第4話 神を名乗る男(3)


 保護センターと里を繋ぐ道。未舗装のこの道は、保護センターまでの大きな道の途中にいくつか分岐がある。

 張景達が今回行く山は、里から見て手前側にある。里を出て少し行くと桃源郷一大きいと言われる百尺岩がある。そのすぐ横の分岐を曲がり、三十分ほど歩くと森林に入り、急な坂道が見えてくる。これが山の入口だ。張景が修行している逆さ氷柱のような岩山ではなく、木々生茂るありふれた山である。

「景くん、こちらはウーさん。里の長をやってる。こっちのお姉さんは娜(ナー)さん。二人ともベテランだぞ」

「ええと、張景です。よろしくお願いします」

 軽く頭を下げると、張景は紹介された二人に交互に視線を移した。

 ウーと紹介された男は、身長二メートルは越えていそうな四十代半ばほどの大男だ。その身長に見合う筋骨隆々の身体は、猟師というよりは格闘家ではないかという風貌だ。

 しかしそれに対して表情ははちきれんばかりの爽やかな笑顔を見せている。少し伸びたちょび髭が、やたら印象に残る。

 その隣のナーと呼ばれた女性は、二十代後半ぐらいだろうか。長い髪を一つに束ねて、黄色い帽子と上着を着ている。これはウーも同じで、おそらく狩猟用のユニフォームなのだろう。

 きりりとした顔つきが凛々しく美しいが、真っ直ぐな姿勢から見るにかなり体格が良いことは、素人の張景が見ても明らかだった。よく見てみると、近くにいるスイよりも身長が高い。

「その、こういうのは初めてなんですが、僕みたいな素人がお邪魔してもいいものなんでしょうか?」

「はっはっは!張さん、心配には及びませんよ。今日は追いかけ回すような猟はしませんから!」

「今回は罠の見回りなんです。設置中は毎日何人かで見回るようにしているんですが、今日は都合がつかなくて。道士様が来ると聞いて、こちらも心強いです。よろしくお願いしますね、張様」

「は、はは……」

 ナーからの眼差しに張景は若干たじろいだ。道士・張景。絶賛スランプ中である。

「……ごめん、デリケートな問題だし、景くんの事情は話してないんだ」

 スイは、準備を始める二人から離れると、静かに張景の元へ近づくと、申し訳なさそうにそっと耳打ちした。

「気遣いはありがたいですが、かなりプレッシャーになってます……」

「し、心配するなって!天明もいるし、いざとなったら……」

「いざとなったら?」

「……オレが囮なりなんなりするから」

「なんでスイさんは、そう自ら死にに行こうとするんですか……」

 冗談冗談、と笑いながら肩を叩くスイに、張景は深いため息をつくしかなかった。

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