第3話 はじめての夜勤(1)

「……スイの、弟?」

 天明が放った言葉は、即座に張景を硬直させた。あまりにも唐突だが、的確。しかし張景は分からなかった。わからなさすぎて、数秒ほど言葉が出なかった。

「な、な、なな、な、なんで!?」

「似ている、から」

 混乱する張景とは対照的に、天明の表情はとても涼やかである。むしろ『見たらわかるのに?』とでも言いたげなようにも見えた。

「あれ?景くん。こんばんは、今日はやたら会うな」

 背後からの声に張景の肩はびくっと跳ねた。恐る恐る振り返ると案の定、シャワールームからスイが出てきたところであった。

「……おかえり」

「おう、ただいま。景くんに構って貰ったのか。景くん、ありがとう」

「い、いえ、ちょっと話しただけなので……」

 気が気でない張景の様子を、スイは不思議そうに見ていたが、天明が立ち上がるとにこりと笑いかけた。

「景くんは仙境に帰るんだったっけ。暗いから、気をつけてな。おやすみ」

「ああ、はい。おやすみなさい……って、天明さんちょっと待ったぁ!」

 去ろうとする二人を慌てて引き止めると、驚いたスイが振り返った。天明も少し遅れて振り返るが、こちらは変わらず無表情だ。

「……ええと、さっきの話、内緒で。内緒でお願いします!シー、で!」

 天明は少し考えるように視線を泳がせると、言葉を理解したのかコクリと頷き、人差し指を口に当てた。張景はそれを見てこくこくと何度も頷き返した。

「え?なに、二人とも。そんな秘密事するほど仲良くなったのか?」

「…………シー」

 スイは交互に二人に目を配らせると、いたく感激した様子で、張景の手をぎゅっと掴んできた。

「景くん。少々、いやかなり変わった奴だけど、よかったらこれからも仲良くしてやってくれ」

「は、はい……。えっと、こちらこそ」

 期待の眼差しを向けるスイに、張景は安堵した反面妙なプレッシャーを感じ、とりあえず笑うしかなかった。

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