第4話 神を名乗る男(4)
坂をあがり少し進むと、あっという間に獣道に入った。五人は足元に注意しながら、道を進んでいた。娜を先頭にし、その後ろに天明、スイ、張景が続き、殿をウーが歩く。
スイは唯一、片手に小型の複合弓を持って警戒をしていた。大型の獣は仕留められないけど非常用に、と本人は笑っていたが、ワイヤーや鉄の滑車で威力が強化されているのは、張景の目から見ても明らかだ。
どことなく天明が落ち着かない様子で何度か後ろを見ていたが、後でスイが「いつもオレの後ろにいるから、前に来て落ち着かないんだろう」と教えてくれた。
「張さん、この辺は初めてだろう?歩き辛くはないか?」
「い、いえ。確かにこういう山奥へはあまり入りませんが、岩山にはよく登りますから、足場が悪いのには慣れてます」
「それはよかった!さすが道士様ですな!」
ウーは軽快に笑って、軽く張景の肩を叩いた。本人はきっと、かなり軽く触れたに違いないが、張景にとっては中々の力強さで、思わず呻いてしまいそうなぐらいだった。
「ウーさんウーさん。力強いんだから、あまり叩くと景くんぶっ倒れるよ?」
「はっはっ、これは失敬!」
「はは……」
張景は、この手のタイプの人間はあまり得意ではない。嫌いではないのだが、どう言葉を返したらいいかわからず、適当に笑うしかなかった。
「そういえばスイ君。張様は猟の内容を伝えて無かったようですが、私から説明しても?」
「ああ、そうだった。娜さんお願いします」
娜はこほんとひとつ咳払いをした。
「今回仕掛けているのは、くくり罠です。罠の上を獲物が通ると、縄が巻きついて獲物を捕らえるタイプのものですね。素早い獲物だと失敗することもありますが、檻型やトラバサミと違い、作りやすく設置もしやすいです」
「獲物って、どういったものがかかるんですか?」
「主に鹿や兎、野猪などです。それと、次に多いのが…」
「シッ!何かいるぞ!」
ウーの一声に、列がぴたりと止まった。その声より僅かに早く気付いたらしく、天明が立ち止まり、スイが背中にぶつかりそうになった。
「……罠に、なにかかかってるな」
先頭の娜が、ウーを見て頷くと、慎重に獣道を進んだ。その先には、他のものよりやや大きめの木と、その足元にじたばたと動く動物の姿があった。
緑色の美しい冠羽に横から挟まれたかのような平たい首、見た目はやや大きめのオシドリに近い鳥だ。しかし一点、関節こそ鳥のそれではあるが、形はびっしりと羽毛のついた人間の脚に近いように見えた。
「うへぁ」
「わかる。足の辺り気持ち悪いよな……」
思わず変な声を上げた張景に、スイがうんうんと頷いた。
「こいつぁ、鵹鶘(リコ)って言ってな、見た目の通り妖獣の一種だ。リコー、リコー、って鳴くからそう呼ばれてるんだが、悪さはせんから安心してくだせえや」
「張様。ご覧の通り、たまに妖獣もかかるのです。中には薬になるものもいるのですが、これは……リリースですね」
「ああ、食えんし数も多くはないしな。天明さん、手伝ってはくれんか」
ウーの言葉にスイが天明をせっつくと、天明はゆっくりと鵹鶘の前まで行くと腰を下ろした。鵹鶘は生き物の気配を感じて暴れてはいたが、天明が近づくにつれて徐々に静かになり、天明に胴を押さえられても抵抗しなくなるまでになった。
そこにウーが近付き、手慣れた手つきで罠を外す。足首の縄が綺麗に外れたらその場から離れ、ある程度距離を取ったところで合図をすると、天明が腕を離した。途端、鵹鶘は急いで起き上がり、こちらに目もくれず茂みの向こうへと姿を消した。
「天明はな、獣に襲われない体質なんだ」
ちらりとスイが振り返り、張景に話しかけた。
「体質、ですか?」
「雲中子の話だと、理由はわからないけど『ちょっかい出したらやばい生き物』に見えるんだと。たまに例外はあるけど。で、ウーさんは徳?の高い人だから、理由は違えど普通の獣なら食おうとしないから、とりあえず二人から離れなければ安心だぞ」
「最強じゃないですか……。僕らがいる意味あるんですか」
「僕らって、オレも入ってる?もしかして」
「割と……」
「うう、オレも経験はあるんだけど……」
しょんぼりするスイをよそに、張景は罠を撤去する様を興味深そうに見学に向かった。
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