第二部 前編① 俺と彼女の雨模様

決意を決めてから1ヶ月が経とうとしていた。


 7月中旬



 「やばい、もうすぐ夏休みだ…」


 辺りの木々は6月よりも更に緑の色が増し、週に3日はあったであろう雨の日も少なくなり、太陽の眩しい日照りはそろそろ夏のように眩しくなって来ていた。


 「このままじゃ復讐どころか…今まで通り助けてることになってる!」


 決意を決めてからこの1ヶ月…特に作戦が成功した様子は無く、焦りを感じた俺は自室のベットの上で枕に向かい悶絶していた。


 「ちょっと!あんた!うるさいわよ! もう少し静かにしなさい!!」


 うぅ…そんなにうるさかったのか。

母の罵声が二階の俺の部屋まで聞こえてきたが、今はそんなことを気にしている心の余裕はなかった。

でも、そんな状況でさえも

 

 聞こえてくる……。


野菜が、お肉が、色あせてく音が…。


 「はぁあ……い」


 聞きたくもない音を聴いた俺のトーンはあからさまに低かった。


いや、低くなるしかなかった……。


 「それと、今日はサラダとスパゲティよ!」


 「うぁ#ぁa&あん!?」


 俺はもう返事どころではなくなっていた。


 ベッドの上でうつ伏せになりつつ何もない時間がただただ流れていく。


 「はぁーあ…よし!作戦考えますか」


 しかし、そんな母のおかげで気が一転出来たのは確かであり、開き直った俺はもう1度考え直してみることにした。

 

 色々、慎重に着実に復讐はしてきたはず。割と自分でも上手くいくと思っていたのに、何がいけなかったのだろうか。


 俺は仰向けになりながら天井の電灯を見つめていた。考えれば考えるほど……


 なにより1番気がかりなのは夏休みに入ってしまうということだ。夏休みが始まるともちろん学校は休みになる。そのかわり部活としてはかなり活動期間が増え、部活としての総力を上げるのにはとてもいい期間である。


 サッカー部も更に強くなるために今よりもキツい練習が始まる… 。その間に、夏芽はバドミントン部だからともかく……。美術部の奴らはみんなで仲良くウハウハしてしまう。これじゃあハーレム撲滅は愚か、田中の人生バラ色一択。更に3人の友好度が上がってしまう最悪のイベントである。


 「夏休みが始まる前に何としても…手を打っておかないと!!」


 しかし決意とは裏腹にいい案がなかなか思いつかない…いや、もう思いつけないのかもしれない…。


 「うーん、なぜ失敗したのだろうか…」


 失敗は成功の元、私は失敗という経験を得ただけだとよく言われるけど本当に成功なんてあるのか?と思ってしまう。努力は報われるのだろうか?


 拭いきれない失敗の数々は自分のモチベーションを更に下げていた。


 「それにしても…あれは特に最悪だった…」


 いつのまにか、自分の記憶の中で一番思い出したくない出来事も思い出してしまっていた……。


***************


  決意をしてから一週間後



 「春〜今日美術部いってもいい?サッカー部が久々のOFFだからさ〜春の部活での姿見たいんだよ。」


 作戦を決行しようとした今日、俺は笑顔で田中に話しかけていた。

 

 「おう!もちろんいいぞ!どーんこい!!

 ん?はっ!お前…まさか遂に御門先輩のこと……」


 ちがうわ。いつそんなフラグが立ったかな?こないだ君がいなくなったら一瞬で消えました。これ負けフラグですよね?


 「違うよ….春がエッチな絵ばっか書いてないか幼馴染みとしてチェックだよ。チェック。」


 「な、そんな絵はたくさん書いてないぞ!!」


 「じゃあ少しは書いたの?」


 「か、書いてないんだからね////」


  問い詰められた田中はモジモジしながら顔を赤くし、下を向いていた。


    ………キャラ被りすな!


 「うそうそ、まぁ普通に暇だからさ、いいよね?」



 「あぁ!俺の素晴らしい絵を見てってくれ!」



 

 ん?田中って絵も上手いの??そこまで完璧なのだろうか…


----------


 「ん?春ちゃん?ゴミよ????」


 「田中はド下手よ……」


 おい田中、めったうちにされてますけど…しかも、御門先輩なんてゴミっていってる。


 ホームルーム後、美術室に向かった俺らは田中の絵のうまさについて聞き取り調査していた。


 結果は100対0で、下手くそだとわかった。



 「ちょ、先輩!こないだピカソみたいって褒めてくれてたじゃないですか!」


 それは違うよ田中、比喩だ。


 「うん!ピカソみたいで良かったよ!春くんは彼を超えられるかもね!」


 ※彼女はピカソを馬鹿にしているわけではありません。


  「で、ですよね!」


 田中それは比喩だよ。


 そんなとき、彼を庇おうとしたのは…


 「わ、私は田中の絵、す…好きよ///」


「本庄!!」


 本庄さん….遂に!


 「これとか!美味しそうな団子と色とりどりの桜の花びら?が並んでるわね!」


 「いや、それ信号機と車です……」


あぁだめだこれは…。


 (かぁ……/////)


 「も、もう!知らない!勝手にしてよ!っしょい太郎!!」


 余程恥ずかしかったのだろう。言ってる意味がわからない。

 しかし、彼女はまた茶色のポニーテールをブンブン振り回していて御門先輩の顔面にペシペシ当たっていた…。

 

 まぁ本庄、その勇気ある数秒…


   いつか報われる日が来るよ。


 既に数十分経っていたこの美術室に役者が全員揃っていたのを確認した俺は…


 さて、そろそろ切り出しますか。


「ところで、俺がなんでここにきたか皆さん知りたいでしょ?」



 「別に??」 2人同時


 おぅ…。まぁそこまで興味がないのはわかっていた。でも、かなり心にくるものがあった。


 「いや、実はですね。今日お絵かき勝負をしにきたんですよ……春と」


 周りの空気に耐えながら言った。


 「お、俺!? おい…俺の絵を見たからってマウント取りに来たのか?」


 「いや、ここまで下手くそだとは思ってなかったよ…まぁそう勝ちに来たよ!負けた方は全員にジュース奢りってのはどう?」


 「高木くん?それは流石に春くんが……」


 御門先輩これでもですか?


 「お題は好きな人!」


 辺りはシーンとした。しかしすぐに2人は全てを理解していた。


 「春くん!!やりなさい。」


 「田中!!やるのよ。」


 2人はまるで風神と雷神のように田中の前に立ちはだり、逃すまいと睨みつけていた。


       女怖い。


 「な、なんですか!?お題を聞いた途端、なんでそんな俺を逃げないようにさせてるんですか!?』


 そんなの彼女たちを書いて欲しいからに決まってるよ!まぁ鈍感な田中くんにはわからないだろうけどね。

 

 「そ、それは…///気になるじゃん!春くんのタイプ!」


 開き直った彼女は先輩らしからぬ大きな声でそう言った。


 一方、本庄は…

 

「私を描け私を描け私を描け私を描け私を描け〜〜」


 本音、漏れてますよ?


 

  まぁここまでは計画通り!


  さぁ始めようかハーレム撲滅作戦を!!



 

 

    



 

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