとも改善が起こるのではなかろうかと思うが、そう簡単にはいかないんだろう…。


 最後は相馬家。

 凛と悠人、ゆきちゃんの3人で参加する。

 凛は今日のことをとても楽しみにしていたようで、朝から5時に起きてお弁当とおやつ用のクッキーを作ったりと、とてつもない張り切りようだった。悠人は荷物持ち兼、ママさんたちのおしゃべり中の子守りのサポート役として、参加している。ゆきちゃんはチャイルドシートに座っているのに飽きてきたのか、僕の尻尾を握ったまま、少しうとうとし始めている。


 そんな大人6人と未就学児5人と魔獣1匹のママ友会が今始まる!


 =====


「今日はよろしくお願いします」

「ましゅ!」

 相馬家はこのママ友会(仮に平山会としておこう)に初参加ということもあり、全員が集まった時に自己紹介をした。

 ゆきちゃんもしっかりと挨拶をしていた。今回参加している子供の中で一番幼いのによくできた子だ…。

 皆、お互いの紹介を軽くして、歓迎ムードで和気藹々とおしゃべりを始めた。しかし、子供たちはもう遊びたいようで、ソワソワウズウズしていたので、駐車場から一番近い遊具広場に移動することとなった。


 本日の予定は

 10時集合からのお遊び

 12時ごろお昼

 お昼食べ次第順次解散

 というものだ。


 子供たちの年齢にばらつきがあり、生活リズムも幼稚園や保育園に通っているかどうかで変わってくるので、そこは各家庭臨機応変に対応するというスタイルのようだ。


 ちなみに僕はというと、魔法で姿を見えないようにしている。そもそも、僕がこの平山会についてきた理由は、パートナー探しのためだ。会場となったここは、今まで検討していない地域だった上、お休みの公園。人は多いはず、そうすれば相対的に僕のパートナーにふさわしい人物もきっと見つかるはずだ、と考えての行動だ。凛には事前に伝えておいたので、今日、僕は自由行動をさせてもらう。


 まずは、平山会のメンバーに候補がいるかだが…、残念ながらいないようだ。リーダーの麻里さんも、気弱そうな咲さんも、これといって魔力を感じない。唯一、カンガルーになった経験を持つ瑠璃さんには、わずかに魔力を感じるが、僕の波長には合わない。やはりそう簡単にはいかないか…。

 しかし、まだ捜索は始まったばかり、切り替えていこうと貴重な魔力を消費して、広い範囲を探知するため上空へ一気に登る。

 きっと側から見たら僕は今、苦虫を噛み潰したような表情をしているのだろう。


 僕ら魔獣は魔獣界から外に出ると魔力を自給自足しなくてはならない。

 その手段としては3つある。

 一つは、パートナーの魔力をもらうこと。

 二つは、休息をとることで世界から魔力を吸収すること。

 三つ目は、食事をとることで生命からの魔力を頂くこと。

 上から順に魔力の回復量が多くなるのだが、今の僕には三つ目の方法しか許されていない。パートナーがいないことは言わずもがな、僕の魔力は如何せん地球のそれと相性が悪く、休息を取っても本来の3分の1程度しか回復することができない。

 魔力が尽きる=死…。とまでは言わないが、パートナーを魔法少女に変身させることができなくなるため、間接的に世界の危機につながる。

 パートナーが見つかるまでは魔力の消費を最小限にしなくてはならないのに、パートナーを探すために魔力が必要なこの状況に苦しみつつ、眼下の公園の人々を見る。もしかしたらこの中にパートナーが見つかるかもしれない…。


 —うぅ…スキャンっ!


 ここ1週間分の食事から得た魔力を使い、公園全体の魔力の調査をする。

 一番近く、強力なのはもちろん凛のもの。あとは凛の5分の1ほどの魔力の反応が公園の水場と、美術館の中に確認できた。凛の魔力が破格なだけで、これでも充分なパワーと言える。あとは僕の波長と合うかどうかだが…。こればかりは、近づいて見ないと確認できない。もう少し弱い魔力の持ち主もちらほらいるが、これは数が多すぎる。水場と美術館にターゲットを絞り、それ以外は近くや、通りがかりで波長が合うかどうかだけ確かめていけばいいだろう。

 というわけで、僕はまず水場の方に進路を定め、パートナー候補の確認に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る