第一部 後編① 復讐と決意

 6限目の数学終了のチャイムが鳴り響き

今日1日を終えた生徒たちには笑い、叫び、嘆きなど様々な声が教室に響き渡っていた。


 「やっと終わった…」


 後ろの席に座っている俺も疲労のせいでため息を漏らしている。


 「こっから部活かぁ……」



 おれはサッカー部に所属している。サッカーがやりたくてもっと上手くなりたくて入ったのに部活は結局ランニングしかやらない。それを考えると進んで行く気にはならなかった。


 そういえば春は授業の途中でトイレに猛ダッシュしていたけど大丈夫なのだろうか。ほんの少しだけ心配しながら数学の教材を鞄にしまいつつ、部活の準備を始める。


 

 「駿!! まさか本当に雑草を食べさせるなんて……一応、確認だけど、俺ら親友だよな??」


 そう言いながら凄い勢いで俺の目の前に来た。

それはもう彼氏彼女のキス寸前…目と鼻の先に春の顔があった。


 い、イケメンだ。


 実際、俺もそのまま校庭の草を食わせるほど外道ではない。少し春にムカついたので草を毟って、素材そのままポイって味噌汁に入れたら…


 今日は具が豪華だな!!ってすぐ食べた。 流石鈍感主人公…常人なら雑草だってわかるよ。

 

 

 「おい、駿聞いてんのか??お金返さないぞ!」

 

 「うん?あぁそれはちゃらでいいよ〜春」


 「え?いいのか?」


 彼は明らかに動揺していた。ワザと言ったのだろう。


 「おもろいの見れたし、ただちょっと!復讐したかったぢけだから!!流石に申し訳ないしね!」



 「ふ、復讐ってなんかしたのか?おれ…」


 正直、流石にやりすぎたのは分かっていたし、チャラにするのは当然の事だと前前から決めていた。



  しかし、春は迷いが一切なかった…

 


 「まぁ冗談だよ!あんまりお金がない筈なのに、わざわざプレミアム定食を食べさせてくれたんだ…雑草はぶち込まれたけど…。でも貸してくれたのかとは事実!だから今度、必ず返す!」


 「え…。」


 今度は俺が動揺した。



 春のこういう律儀なところが俺は本当に妬ましかった。側から見れば間違いなく俺が悪い。ただの自分勝手な感情にまかせやってしまったことなのに、それを気にもせずこんなに優しいことを言う。やはり鈍感ラノベ主人公はポテンシャルが違う…。


 「わかった…。春がそんなこと言ってるくれるなんて思わなかった。ごめん…俺もやり過ぎた。」


 「おい!気にすんなよ!親友だろ?」


 春は普段滅多に怒らない。怒ったとしても何処か優しさを感じる。


 あの日の事件を除いては…。

 


「居たわね!田中!!」



そんな会話をしていると教室の外から叫び声が聞こえてきた。


 「本庄??」


 ビビるように春が言う。


 「ふん!たまたま近くを通ったから誘ってあげたわ!早く部活に行きましょ!!あなたデッサンまだ描いてないわよね?課題提出間に合わなくなるわよ!」



 「なんでお前がここにいんだよ!たまたま通ったって……俺ら別校舎だろ?」


 あちゃ〜春、アホはお前だよ…。またいつもの鈍感さが出てきてるよ…。


 でも実際、春が言っていることは間違いなかった。この学校は西校舎と東校舎に分かれていて、A組からC組は西校舎、D組からF組は東校舎に位置している。そして美術室は東校舎の3階にあるので、たまたま通ると言うことはまず無い。



「う、うっさいわね!!び、美術部に行こうとしたら道に迷っちゃって、たまたまここを通ったら、たまたまA組についちゃって、たまたま田中がいたからしょうがなく誘っただけなんだから!別に田中に会いたくてわざわざ西校舎まで足を運んだって……」


 あなた、全部言っちゃってますよ?



 「な、なんでもないから!!あー!もう全部あんたのせい!!」


 腕を組んで動揺してないつもりを演じてるようだけど…綺麗な顔は真っ赤だった。



それでは説明しましょう。

 

彼女はヒロインの2人目


  本庄(ほんじょう) 冬華(とうか)

 

 つまり春に恋心を抱いてる女性の1人。 

俺たちと同じ1年でクラスはD組、春と同じく美術部に所属している。

もうみんなわかってると思うけど彼女は自分の気持ちと行動が相反するツンデレというやつである。

 


 しかしこれがまたまた顔が可愛いくて、茶髪のロングポニテと緋色の赤い大きな瞳をしている。胸は……まぁお粗末だけど、その健康的な体のラインや引き締まった太ももは1年の間でも少し噂になっているほどである。ただ、緊張するとこんな感じで顔が赤くなり最後は制御しきれなくなる。



 それにしても本庄が流石に可哀想なので俺は少し助けることにした。

 

 「春〜、まだ高校入って2ヶ月だよ? 部室に1人で行くのは本庄さんも寂しいんだよ。きっと愛しの春じゃなきゃだめなんだよ」



 俺の仲介に本庄はうん、うんと子犬のように首を縦に振っていた。


 しかし、急に彼女の顔はさらに赤くなり、1人で勝手にその綺麗なポニーテールをブンブン振り回していた。


 「て、違うわよ!!たまたま通っただけだから!!会いたくて来たわけじゃ無いから!!」


 そんな本庄を周りの通行人はドン引きの眼差しを向けており、容疑者の春は傍観者の様に本庄を見ていた。


 何故気付かないんだよ…ここまでくれば分かるよ!どう考えても本庄は春に会いたくて来たんだよ?

 学校始まって二か月しか経ってないから、道に迷った?そんなバカが現実にいるわけない。いい加減気付いて…。また雑草入れるよ?


 

 そんな俺と彼女の感情などつゆ知らず

鈍感ハーレム主人公は何かに気づいたのか…


 

 「なんだ!そういことか!!本庄それなら先に言ってくれればいいのに!寂しい時はいつでも側にいるからよ!」


 爽やかな笑顔で、彼女の頭をポンと叩く。


 いや、なんも気付いてなかったよ!

 

 「ちょ、ちょっとなに言ってるのよ!う、嬉しくなんてないんだから!!」


 めちゃめちゃガッツポーズしてるやん…。


 「まぁでも流石にそろそろ美術室の場所覚えろよ?」


 「うふふ、あともうちょっとだけ時間がかかるかもしれないわ!」


 これは一生覚えないな。


 「なんでだよ…。まぁじゃそろそろ部活行きますか!駿!いつも通り7時に校門で待ち合わせな!」


 「おっけい〜」



 春のこの鈍感さは本当に好きじゃない。それでも親友だから《一応》、高校に入ってからは俺の練習が相当伸びない限り一緒に帰っている。



   俺もそろそろ行きますか。



 仲良さそうに話してる春と本庄を後にグラウンドへ向かった。

  


           *


 「遅いぞ!高木!!またデコピンくらいたいか!!」


 うわ…来てたのか乙女 金剛。

 

 朝俺にデコピンを喰らわしたこいつは俺らの担任でもありながらサッカー部の顧問でもある。 

角刈りでゴツい体はまさしく体育教師という感じで、ほぼ野生のゴリラだ。


うちの高校はサッカーが中堅くらいにあり、グループA〜Bをうろついている。なので顧問はもちろん先輩もかなり厳しい。3年の先輩の引退の夏まではボールに触れるのは最後の15分だけ…そこで1年は自分のアピールをしなければならない。そこまではランニングや筋トレのオンパレード……。


 そんなことより…なんで乙女いるの!?あいつ今日は出席簿の間にラノベ入ってたはずなのに…。


 乙女は自分の読んでいる新刊が出ると必ず出席簿の中に隠してあり、その日は必ず新刊を嗜んでから部活に来るのに今日はどうしたんだろうか。


 

 「高木!!こっちこい!!」


  

 マジか…。



 ゆっくりと乙女が座っているベンチに近づいた。



 「高木お前は夢が?」


 「はい。一応ありますけど…」


 ウハウハハーレム主人公になりたい。


 「そうか…それは素晴らしいことだな。」


 どういうことなのだろう。説教されると思っていた俺は不思議に感じていた。



 「でもな…追い求める夢がついえたとき、諦めも肝心かもしれない…」


 「はぁ……」


 なんだなんだおかしくなったのか?



 「よって今日はずっと外周!!!」


 ………え??今なんと?


 「先生、言葉の意味がよく分からないんですけど…」


  「ん?お前は今日外周だ!」


 意味分かんないんですけど!!!!

  


             *



 何分経っただろうか。何周したのだろうか。俺は約束の7時までひたすらに外周をしていた。グラウンドで他の一年生がサッカーをしていくのに目をやる。

一生懸命にサッカーをしている姿を見ると今の自分にやらせない気持ちが溢れてくる。

あぁ…俺もサッカーがやりたい…。ボールを蹴りたい!


 こんなことを思っていても仕方がないことは分かっていたので俺はた ただただ無我夢中で走り続けた。

ベンチの横を過ぎて、サッカーゴールの横を過ぎて、陸上部の隣を走り、ハンドボールコートの隣を過ぎる。

(グゥゥ………)


 同じ景色を何度も見ている俺の胃の中は既に空っぽだった。


 お腹すいたなぁぁ…


 嫌な時、楽しいことを考える事がいいとよく言われている。部活が終わり疲れた後のおいしい夜ご飯はさぞかし美味しいことだろう。一般人にとって……

 

 「今日こそ普通のご飯が出来てるのかなぁ…」

母 「お鍋!お鍋!!」

   

    


    

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