出会い②

「えーと?つまり君は世界を繋ぐ扉の管理人の魔獣で、この世界を守る存在を探しているって事でオーケー?」

 神妙な面持ちでおにぎりを片手に僕に問いかける相馬 そうま りん


 凛はその名前を体現するように、凛々しくも優しい雰囲気の女性だ。

 セミロングほどの黒髪は邪魔にならないようにポニーテールにまとめていて、公園遊び用に動きやすいジーンズに白いTシャツ。その上に、薄辛子色のパーカーを羽織っている。

 晩婚化が進み高齢出産が多くなっている現在の日本では比較的若いお母さんという感じがする。


 僕はそんな彼女を真っ直ぐ見つめながら、自信たっぷりに頷く。

「まったくもってその通りだよ!」

「うん、なるほど分からん!」


 僕らは今、凛の持参したポップアップテントの中でお昼ご飯を食べている。

 お弁当の中身はハンバーグ、ミニトマトとブロッコリー、かぼちゃの煮物、おにぎりと至ってシンプルだが、とてもおいしそうだ。


 魔獣である僕は魔力をエネルギー源にしていて、本来は食べ物は必要ないのだが、味覚もあり、食べることはできるのでありがたく頂戴している。初めて食べたけど、甘い卵焼きって美味しいんだね。


 凛の娘のゆきちゃんも、もひもひと卵焼きを頬張っている。子供の食べる姿っていうのはなんでこんなに可愛いのだろうか?小さいお口がもぐもぐ動いている様が、かわいいってことかな?…にしてもさっきからかぼちゃ、卵焼きと甘い味付けのものしか食べてないような…。


 ゆきちゃんは紺色の7分丈のレギンスにピンク色のTシャツ。その背中にはデカデカと達筆な文字で"じゃじゃ馬娘"と書かれている。もしも、以前のように子守を頼まれたら苦労するのかもしれない…。


 おっと、思考が逸れた。


「まぁ、そんなにすぐには納得してもらえないよね…。でも君には素質がある!なんたって僕の魔法を見破ったんだから!だから、ぜひ!僕のパートナーに!」


 そう、僕は今、凛のことを絶賛スカウト中なのだ。

 僕の魔法は魔獣仲間の中でも、なかなか上位に位置付けられるもので、一地球人に簡単に見破られるものではないはずだったのだ。

 それをいとも簡単に…。


 凛にどんな力が眠っているのかまだ分からないが、非常に強い魔力を持っていることは間違いない。是非とも、僕のパートナーになってもらいたい。


 ゆきちゃんにゆかりご飯のおにぎりを食べさせながら、凛は僕に問いかける。

「魔法の素質ね…。物理的な力ならまだしも、私にそんなのなさそうだけど…。ところで、魔獣?とやらの君はなんでこんなとこにいたの?木の上でのんびりしてそうだったけど…?」


 —?なんでだっけ…。


「あ、そうだ!昨日この辺りで僕の波長に共鳴する強い魔力を感じたんだ。それでその持ち主を探していたんだよ」


 そうだった。そうだった。魔法見破られた衝撃ですっかり忘れていた。


「そっか、よかった。なら悪いけど、私じゃなくてその人にお願いしてもらってもいいかな?」

 おにぎりを美味しそうに頬張るゆきちゃんを眺めてから僕の方を見て、凛は少し申し訳なさそうに答える。

「でも…」

「私、見ての通り子育て中で、世界の世話を焼けるほど余裕ないんだ…ごめんね」


 凛は優しい人なんだろう。こんな正体不明な喋る猫のことを一人格として扱ってくれるのだから…。今まで声をかけた人たちは僕のことを雑にあしらうことが多かった。もちろん子育て中の忙しい時に声をかけた僕にも非はあるのだか、子守を不躾に任せてきたり、子どもが乱暴しているのに気がついてもスルーしたり…。

 それに対して凛は、余裕があるのか僕にお弁当を勧めてくれたり、きっちりと話を聞いてくれたりととても優しく扱ってくれている。

 本当ならばこういう綺麗な心を持った人物とパートナーになりたいところだが…仕方がない。一応まだ候補はいる。


「わかったよ…子育ては命を育てること大変な仕事だもんね…」

 そう僕がしょんぼりしながら答えると、凛は困ったような表情になった。


 ゆきちゃんはおにぎりを食べ終わり、デザートのバナナの皮を剥いている。テントの中にはバナナの香りが広がる。バナナはまだ食べたことはないけど、これまで見てきた大抵の子供が好きだった魅惑の果物だ。いつか食べてみたいものだ。


「そんなにしょげないでよ…。あ、そうだ!もしよかったら、君が探していた人を探すお手伝いくらいならするよ。猫が人を探すのは大変でしょう?」

 凛は僕の頭をふんわりと撫でながら、とても嬉しい提案をしてくれた。


「本当かい?」

「もちろん!世界を救うお手伝いはできない代わりに、このくらいやって当然だよ!」

 凛は、ゆきちゃんのバナナの残る手を拭きながら、優しく微笑んでいた。


 —やっぱり僕のパートナーはこういう優しい人がいいな…。


 手を拭かれ終わったゆきちゃんも、ニコニコ笑顔で僕の頭をなでなでしてくれた。

 柔らかな掌が温かく安心する。凛の協力があれば、きっと昨日の魔力の持ち主もすぐ見つかるだろう。


「すごく助かる、ありがとう。ぜひお願いするよ!」


 見た目的には僕が凛にお手をした感じになってしまったが、僕らはしっかりと握手をして、協力を誓い合った。


「ところで、その魔力の持ち主に当てはあるの?」

 お弁当を片付けをしていた手を止めた凛は、当然の疑問を尋ねた。捜索の準備を思案し始めたのだから当たり前だ。

 そんな疑問に僕は自信満々に答える。

「いや、全く持って情報皆無だよ!」

 凛はとても不安そうな顔になった気がするが、きっと気のせいだろう。

 ゆきちゃんはお砂場セットを持って、ウキウキしている。


 さてさて、こんな3人パーティで本当にパートナーは見つかるのだろうか…?

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