第31話 二人の名は。

「総員整列!」


 私の覇気ある発声が格納庫を木霊する。


 部下四名は縦に並んでは身を正しては整列していた。


「私たち統合軍第二次調査隊はただ今より戦闘準備に入る。各員、オルゴフォートレス内で収集した資料は持っているわね?」


 要塞内に裏の裏が本当にあるか怪しくとも正誤を確認するのが私たちの役目だ。


 生存した隊員全員が全員、技術者ばかり。


 戦闘訓練を受けていようと、あくまでも訓練。


 実戦経験など、本職と比較して二桁に及ばぬほど乏しかった。


「作戦内容は端末で送信した通り、我々の目的は波動を越えるハドウとは何か、見つけだすこと。もちろん、強制はしない。今なら敵オブジェクトが生み出した裂け目により、地球への脱出は容易です」


 オペレーションルームの計算によれば、超重力ケージが完全に無効化されるタイムリミットは一二時間。


 時間までにイヴァリュザーの大群を突破、敵オブジェクトを破壊してコア到達を防がなければならなかった。


「三分与えます。よく考えて行動してください」


「では配置につきます」


「おい、俺の工具どこやった?」


「バカ、お前、さっき慌てて工具箱の中に突っ込んでただろう?」


「あなたたち」


 部下の誰もが脱出せず、技術者としての役目をなそうとする。


「世界の命運がかかっているんですよ?」


「そうです。軍人とは属する国家の守護と民の財産、安全を守ることです」


「統合された世界ならば、世界を守るのは統合軍人の責務。違いますか?」


「戦場で武器構えるだけが戦いじゃないんですし」


 頼もしい部下を持って私は光栄だ。


「おう、話終わったかい?」


「軍人はイヤだね~肩がカチンガチンコにこりそうだ」


 格納庫に知った二つの声が木霊する。


 見ればフル装備状態のタカヤとコウが足を踏み入れていた。


 双方とも首から下に強固なプロテクターを着込み、その重厚さが事の最後を雄弁に語っている。


「行くのね?」


 既にオルゴライザーは初期起動を終え、アイドリング状態にある。


「ああ、ちょっくらあの円錐ぶっ壊してくるわ」


「前まではちょっと骨が折れる数だけど、今なら簡単に殲滅できる」


 言い終わるなり二人は手を差し出してきた。


 別れの握手なのかと思った私はふと閃き、腰元のケースからあるものを取り出しては二人に握らせる。


「はい、これ餞別」


 私が二人に握らせたのは隠し持っていたチョコレートバーだ。


「んだよ、この俺様がせっかく握手してやろってのに、手に菓子握らせてきたぞ」


「あはは、一本取られた、いうか一本くれたね」


「腹が減っては戦ができぬと言うでしょ。万が一の為に持っておき――ってもう食べてるし」


 言い終える前に、渡したチョコレートバーは二人の胃に収まっていた。


「くっ~美味いなこれ」


「甘さ控えめだけどちょうどいいよ」


 味に喜ぶ顔は一〇代の少年と変わりはなかった。


「この戦いが終わって無事に再会できたら記念に焼肉でも奢るわ」


「おい、いいのかよ。クソ高い肉を破産するまで食うぞ」


「僕たちは育ち盛りだから店が経営不能になるまで食べるよ~」


 恐ろしいことを平然と言ってくれる。


 だけど散財に怖気抱く理由がなかった。


「あなたたちを懐柔するための接待って名目で総司令部に経費で落とさせるわ」


 上層部の頭がいくら硬かろうと、二返事で経費として認可するだろう。


 接待費とミサイル一発の費用を比較すれば、明らかに接待費のほうが安くつく。


 ミサイルより強力な軍事力が焼肉一つで安く手に入ると鑑みれば、成否関係なく落とさぬ理由よりも落とす理由が多いと私は読んでいた。


「おいおい、事が終わったら俺様たちを軍属にさせる気かよ」


「僕は嫌だよ。軍なんてガチガチコチンの組織に属するのなんて」


「嫌なら嫌で断ればいいでしょう。入るのも入らないのもあなたたち二人の自由よ」


 上層部がオルゴネイターを単純な戦力としか見ないのならば、武力衝突は避けられないだろう。


 けれど言葉通じる者だからこそ、接し方次第でどうにかなるのだと私は経験から推察していた。


『二人とも準備はできましたか? できたのならオルゴライザーに搭乗してください』


 天井スピーカーからミィビィの音声が響く。


「それじゃな、ユウミ。焼肉忘れるなよ」


「忘れたら、焼肉焼く前に地球焼くからね~」


 素で恐ろしいことを言ってのけようと、私は苦笑するしかない。


 なにしろこれが彼らなりのフレンドリーな接し方だから。


「なら、最後に教えて」


 だから私は最後に今一歩、二人に踏み込んだ。


 揃って、何をとのしかめ顔を当然される。


「二人のフルネームよ」


 しばし顎をしゃくらせて顔を見合わせたタカヤとコウだけど、まいっか、といった顔で告げるのであった。


「俺様は大海タカヤだ」


「僕は柊コウ」


 つい先ほどミィビィから聞いた話を思い返せば、二博士には娘がおり結婚して子供がいた。


 タカヤとコウの名字が草薙や黒部でないのは、彼らの祖父が母方に当たるからだ。


「てっきり草薙と黒部だと思っていたわ」


「草薙はお袋の旧姓だっての」


「黒部も同じく」


 二博士の孫がオルゴネイターだと総司令部が知れば、なお一層、懐柔に力を入れるだろう。


「それじゃ、行ってらっしゃい」


「おう、そっちは任せた」


「波動を越えるハドウが何か任せたからね」


 私はオルゴライザーに乗り込むタカヤとコウの姿を最後まで見届けることなく、部下共々配置についた。


「各員、端末にオルゴフォートレスのエネルギー経路を表示、次いでオペレーションルームと通信を繋いでオルゴライザーのモニタリングデータを回してもらって。激しい戦闘が予測されるわ。荷崩れや衝撃に気を付けて」


「既に受け取っています」


「オルゴフォートレス、フォートレスモードからカイザーモードに移行を開始しました」


「各部前回移行時とデータ変化なし」


「砲撃、開始されました」


 さあ、行くわよ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る