第27話 二人の行方

 その後の話――


 私は格納庫で正座していた。


 正確には、正座を、させられていた。


<私はカイザーの大回転で部屋を荒らしました>


 と書かれたプラカードを首から下げて……。


「何よ、この仕打ち」


「「落とし前」」


 タカヤとコウの素っ気ない声が揃って格納庫に反響する。


『はいは~い、通りますよ~』


 フォークリフトで機材を運搬する波動精隷が両者の間を通り抜ける。


 ふと目が合うもこれまた素っ気なく逸らされ良心が痛い。


 ヒートトーチで焼かれなかっただけマシと思いたい。


「というか、なんで俺様たちまで片づけせなあかんのよ?」


「そ~だ~そ~だ! 最前線で戦っていたから疲れてんだよ!」


 オルゴネイター二人を論破するのは天の声。


 正確には天井にあるスピーカーからの声である。


『人手不足だからです!』


 ミィビィの論破に二人は揃って唇をへの字にして不満を色濃く顔に出す。


「ユウミの部下たちはどうしたんだよ?」


「人手不足ならその人たち馬車馬みたいに使えばいいでしょう?」


『医務室でうなされています』


 悪いことをしたなと、私はうなだれる。


 オルゴノイドや波動精隷ならともかく、私たちは軍人――ただの人間である。


 カイザーの大回転に部下たちは耐えきれなかった。


 四散した資材にて負傷はしていないようだが、今現在、医務室で嘔吐感と平衡感覚の狂いに苦しんでいる最中である。


「あ~もういつまで正座しとけばいいのよ?」


 うなだれながら口から零した私の疑問は――


『知らない!』


 格納庫にいるもの全員の集中砲火で無碍にも打ち落とされる。


「勝てば官軍! 犠牲なくして勝利なし!」


 けれど私は集中砲火に怖じることなく果敢に言い返した。


「まあ、そうだが、落とし前は当たり前」


「オルゴライザーの起動どころか不動要塞を巨神にしたのは太鼓判だけどね、けじめは大事」


 タカヤとコウは一定の理解を示そうと、招いた弊害を無視できないのは理解できた。


 今現在、オルゴフォートレスは蛇の攻撃で破壊された砲塔をメカニック担当の波動精隷たちが修理に当たっている。


 オルゴエネルギーを用いた超高速3D成形プリンタで生産されたパーツにより、既に組み立て作業に移っていた。


「けど、ジジイ共め、こんなでかくて面白いものがあるなら、最初から言っておけっての」


「まったくそうだよ。思いっきりビームやミサイル撃ち込めるとか爽快以外に何があるの」


 オルゴネイター二人は怖いくらいに笑みを浮かべている。


 開発者が秘密中の秘密にした理由がもう一つ見えた気がした。


 新しく買い与えられた玩具のように、遊び尽くして破壊し尽くすのが目に見えていたからではないかと。


 そうまるで新しい玩具を敢えて孫に与えない祖父のような……ふとここで私は思いつく。


 当初と異なりオルゴネイター二人とはなんやかんやと意思疎通が出来つつある。


 だから私は今一歩踏み出してみた。


「ところで草薙博士と黒部博士はどこにいるの? 亡くなっていたら亡くなっていたで証拠を総司令部に提出しないといけないのよ」


 私の踏み込んだ発言にタカヤとコウは、目をぱちくりさせては、しばし顔を見合わせる。


 身振りや手振り、足まで使ったやりとりが続くこと五分。


 お前が言えよ。

 君が言うべきだね。

 いやいや。

 どうぞどうぞ。


 と、その間、私はやりとりを勝手に脳内アフレコする。


「部屋は荒らされたが、なんだかんだ助かったんだし礼に教えてもいいんじゃね、なあ相棒?」


「奇遇だね、相棒。僕もだよ。それに教えたところで損得の零だしね」


 話し合いはつつがなく終わり、少年二人は揃って天井を指さしていた。


「この要塞の上にいるの?」


 要塞が巨神となる前例を踏まえれば、隠し部屋があると私は率直に思った。


「上、言うか、宇宙だな」


「外、まあ地球での時間で三〇年前、超重力ケージが出た後だね。宇宙の海で釣り勝負してくるとか唐突に出かけて以来、音沙汰なし」


「はぁ?」


 突拍子もない真実に、私口をあんぐり開けては表情を強ばらせてしまう。


「理由は忘れたが、ジジイ同士、殴り合いの喧嘩しだしてよ。普通の釣りはつまらんとか揃って抜かせば、宇宙人がいるなら宇宙魚もいる! とか訳わからん事言い出してさ」


「宇宙ロケット作ってそのまま宇宙にお出かけ。けちょんけちょんにしてすぐ戻ってくるとか、互いの白髪毟りながら言ってたけど、生きてるのかな~?」


「あのジジイ共だぞ。簡単にくたばる玉か。どうせ生きているっての」


 今得た情報を統合すれば、黒部博士はともかく草薙博士もまた生存していたことになる。


 善と悪に分かれた共犯者だからこそ、己の死を偽装し<黒薙島>に潜伏していた。


 裂け目の先にある異界ウドナザでイヴァリュザーと戦う準備を整えた。


 整えるだけ整えては、戦いを他人任せにして釣りに出かけるのはいさかか無責任ではないか、私は閉口するしかない。


「総司令部が知ったら保護するとか言って有人ロケット飛ばしそう」


 否応にも飛ばすだろう。


 いや必ずや飛ばす。


 確信させてしまった。


「宇宙のどこを探す気だよ」


「宇宙は広いよ~」


 タカヤとコウの流すような発言からして、行き先の把握はおろか追跡すら困難のようだ。


 ともあれ、先の会話内容を記録しておこう。


 私は腕時計型端末を構えるけど、下半身から来る痺れに中断を余儀なくされる。


「あ、足、し、痺れた……」


 正座にて両足は痺れ、私は力なく前のめりになる。


「胸にでけ~のつけてるからだろ」


「前に倒れたのは胸が重いせいだね」


 琴線に触れる発言に私は立ち上がろうにも立ち上がれず、前のめりのまま悔しさを噛みしめるしかない。


 また格納庫にいる波動精隷の姉妹全員が胸のサイズ差に怨嗟を噛みしていた。


 あ、そこ! 仕舞ったヒートトーチ出さない!

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