第一部 後編② 復讐と決意
「あぁ…きつかったぁ〜。 ガクっ」
「も、もう死にたい…… 。 ガクっ」
「誰か…殺してくれ…。 ガクっ」
「……………」
サッカー部のラストはいつもこうだ。ランニングと数少ない時間での全力のサッカーは1年生を地獄へと突き落とす。しかもこんなにも1年は疲れているというのに、この後ほぼ使ってもいないグラウンドを掃除させられるんだから……日本の縦社会はきびしい。
俺なんて今日はボールすら触ってないのに…。
「高木〜、今日大変だったな。乙女の奴まさかいるとはな」
グラウンド整備をしながら疲れていた俺に話しかけてきたのは
坂 夜郎是 (サッカーやろうぜ!)君だ。
彼はとても熱意があるサッカー男子でしかもかなり上手い。なんてったって、ゴット…まぁいいやそんな元気もない…。
「あぁ、本当そうだよね」
かなり疲れ切った俺は、相槌程度の返事しかできなかった。
「その返事、流石に疲れたよな。ランニングだけってもう陸上部と同じだもんな。」
「もういっそ陸上競技出てみてもいいかな?」
「長距離だったら良いところまでいけそうだよな!」
「なんかもう県とか狙えたりして…」
「いや、それは失礼だろ。俺らより遥かに沢山走ってそうだし。」
「そう?今なら世界狙えるかも…」
疲れていた俺の思考は赤子並みだった。自分がなにを言ってるかさえ理解していない。
「まぁ冗談はそれ程にして、今日は一緒に帰って途中コンビニ……」
あれ?そういえばなん忘れてる……??
なんか大切な約束があったよな…。
「あ!!」
「どうした!?」
坂の目がいきなり丸くなり、こちらに視線を向ける。
そういえば、これから一緒に帰る約束したんだった。練習がキツすぎてすっかり忘れていた。いま何時なのだろう。俺はグラウンドの隅にある時計台を覗くと…
もうこんな時間!?早くグラウンド整備を済ませて校門へ向かわないと。
でもそんな事をしていたら間に合わないのは事実。俺は坂に頼むことにした。
「ごめん、坂!急用を思い出しちゃって…先帰る!!」
しかしこんな自己中で、クソみたいな俺を坂はなんの疑いもなく
「わかった!用事と有ればしょうがない!グラセンは任せろ!
……だからさ明日もサッカーやろうぜ!」
流石だ……。
俺は素早く身支度を済ませ、グラウンドを後にした。が、神はここに来て追い討ちをかけてきた。
焦っていたのかスパイクのままグラウンドの外に出てしまい…
「よう、高木! お仕置きが足りなかったようだな!!」
出会った乙女に
2発めの弾丸を喰らったのだった…。
なんて日だ…。
*
「お!駿!お疲れー! ん?あれ?お前…たんこぶ2つになってないか?? はっは〜。さては急いでスパイクのままグラウンドを出て乙女にやられたな??」
俺より15センチくらい背の高い春は2つのタンコブをさすりながらからかってきた。
なんでそこは鋭いんだよ!それを恋愛で活して欲しい。おまけに背の高さアピールときた。
そんな時、どこからともなく1人の美少女が近寄ってくる。
「ねぇ、ねぇ!ちょっと〜、2人とも〜私も混ぜてよ〜!ずるぃ!!2人だけの秘密なんて!!」
この可愛らしい天使の声は…
「ごめんなさいって!御門先輩!駿とは長い付き合いなもんで大体わかるんですよ ニャ」
お前そんなドヤ顔…幼馴染みの夏芽の好意は全くわらないのに…。今すぐ本当のことをいいたい。
「いいなぁ〜、私も春くんと幼なじみが良かったな。美術部での春くんしか知らないし……もっと昔から仲良かったら…春くんの色んなこと知れたのかな」
「御門先輩…俺も先輩のこともっと知りたいです!」
「え!?そ、それって…例えば…私の裸とか…?」
「いやいや!何言ってるんですか!?そ、そう言うことじゃなくてですね…だから…」
春の顔はかなり赤かった。
「冗談だよ!冗談!春くんが幼馴染みだったらもっと玩具ととしてパシリとか使えるのになぁ〜って」
冗談に聞こえないし、何怖いこと言ってるんだろうこの先輩……。彼女は顔は笑っていたが目は笑っていなかった。
「先輩…冗談に聞こえないです。」
春、今は俺も同じ気持ちだよ。
「うふふ…楽しみぃ〜春くんのこと沢山知れる日が〜」
う…このやっぱり人怖い…。
「そういえば駿、御門先輩も一緒に帰りたいって言ってたから…いいよね??」
話を逸らそうとこちらに話題を振ってきた。
「うん、全然構わないよ」
こんな可愛い先輩と一緒に帰れることに不満を持つ奴はいるわけないし。なにより部活の疲れが一気に吹ぶのを感じた。
「ありがとう〜!!高木く〜ん!! アキ、超嬉しい!!」
(バフっっっ)
先輩はわざとなのか それとも…春への見せつけなのかその真意は分からないが
急に俺へと抱きついてきた。
あまりの不意打ちに俺の心臓はドキンと高鳴り、
体に密着するその大きな胸はとても柔らかく、まるでプリンのようプルプルしていた…。
「ちょっ、先輩!みんな見てますから!やめてくださいよ!」
春…とめるな。
「な〜に?? もしかして春ちゃんもしてほしぃ〜の〜??」
その動きはまるでオスを喰らう小悪魔のようにしなやかに春の方へ近づいていった…
「ち、違いますって///」
「喰らえ〜〜!!」
「おっと!危ない!」
流石だ。慣れているのだろうか華麗に先輩の攻撃をかわしていた。
「も〜なんで避けるのよ!!は…もしかして……春くん…ハグじゃなくて。この後その先もやりたいから今は我慢ってこと??いやん////エッチ!!」
まるで結婚して3ヶ月目くらいの新婚夫婦のようだった。
「ち、違います!!」
「も〜釣れないなぁ〜、いいもん!また今度ハグするもーん!ほら早く行きましょ!」
少しふてくされた様子で先に歩いていった先輩の後ろで、春はこっそり俺に
「おいっ駿、俺やっぱり御門先輩苦手だ……」
あんなこと言ってもらえるの春だけだからね!
そんなこんなでたわいのない話をしながら今は3人で帰宅中。
色々あったけどやっと説明!
彼女が第3のヒロイン、御門(みかど)秋菜(あきな)先輩。
高校2年生で、彼女も春と同じく美術部に所属している。もう説明する必要も無いと思うが御門先輩は素晴らしいほどに美人。
美しい桃色のふわふわロングの髪の毛と引き締まったお尻。それになりよりあの包容力のある大きな胸……。
まぁ何より彼女のおっとりとしていながら、明るくて、ちょっぴり天然の性格は男子生徒から数々の死者を出している。
そんな彼女も、春に惹かれてるわけであって……
でもなぜ好きになったのかは俺もわからない。
中学は俺らと違うからたぶん高校からなのだろう。
一体高校でなにがあったのだろうか。正直少し興味があった。
「おーい? 高木くん?さっきからボソボソなんか言ってるけど大丈夫?」
御門先輩!?
ん?かなりいい匂いする。
彼女のフワッとなびいた髪の毛からは桃のいい香りがした。
俺、口に出してたのか……キモすぎる…。
そんな優しい先輩はこんな疑問を春に投げかけた。
「そういえば〜今日やけに冬華ちゃん張り切ってだけど…田中くんなんかあった??」
「ん?俺っすか? うーん 特になんかした覚えはないですけど。なんか急に俺らの教室きて、一緒に部室に向かいました。あ、でもなんか途中でいきなり倒れたんで抱っこしながら向かいました。」
「あぁ〜、やっぱりそんな感じのことなんだね…」
彼女の紫色の大きな瞳は明らかに下の方を向いていた。落ち込んでいるのだろう……。
先輩、察し早いな…この感じだと本庄の好きな人もとっくに分かっているのだろう。
「いいなぁ、どうせお姫様抱っこでもしたんでしょ〜??」
「いや、なんか顔赤くしながら倒れてたんで…」
いや、またなんか喜ぶこと簡単に言ったんだな…。
彼女は春に羨ましそうな視線を送らながら、対抗しようとこんな事を言い出した。
「もし…私も何かしらの理由で倒れちゃったとしたら、春くんはお姫様抱っこしてくれる??」
その言葉は御門先輩らしからぬ。冗談は混じっていないストレートな口調だった。
「当たり前じゃないですか!今まで先輩に助けてもらってるんです!そんな時はどんなことをしても必ず救います!」
「えっ//……それ……って例えば??」
「う〜ん。人工呼吸ですか?」
「もう…春くんのえっち!なんでそれが1番初めに出てくるのよ!でも……初めてなんだから優しくしてよね??」
「いや、まだしてないんですけど!?」
いつもの帰り道、オレンジ色の夕焼け。2人の笑顔に俺は眩しくて目を当てられなかった。
何分経ったのだろうか。いつもの小さな公園が目に入る。
「駿、ごめん!今日はお金なくて公園に行けないや!すまん!また今度でいいか?」
「春? お金なら貸すけど…」
俺がそう言いかけたときに春はもう走り去っていった。
どうしたのだろうか。
俺と春は一緒に帰る時はほぼ毎日、帰り際にある公園でコーラを片手に
今日面白かったこと、うざかったことなど話し合ってから帰る。
確かに財布忘れたって言ってたけど…一本くらい奢るのに…
春はどこか急いでる感じがあった。
「しょうがないですね、先輩!一緒に帰りますか??」
ってあれ?あれれ??
そこには先輩の姿は見えなかった。あの小悪魔…
春がいなくなると思うとすぐに退散したようだ。
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いつもの道、いつもの空、いつもの曲がり角
いつものように1人で歩く俺……
今日の一件で改めて俺は自分の意思を固めると決意した……
俺は春……いや、
『 俺は田中を、絶対に絶対に許さない。』
この2ヶ月間、色んなイチャイチャなラブコメを見させられてきた。田中に近寄ってはお互いに照れて、笑い合って…。正直に言うととてつもなく羨ましかった…。春にはあるのに俺には無いそんな現実を突き詰められてると思うと嫉妬は抑えきれなかった。
でもいちばんムカつくのはそこじゃ無い。あんな可愛い女の子を不可抗力とはいえ3人もたぶらかしてる。
そして最後に選ばれるのは1人だけ…。そんな現実は漫画やアニメ、ラノベで腐るほど見てきた。あの3人には味わって欲しく無い。
俺は……ハーレムを崩壊させる!
田中への復讐、そして自分への罪の理解をさせてやる。
いいか田中…
「俺は全部、わかっている!!!」
そんな夕焼けに俺の声が響き渡った。
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