第二部 前編③ 俺と彼女の雨模様


 「えぇぇぇ!!!」


 そんな俺らを驚愕させた田中のデッサンは…


『全員』


 白いキャンパスボードにその2文字が大きく書かれていた。


 どういうことなんだ…。正直、自分の頭は追いついていなかった。


「ふっふっふっ、俺の好きな人は全員だ!!俺の周りの人に嫌いな奴なんて1人もいない!皆んな優しくて面白くて…最っっ高の友達だ!!」


  とてつもないドヤ顔で俺ら3人自分のデッサンを見せた。

  

 どうして…こうなるんだ! 


 デッサンのはずが異色の文字を書いている事実でもお腹いっぱいなのに、この鈍感主人公の鈍感さは留まることを知らなかった。


 「御門先輩!先輩はいつもふわふわしてて、たまに俺のことからかってくるけど、そんな天使みたいな笑顔が可愛くて、俺が困ってる時はいつも助けてくれて。そういうこと本当に大好きです!」


 「ちょっと…なに急に改まっちゃって、やめてよ…そんなこと言われたら…///」


 「本庄!なんかいつも俺にキレてて、たまに意味わかんないこと言うし、正直うんざりする時もあるけど、そんな面白いお前を見ていつも元気を貰ってるし。なにより、デッサンに集中して取り組んでる時のお前の生き生きとした楽しそうな顔は本当に魅力的だと思う。そんな本庄が好きだ!」


  「だ、だからなによ!///」


まるで好きな人に告白されたかの如く、彼女達は超デレデレな顔を手で隠していた。


 そんな彼女達をみているとこちらまで恥ずかしくなっていた。


 それにしても本庄そんなに壁にガンガン頭を叩いたら…


  あ…血がっ……


 彼の言葉はまるでハーレム漫画の主人公の様に2人に物理的大ダメージを与えていた。


 神様……なんでこうなるのでしょうか?本人が鈍感すぎますよ。もしかして鈍感さを生まれる前に注ぎすぎましたか?


  「どうしたんだ?2人とも…大丈夫か?」


 田中は本当に理解していないのだろう頬を掻きながら頭の上には、はてなマークが浮かんでいた。


 この、にぶちん!!


 「まぁ、とにかくこれが俺のデッサンだ!で、駿のはどんなやつなんだ?」


  そうだった俺にはまだ秘策があった。

 しかしこれは計算外の時に想定していた作戦で、自分も深傷を負ってしまうというそうとう過酷なものであった。


 しかし、これは緊急事態…しょうがない田中見せてやる!


 そんな俺の最終奥義とは…


  「!?駿……これって……俺じゃないか!!」


 ブヒブヒしていた2人が "ふっ" と我に返り

こちらをじっと見つめている。


 そこには田中の似顔絵が描かれていた。


 どうだ田中よ!これが俺の答えだ!


その名も……


  『高木と田中実はボーイズラブだった作戦!!』


 「そうだ!春!俺はお前が大好きだぁぁあ!!」


 俺の声は美術室中に響き渡った。


 これで、俺は明日からホモホモサピエンス…

でも田中、晴れてお前もホモ・サピエンスだ。


 しかし彼女たちの反応は期待してたのとは全く違うものだった…


 「そんなことさせないよぉ〜!春くんは私のものだもん!」


 「た、田中は絶対にアンタみたいなホモに渡さないんだから!!」


 ……あれ?


 次の瞬間、彼女達はまるで食料を渡さない狼のように田中の両腕を掴み、威嚇するように俺を睨んできた


 「ちょっ、2人ともやめろよ!恥ずかしいだろ!」


 (ちょっ、2人ともやめろよ!む、胸があってるだろ!)  

 

  が本音だな…なんて妬ましい奴だ!


 俺の予想では「え、春くん…そっち?」とか「田中、見損なったわ…」とかだったのに…。


 そんな2人を振り払った田中は、優しい顔をしながら立ち尽くしている俺に近づいてきた。


 な、なんだ。なにをするつもりだ…。

 


 「駿…俺、男には興味ないんだ。今まで気づかなくてごめんな。でも友達としては大好きだ!これからもよろしく頼むよ!」


 oh……。


俺はそのまま倒れ込み…田中にKO負けしてしまった。


    

  『俺は全部、わかってる!!!』


のだろうか?


**********


 あの日から810とかホモビ!とか言われ続けてる。しかも、なぜかデッサン勝負も田中の勝利で終わった。


 そんなことを考えていると 

俺の心は明らかに落ち込んでいた。


 あー明日の学校も行きたくない…。校舎、爆発しないかな。


 まぁこんなことを気にしててもしょうがないか…。次は絶対に撲滅を約束する!


「よっし!!頑張るぞ!!」


 

        (ブーーブーー。)


 気を取り直して机に向かいテキスト宿題をしようとした時、俺に1本の電話がかかってきた。


 どうしたんだろうこんな夜中に…また夏芽の恋愛相談?

 

 机まで歩き、スマホを手に取ると名前の表記は"夏芽"と書かれていた。


 俺は「またなんかあったの?」といつものように聞いてみると…


「駿ちゃん、あのね…」


 いつもとは違ったトーンということはすぐに気づいた。


 「どうしたの?」


 そして彼女はこう告げた


「実は…ストーカーされてるの。私、怖くって。」


 

 「え……?」


 

 その声は今にも消えそうなくらい小さなものだった


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺は全部、わかっている!!! ゼンサイ @zensai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る