第32話 決戦!

『黒薙島、超重力カーテンに異常あり! 繰り返す! 黒薙島、超重力カーテンに異常あり!』

 

 その一報は統合軍作戦司令室を騒動の坩堝に叩き落す。


 この三〇年、何人たりとも進入を拒んできた超重力カーテンが突如弱まりだした。


 第二の有人調査隊を派遣して早三ヶ月。


 定時報告が途絶えたからこそ、調査隊の生存は絶望的だとする世論の声が多数占め、その責任は派遣を決定した幹部にあるとマスコミのやり玉に挙がっていた。


 出発前、大々的に報道したことが仇となる。


 汚名返上のために第三の調査隊派遣を計画していた矢先の変化だ。


 慌てずして何をする。


 超重力カーテンを監視する艦隊には監視を続行するよう命じてある。


 万が一、機材での監視が継続不可となれば目視で続行するよう重ねて命じてあった。


 超重力カーテンの変化は続き、弱まり続けるだけでなく、虫食いのような穴がぽつぽつと生まれ、島上空で無数の亀裂が枝分かれを繰り返す。


 監視する艦隊から作戦司令室に緊急入電。


 島中央部に回転する巨大オブジェクトを確認。


 続けざまオブジェクトと代わらぬ巨大要塞の存在を確認したとの報告が入る。


 この報告により総司令部の意見は真っ二つに割れる。


 艦隊を派遣し、軍事介入する意見。


 敵か味方か、分からぬうちの軍事作戦は悪手だとする二つの意見。


 世界は一つにまとまろうと、今なお一つになりきれぬ部位があった。



 私は統合軍の騒動など露も知らず、波動を超えるハドウを探す傍ら、戦闘のモニタリングを見逃さなかった。


 オルゴライザーは背面推進器より推進粒子を放ちながら大地を滑るように疾走する。


 右手より嵐を、左手より雷を放ち、津波の如く押し寄せるイヴァリュザーの群を蹂躙していく。


 蹂躙により開けた大地を進むのはオルゴフォートレス。


 底部クローラーを稼働させながら全火器を惜しみなく使い、オルゴライザーが打ち漏らしたイヴァリュザーを駆逐していた。


「おい、ミィビィ、じゃんじゃん撃ちまくれ!」


「これが最後ぽいんだから、惜しまなくていいよ!」


 二つある操縦席にそれぞれ背中を預けるタカヤとコウは息のあった操縦を見せつけている。


 操縦システムは機体右側をタカヤが、左側をコウが担当する仕様となっていた。


 二人三脚のように息を合わせて操縦する必要があるも、長年背を預け、背を撃ち合った二人だからこそ、息を合わせるなど児戯にも等しかった。


「はいは~い、上から沢山落ちてきたよ」


「その数一〇〇〇、どうやらあのオブジェクトが生み出しているみたいだね」


 情報管制を行うのはクドとフドの双子の波動精隷。


 投影された専用のシートに座っては忙しなくセンサーと目視による警戒を怠らない。


 状況に変化が起きれば微々たるものでも見逃さずに報告していた。


「ミィビィ、一発でかいのよろしく!」


「大穴開けてやって!」


 降り注ぐイヴァリュザーの群を雷撃が焼き尽くす。


 すぐさまオルゴライザーの右手が気流を操り人形のように動かした。


 ある一定の空間において空気が何一つない真空の空間が誕生する。


 オルゴフォートレスの甲板の一部がせり上がり、大型ミサイルが現れる。


 オルゴライザーにより生み出された真空トンネルにより、空気抵抗を受けることなくミサイルが打ち出された。


 ミサイルはイヴァリュザーの大群に直撃、広範囲に爆発をまき散らす。


 夥しい数のイヴァリュザーだった破片が燃焼しながら宙を舞う。


 中にはミサイル直撃を免れた個体がいようと、真空を修復せんとする気圧の変化により、急激に酸素濃度が高まっていく。


 一定の空間で酸素が集まればどうなるか――


 起こるのはバックドラフトと呼ばれる燃焼現象だった。


 第二の爆発が容赦なく残ったイヴァリュザーを焼き尽くす。


 中には半身欠損になろうと果敢にも攻め込むイヴァリュザーがいても放出される電撃により同じ末路を辿っていた。


「どいつもこいつも、数だけ来るか!」


「そりゃあっちの目的は時間稼ぎだもの」


 オルゴライザーは敵を蹂躙しながら進軍したつもりでも、距離に関しては一キロメートルも進んでいない。


 敵は減らされたのならば減らされた分だけ増殖で増やしては、防波堤の如く進行を妨げていた。


「これだと消耗するばかりだぞ」


「数だけいる奴らの利点だね」


 消耗戦に陥ろうと、打破する手はあったりする。


 すぐさまオルゴフォートレスと通信を繋ぐ。


「おい、ミィビィ、合体するぞ!」


「オルゴマキシカイザーのパワーで押し切る!」


『分かりました! 変形シークエンス開始します!』


 合体完了までの隙間を作るために、オルゴフォートレスから燃焼式爆雷が四方八方に放たれる。


 オルゴライザーは巻き込まれる愚を犯すことなく、雷光のような速度でオルゴフォートレスの頭上までたどり着く。


 私はすぐさま調査続ける部下たちに変形注意の警告を発していた。


「合体!」


 要塞から巨神へと変形を終えたカイザーの背部ハッチが開く。


 オルゴライザー専用の搭乗口であり、中へと滑り込むように飛び込んでいた。


「機体ロック完了したわ」


「ツインオルゴリアクター、オルゴマキシカイザーとの連結を確認したよ」


 クドとフドが素早い指先で機体接続を終える。


 モニターは一瞬だけ暗転するも、それはカイザー用に再接続しているだけで、すぐさま俯瞰した景色へと切り替わっていた。


「五連フィンガー砲、両肩大型三連装砲用意!」


「腹部ハッチ、ビックミサイル形成開始!」


 底部クローラーを唸らせながら全身に備えられた火器を放出して猛進する。


 当然のこと、カイザーの腹の中にいるわたしたちにもそれ相応の衝撃が襲う。


 だろうと調査の手は止めることなく、誰もが壁面やコンテナに激突せぬよう注意していた。


 腹の中がどうであろうとカイザーは大地に幾重もの閃光と轟音を走らせ、消失にて屍の山すら築かせない。


 撃ち漏らそうと頭部サイドにある連装砲が熱線の驟雨で焼き尽くす。


 敵の中には地中に潜むことで砲撃を免れた群もいた。


 素早い身のこなしで巨神の脚部に張り付けば、這い寄る虫の如く装甲の上を垂直に走行する。


 そのままハッチから内部に乗り込み、腹の中を破壊尽くそうと企んだ矢先、背後から突き刺さる光線にて残らず消失していた。


 光線を放ったのは巨神の脚部に備えられた二連装砲。


 巨体故に小回りの利かぬオルゴマキシカイザーをカバーするため、各所に設置されていた。


 敵に張り付くこさえ許さず、ならばとサイズ差を利用して今度は蜘蛛の子のように巨神の全身に群がらんとする。


「オルゴフルヴォルトウェーブ!」


 コウが叫び、スロットルを力強く前へと押し出した。


 巨神の全身よりけたたましい雷鳴が轟き、群がらんとしたイヴァリュザーを一網打尽に焼き尽くす。


『有効射程に入りました!』


 一掃したと同時に届くミィビィの声。


 タカヤがすぐさまコンソールに指を走らせ、カイザーの胸部装甲を展開、コウもまた腹部よりビックミサイルのハッチを展開させた。


「オルゴファイナルブラスト!」


「オルゴビックミサイル!」


 カイザーの胸部より極太の光線が放たれる。


 腹部より大型成形されたミサイルが噴射炎を伴って撃ち出される。


 その先にあるのは円錐の大型オブジェクト。


 光線とミサイルは横やりが入ることなくほぼ同時に命中した。


 着弾による衝撃が大地を揺らし、モニターを閃光が焼く。


 モニターは自動的に人間が耐えきれる輝度調整を瞬時に行い、外部カメラが焼けるのを防いでいた。


「おいおいおいおい」


「どんだけ頑丈なの」


 閃光と煙が収まった時、オブジェクトは代わらず掘削の回転を続けている。


 強かな一撃を叩きこんだにも関わらず、オブジェクトに損壊どころか微々たるズレもない。


『観測出ました! どうやら高速回転により生み出される反重力エネルギーがバリアの役目を果たしているようです。それもただのバリアではありません』


「いいから、とっとと詳細言えよ!」


「精確さが機械頭の割に欠けているよ!」


 迫るイヴァリュザーを砲弾で払いながらタカヤとコウは背を蹴りつけるようにして言う。


『つまりは! 生み出される反重力エネルギーがベクトル操作を生み出しているのです! 質量、エネルギー問わず、外部へと力の系を逸らしている。いくら攻撃を重ねようと、全てが系を逸らされ本体に届きません!』


 半ば自棄を乗せた音声だった。


 だけど仕組みが分かれば突破など容易い。


「オルゴブレードナックル起動!」


「全連装砲を正面に集中展開!」


 カイザーの手の甲より光刃が伸展し、各部位に設置された全砲塔が正面に向けられる。


「行くぜ、行くぜ、行くぜ!」


 タカヤはアクセルに当たるペダルを全力で踏み込んだ。


 カイザーがクローラーでイヴァリュザーを蟻のように踏み潰し爆進する。


 敵が張りつこうと砲塔は撃ち落とさず沈黙を保っている。


 反重力エネルギーの影響下に踏み込んだことで巨神が浮きかけるも生み出される嵐のエネルギーで足裏を地から離させない。


「まずは、一手!」


 両手より突き出された二つの光刃がオブジェクトに突き刺さる。


 当然のこと、系を反らすバリアにより先端が本体に届くことはない。


 接触面より目映い閃光が溢れ、刃を構成する粒子がオブジェクトの回転に削られるかのように飛散し驟雨として周囲に降り注ぐ。


 飛び散る粒子一つ一つが超高熱を保持しているがために、イヴァリュザーの身体を貫き、焼き尽くしていた。


 バリアを張ってないカイザーにも当然ながら降り注ぎ、正面の装甲を焦がしていく。


『第一装甲表面が焦げた程度です! ダメージコントロールはこちらが行いますので二人は気にしないでそのまま続けてください!』


 カイザーの装甲面を幾つもの光の円が滑走する。


 光の円の正体はピンポイントバリアだ。


 飛散粒子から巨神を守るために忙しなく走り続け、時折張り付いたイヴァリュザーをアイスホッケーのパックのように弾き飛ばしてもいた。


「元から気にしないよ!」


 コウは全砲塔を一括制御しながら果敢に返す。


 全砲口を光刃とオブジェクトのバリアと接触面に照準を調整する。


「よし、いまだ、撃て、コウ!」


 強くタカヤが叫んだと同時に光刃の出力が増す。


 接触面より瀑布のような粒子が激しく飛び交い、モニターを焦がす。


 だが、コウは慌てもせず、最初から見えていたかのように全砲塔の発射トリガーを押した。


 カイザーより放たれる全砲弾が光刃とバリアの接触面に直撃する。


 いくらベクトルを逸らすバリアだろうと、許容できる量は何であろうと決まっている。


 光刃でバリア一カ所にベクトルを逸らす点を生み出した。


 次に一点集中の砲火でバリアに更なる負荷をかけた。


 そして、最後になおでかいのをぶち込んだ。


「オルゴビックミサイル! ガトリング!」


 カイザーの腹部より大型ミサイルが高速成形され、ガトリングのように連続して放たれる。


 一点集中攻撃によるバリア突破は突破法の定石だ。


 行うには集中攻撃を可能とさせる火力が必要となるも、カイザーならば何一つ問題はなかった。


 衝撃のみが伝播しているのか、オブジェクトの回転がブレる。


 その機会を見逃すタカヤではなく、胸部より極太の光線を至近距離から放っていた。


「オルゴファイナルブラスト!」


 ガラスが破砕するような音が集音センサーと中にいる私たちを揺さぶった。


 オブジェクトは頭頂部を激しく揺らしながら、悲鳴のような掘削音を響かせ、回転を停止させる。


 だけど、オブジェクトは回転を停止しただけで、倒れてなどいなかった。

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