第22話 無敵不倒を打倒せよ!

「二人ともさっさと準備しなさい! どでかいの行くわよ!」


 私の怒声に近き音量に顔を見合わせたタカヤとコウ。


 数回互いに頷き合えば、足を折り曲げ、力の充填を開始する。


 クドとフドもまた歌うのを再開する。


 私はカイザーで掴んで振り回し続けた蛇を天高く放り投げた。


 空気の壁を突破して天高く舞う蛇は、全身を激しくくねらせながら空中で姿勢制御を試みている。


 遙か眼下にいる大地に向けて背の刃より無数の光線を放ってきた。


 豪雨のように降り注ぐ光線は誰一人とて命中せず大地を削る。


「こいつ、誰も狙ってないな!」


「まさか!」


 タカヤとコウに続いて私もまた蛇の狙いが攻撃でないと見破った。


 発射にて生じる反動を利用して落下衝撃を和らげようとしているのだ。


 衝撃を抑えられれば抑えられるほど、体勢を整えて次なる行動に移りやすくなる。


 当然のこと蛇の口内に禍々しき光が集い、今までにない輝きを落下しながら放たんとしている。


 だから私は迎え撃つ。


「オルゴビックミサイル発射!」


 カイザーの腹部が開かれ、オルゴンの光が大型ミサイルを形作る。


 腹部にはオルゴエネルギーを用いた超高速3D成形プリンタが内蔵されており、ミサイルの自己生産を可能とした。


 ミサイル一発につき必要成形時間は五秒。


 撃ち出されたミサイルは噴射炎をなびかせ、マッハ二の音速に至る。


 蛇の巨体をかすめもせずロケットのようにはるか上空に飛んでいった。


「下手くそね」


 女の嘲笑が響こうと私は一発外した程度で気にしない。


 蛇は口内より一本の収束された光を放つ。


 ただ太い光を放って私たち全員を攻撃するのではない。


 糸のように一本へと収束させることで貫通力を増大させてきた。


「ピンポイントオルゴバリア!」


 蛇が光線を放ったと同時、私はカイザーの左手を天高く掲げる。


 光線は左掌に直撃し、激しい閃光が満ちる。


 けれど、光線は左指先すら焼くこと叶わず、集う光に収束したエネルギーを拡散させられていた。


「うお、あぶね!」


「ユウミ、もうちょっと考えて拡散させて!」


 火の粉となった光線がタカヤとコウを掠め、大地を抉り熔かす。


 ピンポイントオルゴバリアは文字通り、バリアを全身ではなく要所、要所で展開させる防御システム。


 守る箇所は狭くとも、守りたい部位だけを防ぐとエネルギー消費共々効率が良い。


 また全身に回すエネルギーを一点集中させれば、貫通力の高い攻撃を防ぎきる堅牢な盾として、また攻撃に応用すれば攻撃力を高めることができた。


「今だ、遅れるなよ、コウ!」


「タカヤこそ、こけないでね!」


 破壊の乱舞が収まると同時、空を見上げたタカヤとコウは競うように走り出した。


 私もまたカイザーの右手にオルゴエネルギーを集中させていく。


 発射反動で滞空した蛇は今一度収束された光を放たんとする。


 口を大開きにして光を収束させた瞬間、頭頂部に飛翔体が突き刺さる。


「み、ミサイルですって!」


 女が驚愕の声を漏らす。


 外したはずの大型ミサイルが反転し蛇の頭頂部に直撃した。


 ミサイルは爆発することなく、蛇の頭頂部に突き刺さり、ロケット推進を持ってして急転直下で大地へと猛進する。


 私は既に指定落下ポイントにカイザーを立たせ、腰を落とすようにして右拳を握りしめていた。


 巨神の装甲の凹凸を利用して二人のオルゴネイターが駆け上がる。


「外したのはわざとよ!」


 弾道計算はミィビィたちオペレーションルームに一任した。


 後は、どれほどの質量・推進力・距離でミサイルを放ち、いつ反転させれば良いのか、計算に計算を重ね、反転に不可欠な推進偏向装置をつけて撃ち出した。


 一歩間違えれば戻ってきたミサイルが巨神に直撃する危険性があろうと、第一の賭けは成功した。


「オルゴブレードナックル!」


 私はカイザーの右手甲より光刃を伸展させる。


 オルゴエネルギーを収束展開させた刃は触れれば消える!


 蛇は尾でミサイルを叩き落とそうとしているけど、生憎、そのミサイルはね、先端に銛のような返しがあるのよ。


 食い込んで離れないでしょ!


 大地が迫る中、蛇は尾をミサイルに巻き付けて、無理矢理引っこ抜かんと手を変えてきた。


 多少の損傷など気にならない。


 損傷すればするほど、脱皮による完全回復を重ねれば良い。


 ミサイルの先端がぐらつきかけた時には光刃の攻撃範囲であり、私はカイザーでミサイルごと蛇の頭部を突き貫く。


 首から上を吹き飛ばされた蛇は悲鳴をあげることなく、巨躯を大地に打ち付けた。


 衝撃は波となって大地に亀裂を走らせ、砂埃を舞い上げる。


 蛇は頭部を失いながらも生きており、脱皮による再生を行おうとしていた。


 目論見通り!


「二人とも出番よ! しっかり抑えておくから好きなだけやりなさい!」


 今ここで第二の賭けが実行される。


 私はカイザーの巨大な足裏で蛇の中央に当たる部位を踏みつけるようにして抑え込む。


 全身の重心をかけ、蛇も身動きを封じようと脱皮は封じられないのは当たり前。


 失った頭部が皮一枚の下で再生されつつあった。


「さあ、脱皮できるもんならしてみろや、おら!」


「ウロボロスって身を喰い合う蛇なんでしょ?」


 口元を今までになく、にやつかせるタカヤとコウは蛇の巨躯に飛び乗っている。


 二人がその手に掴むは脱皮した皮。


 巨大な布の先端を掴む要領で脱ぎ去る前の蛇皮を掴んでいた。


「はいっと!」


 私はカイザーの右手より再び伸展した光刃で蛇の尾の先端を切断する。


 尾の先もまた脱皮による再生が始まっており、新たな部位を形成していた。


「突っ込むわよ!」


 次いでカイザーの左手で脱皮により再生しつつある頭部を掴み上げる。


 カイザーの右手に掴むのは蛇の尾だ。


「ほらよっと!」


「ご開通!」


 タカヤとコウが銃弾で蛇の鼻先の皮に穴を開ける。


 蟻の一穴堤を崩すとある通り、端から見れば脱皮を手助けしているにすぎない。


 現に、女はトチ狂ったのかと声を出すことさえ忘れているようだけど、やかましくないから私は放置する。


「ふんぬっ!」


 まるで異なるケーブル同士を接続する要領で、私はカイザーで蛇の口内に尾の先端を突き刺す形で押し込んでいた。


 蛇は尾の先端を吐き出そうとするもタカヤとコウが許さない。


 脱ぎかけた皮を紐状に引き裂いては、硬く結んでいく。


 一カ所、また一カ所とタカヤとコウは脱皮した皮同士を結ぶ。


 それでも蛇はすべての皮を脱ぎ去らんともがきあがく。


「ステープラー射出!」


 ミサイルの次はこれよ!


 カイザーの腹部より高速成形されたステープラーが連続して射出される。


 コの字形をした金属の針はいわば巨大ホッチキスの針だ。


 結び目を頑強に固定せんと蛇の表皮に突き刺さり、古き皮と新しき皮を縫い留めていく。


 古き皮を脱ぐに脱げぬ蛇は頭と尾を犠牲にして脱出を図ってきた。


 閉じこめられた頭部より光が漏れだした。


「おい、ユウミ、こいつしぶといぞ!」


「次はどうするか聞いてないよ!」


 蛇が光線を放って拘束を解かんとするのは予定調和。


 頭や尾が自らの光で吹き飛ぼうと脱皮すれば解決する。


 それは同時にね、私たちの勝利の鍵になるのよ!


「こうするのよ! ふたりともどきなさい!」


 タカヤとコウが蛇からカイザーの左肩に飛び移ったのを確認すれば、束となったケーブルを持つ要領で巨大な両手で蛇を持ち上げた。


「ま~た、投げるのかよ!」


「バカの一つ覚えだ!」


 タカヤとコウが仰々しい失笑を浮かべる姿をサイドモニターで確認した私は無言で再度ペダルを踏み込んだ。


 再び右へと回り出したカイザーに顔色を変えては、慌てて装甲にしがみついている。


「おい、回すなら、先に!」


「ちゃんと最後まで伝えて!」


『ユウミさん、もうそれは止めて―!』


 左肩とオペレーションルームの抗議に私は断固として無視をする。


 カイザーは束ねた蛇の巨躯をフルスイングで上空へと投げ飛ばした。


『これでいいのよ!』


 私には勝利への確証が宿っていた。


 脱皮は確かに無限と再生の象徴でしょう。


 けどね、脱皮は無限であって無敵じゃないのよ!

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