第一部 中編 復讐と決意
--- 昼休み---
「今日遅刻も春のせいだ…嫉妬心が俺を熱く語らせるから…」
朝の遅刻により教師からピストルのようなデコピンを喰らった俺は、赤く腫れたおでこと共に嫉妬に燃ええていた。
「君もわかる?おでこくん。」
教室の一番後ろの窓際の席でお怒り中のおでこをさすりながら1人芝居をやってる。その姿はまるで友達がいないぼっち陰キャのようだった。
こんな社会の不適者みたいなことをやってしまうほどハーレムラノベ主人公の鈍感さへの怒りは凄まじい。今現実にいるソイツのことを考えるとどうもイライラが止まらなくなってしまう。
そしてこんなにも俺をイラついてる張本人……
それは、1番の親友であり小学校から仲の良かった はずの
田中(たなか) 春樹(はるき) だ。
彼は俺とおんなじ1年A組の生徒で、美術部に所属している。容姿は認めたくはないけど…上の中。つまりイケメンだ。
中学の時も顔の人気はちらほら巷で有名だった 。
いつも 元気でさっぱりとした笑顔とサラサラの白金色の髪はまさに白馬の王子様。もちろんアイツを嫌う奴なんて聞いたことがないし、言ってしまえばクラスカーストは上位と言わざる終えない。
ちなみに中学はサッカー部だっだ。しかもこれが…また上手い!ボランチをしていて、チームの司令塔的役割をしており皆んなからとても頼られる存在だった。でも……ある事件をきっかけに、高校からはサッカーをやってない。いいや、出来ないんだ。
まあ…総じて俺が勝てるとこと言えばほぼない。逆にこんな完璧人間に勝てる奴がいるのか?いたら今すぐにでも仲良くなりたいくらいだよ。
つまり正直に俺は嫉妬している!!こんなの嫉妬しないほうがおかしい!……でもだから嫌いなわけじゃないんだ。こんな奴モテるのは当たり前、むしろこんな完璧人間が俺と親友でいてくれる事が嬉しい。
でもそれは中学生までだった……。
あの頃の春は可愛かった。やれやれって感じで見過ごせたし。なにせ中学の時はみんな思春期に入りたてで、春みたいな奴よりちょっとヤンチャをしてる奴の方がモテてた。
でも高校に入って女子の感性は変わる。チャラいヤンチャ奴よりも春のような好青年が好かれるようになる。そして春の本性がさらに目立って来て……俺はもう…
(ドスッッッ!!)
席に座っていた俺の背中に勢いよく平手打ちが飛んできた。
「よ!!駿!お前また乙女にデコピン喰らってんじゃ〜ん。いったい何回目だ?高校に入ってから多いんじゃないか?」
「春!誰のせいだと思ってるんだよ!」
俺は春の言い草に怒りが頂点に達していた。
「おい…冗談だよ冗談…本気にするなよ!」
綺麗で清々しい笑顔が俺の気にまた触る。
「人の気も知らないで!」
「もしかして、駿のお母さんの飯…のせいとか?」
「う……」
間違いではなかったので、とっさの反論が出来なかった。
実は春も俺の母の料理を口にしたことがある。サッカーの試合の帰り、急遽春の親が会社に行かなくてはならなくなり俺の家で夜を食べることになり、その日の夜は俺達2人でトイレ陣地取り合戦をしたのを今でも覚えている。
「あの時の鍋は最悪だったな…」
「うん…」
2人の間に沈黙が流れる。
「う…急に腹が…」
春がいきなり腹を抑え始めたけど、まさか母さんのご飯が想像でも物理的ダメージを与えるとは…
かつての自分も食べたらそっこう吐いてしまっていたことを思い出す…。
アルケミスト過ぎない?天然系暗殺者よ。
「そ、そんなことよりさ!駿、昼食おうぜ!
今日はあの日だろ??」
無理やりなドヤ顔で俺に言う。
うちの学校には月に1度、学食が半額になる日がある。この日は毎日お弁当、ビニ弁の人、課金しまくってお金がなくなったソシャゲの廃人もみんなこぞって学食にくる。
「そうだった、今日は学食半額DAYだった。俺も今月は金欠だったし…行きますか!」
昼しかろくなもん食べられないし……
「ねぇ、春ちゃん!!わ、私も学食…一緒に行って良いかな…?」
そんな時、頬を少し赤らめた黒髪ショートボブの女の子がモジモジしながら可愛らしい声で俺らに話しかけてきた。
「よ、よう!夏芽!」
「2人ともおはよう〜」
「それにしても…夏芽が学食なんて珍しいな!
なんかあったの?」
春がそう答えた彼女は
楠木夏芽(くすのき なつめ)
俺らと同じ小学校からの幼馴染みでバドミントン部に所属してる。おしとやかで身長が小さく、その大きな茶色の瞳は小動物みたいに可愛らしい。容姿ももちろん素晴らしく幼馴染みとして太鼓判を押せる。
「夏芽もたまには学食が食べたいんじゃないかな?ほら、いつも弁当しか食べてないし…。」
俺は彼女の言葉をなんと誤魔化そうと勢いに任せて口走った。
「駿ちゃん…ありがとう」
彼女のとても小さな感謝の声と俺だけから見えるグッジョブがとても可愛らしかった。
でも、鈍感主人公の春はそんな理由など全く効かなかった。
「うーん、でも夏芽両親にお金かけるの悪いからって学食は絶対に食べない!とかなんとか言ってた気がするんだけど……大丈夫なのか?」
はい、やりましたよ。春さん。
本当にもうどうしてそんなに鋭くなっちゃったんですか…。春はさすがハーレム主人公言うべきなのか、こうゆう事には素晴らしく勘が良い。
しかしこんなことは計画の範疇。夏芽には昨日考えたあの理由が残っている。これを言えば納得する事間違いなしだろう。
俺は彼女にアイコンタクトを送る。すると彼女も不器用だけど可愛らしいウィンクで返してくる。
よし!これなら……
「えっとね!、それは… 両、両親…… う〜ん…くじ…はっ! そう!こないだ両親が宝くじで100万当たったの!」
「…………………」
空気が一瞬凍結した。
はい、やりましたよ夏芽さん。
昨日あんなに練習したはずなのに…。
両親が9時に帰ってきて、お弁当作れなかったから学食食べることにしたって設定だったよね?さっきの自信満々のアイコンタクトはなに!?
これは流石に馬鹿な春でも……
「まじか!すげーな!100万ってなんか微妙だけどすげー!学食食い放題じゃん!!」
歩く単細胞。その一言に尽きた。
「う、うん!? だから今日は春ちゃん達と食べたくて…500円持ってきたんだ!」
当の本人が返答に困っちゃってるよ…。
彼女の背丈の小ささ故の上目遣いと赤く染まった頬はモブ男子の心を鷲掴みにしそうなほど…もはや凶器であった。
「それは最高だな!うん!最高!」
一方で、春はそんなことを言いながら彼女の頭を撫で撫でしていた。こいつのそう言うところもラノベ主人公の風格を見せてくる。ポイントを無意識にしっかり押さある辺り、そういう点は抜かりないと感じる。
「は、春ちゃん!/// 皆んな見てるよ…///」
好きな人に撫で撫でされれば嬉しくない女子はいない。彼女はキョロキョロ辺りを見渡しながらも、頬は林檎のように真っ赤になっていた。
「で、でも…ちょっと嬉しいかも。」
そんな彼女も嬉しさだけはちゃんと伝わってきた。
「ん?なかいった?」
彼はおうむ返しで聞き返す。
もしもし?お医者さんですか?ここに重症患者がいます。はい。彼、難聴で間違いありません。
俺はなぜ気持ちが届かないのか本当に理解できなかった。あと一歩勇気が有れば…あと一歩耳が良ければこんな事にはなっていないだろう。
「そろそろ行こう!ね?みんな見てるし……」
呆れた俺はその場を流そうとした。
「そうだな!早く学食行かないとプレミアム定食なくなっちまう!」
彼は何かを紛らわすかのように一目散で教室を出る。
「ほら!早く行こう!」
「あっ、はるちゃん!ちょっと〜置いてかないでよ〜!」
さて、みなさんどうでしたか。どう思いましたか。
このシーンを見てどう感じました? 皆んなでも簡単に分かると思います。流石に幼馴染みであればバカでもわかる。
楠木夏芽は田中春のことが好き。この事実は明らかだろう。でも、当の鈍感主人公はあの返答。9年経ってもこれだから参ってしまう…。
夏芽は明らかに春と一緒にお昼を食べたくて、やっとの思いでお前に話しかけた。それ一択なのに…。月一の半額DAY…夏芽はお弁当しか食べないと言ってしまったことに後悔して一番誘いやすいこの日を狙っていたのに…ダメだった。
3人は幼馴染みだから、お昼くらい普通じゃね?と思うかもしれない。夏芽はおしとやかで可愛らしいんだけど、かなりの恥ずかしがり屋である。あんな感じで間違えほどに。
昨日の夜、俺たち2人は練習を重ねていた。
「駿ちゃんこれでいいかな?これで大丈夫かな」って何度も聞いてきて、何度も直していた。まぁ結局やらかしてたけど…
でも彼女の頑張りはとても魅力的だ。もし俺の事が好きだったならとっくにオッケイさせて頂いてる。春にはそろそろ気づいて欲しい。
しかし本当の問題はこっからだ。俺もこんな可愛らしい恋を応援できないほど心が狭いわけはない。むしろ中学生までは精一杯応援してた。俺がこんなにも憎んでいる理由…それは…
こんな感じのが更に2人もいるから… はぁ…神はなぜ彼なのだろう。
これじゃあ他の2人も可哀想でならない。好意を寄せてる相手はろくに気持ちも伝わらない鈍感主人公なのだから…。
「お〜い、駿。お前300円ある??
財布わすれちゃった …てへっ」
春くん。草、食べる?(ニコ)
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