第20話 ソングブースターオン!

『『……――なんかロボットになってるしいいいいいっ!』』


 集音センサがタカヤとコウの揃った叫びを私に届けてきた。


「ああ、もう驚くのは分かるけど後にして!」


 なりゆきから操縦桿を握る私は爆ぜる鼓動の中、正面モニタ越しに蛇と睨み合っていた。


 巨大な拳で殴り飛ばした蛇は大地の亀裂奥に沈み込む。


 けど決定打とはならず、長い体躯を活かして亀裂の奥より飛び出しては鱗と鱗の隙間に赤熱化した光を漏らし怒りを体現する。


 私は蛇が体勢を立て直す間、改めてコクピット内に素早く目を走らせた。


 うん、このコンソールの配置、間違いないわ。


 基本操縦は左右の操縦桿と足下にある一対のフットペダル。


 全身に装備された兵装を使用するには、正面コンソールにタッチするか、音声入力で起動させる。


 細かな照準や索敵などはオペレーションルームにいる波動精隷たちが調整してくれるよう基幹システムに組み込まれていた。


「基本操作は統合軍の操縦法で通じる。いえ、草薙博士の開発した操縦システムは統合軍正式採用。だから私でも操縦できる!」


 開発者が同じだからこそ同じ操縦システムが採用されている。


 波動機甲帝オルゴマキシカイザー。

 

 長いのでカイザーね!


 絶対不動の要塞オルゴフォートレスが超巨大な人型ロボットに変形した。


 オルゴライザーは起動キーでありコア


 ツインリアクターの高い出力を受け、要塞は殴りつける超巨大人型兵器へと変形した。


 誰が言ったか変形こそロボットの華。


 何より驚くべきはその超巨大ロボットを私が成り行きで操縦している事実だ。


『ユウミさん、あまり無茶はしないでください!』


「分かっています。ですから、ミィビィさんたちはサポートをお願いします!」


 オペレーションルームは巨神変形の混乱から立ち直りつつあった。


 巨神中にいる波動精隷たちから非難轟々であったが、ミィビィのお陰で一先ず矛を収めてくれた。


 ただ物資管理担当の波動精隷から怨嗟の声が通信越しに届いていたから怖さのあまり通信をカットした。


 後が怖いが、それはこの戦闘が終わった後にする!


「まず二人の力を取り戻させないと!」


 私は操縦桿のボタンを押し込み、カイザー頭部二連装砲よりビーム弾幕を放ち、蛇を牽制する。


 豪雨のように放たれるビームの速射は蛇の巨体を縫い止める威力を見せつけている。


 その間、私はコンソールに指を素早く走らせ、エネルギー供給システムを起動させた。


「オルゴレーザー式エネルギー供給システム起動!」


 カイザー頭部の額に虹色の光が集う。


 正面モニターにタカヤとコウの姿が拡大表示。


 ターゲットマーカーが二人のオルゴギアを自動捕捉。


 オルゴエネルギーを指向性ある特殊粒子線として照射した。


「うお、なんだこりゃ!」


「お腹に、いやギアにレーザーが!」


 カイザーより照射された二つのレーザー光が二人のギアに吸い込まれる。


 その間、五秒もなく、レーザー光が潰えた時にはタカヤとコウの全身より嵐と雷が迸っていた。


 システム解説では送電線を用いない電力供給技術の応用とされるが、蛇より放たれたマイナスの波動を上書きするまでのエネルギーだ。


 これもツインリアクターの恩恵なの?


「すげえ、力が漲って来たぜ!」


「なんて力だ!」


 二人の言動からして気を抜けば全身がバラバラになると錯覚させるほどのパワーときた。


「ん~フド、いけるわね!」


「うん、いけるよ、お姉ちゃん!」


 抑え込まれていた鬱憤を晴らすようにクドとフドの姉妹の姿が露わとなった。


「よし、フド、あれを使うぞ!」


「クド、さあ、思いっきり歌う時だ!」


 クドとフドのテンションはまさにフォルテッシモ。


 タカヤとコウは合わせることなく、腰のケースから一つのデバイスを取り出した。


 四角くて薄い、手の平に収まるほど小さなデバイスだ。


「ソングブースターオン!」


「ソングブースターオン!」


 オルゴギア正面に装着した瞬間、二人の波動精隷より光が満ち溢れる。


「この歌?」


 私は襲撃時に聞いた歌を今一度聴いた。



 タカヤとコウがオルゴギアに装着したのはライブラリによればソングブースター。


 波動精隷の歌声を増幅させるオルゴギア拡張ユニット。


 オルゴネイターの源が波動精隷だからこそ、彼女たちの能力が増幅すれば比例して波動たる力も増幅する。


 彼女たちの能力の源こそ歌。


 ただし、強大な力にはリスクが影の如くつきまとうのが常。


 ギアにソングブースターを装着しただけでオルゴネイターの力は増幅しない。


 波動精隷のテンションが最高潮にならなければ、ソングブースターは機能せず、アクセサリーに成り下がる。


 また強力だからこそギア装着者の肉体にかかる負荷は重い。


 波動精隷と足並みが揃わなければ、内に駆け巡るオルゴエネルギーに打ち負かされ自爆するリスクすらあった。


 もっとも、タカヤとコウを認めているクドとフドに至っては、足並みを揃える必要がないようだ。



 蛇の巨体を嵐と雷が蹂躙する。


 渦巻く旋風と鳴り響く轟雷の中、二つの歌声が可憐に響き渡る。


「行くぜ、行くぜ、行くぜ!」


「撃って、撃って、撃ちまくる!」


 タカヤの蹴脚が蛇の鱗を蹴り砕く。


 コウの放つ銃弾の雨が鱗を破砕する。


 鱗の奥より露わとなる身に合わせることなく、嵐の蹴りと雷の銃弾を叩き込む。


 蛇が不協和音のようなひときわ大きな悲鳴を上げる。


「さあ、じゃんじゃん行くわよ!」


「まだまだ歌い足りないんだから!」


 波動精隷の姉妹は風のように歌い、雷のように踊る。


 宙でステップを踏む度に空気は震え、可憐な羽が羽ばたく度に歌声は一層広範囲に伝播していく。


 無論、蛇とて一方的に攻撃を受ける身ではない。


 蹂躙する立場が一時的に逆となっただけ。


 尾で疎ましい人間二人を払いのけるも空を切る。


 生じた真空波も大地を裂くだけで終わろうと、距離が開けたことで大口を開いて光を集わせた。


 だから私はカイザーを前進させる。


「二人とも下がって!」


 カイザー靴底部クローラーの滑走で蛇に急迫する。


 右手を硬く握り締め殴りかからんとするも、蛇は拳が届く直前でチャージを終え、巨神を光で包み込んだ。


 正面モニターは眩き閃光に染まり激しい振動が私を襲う。


 けれど損壊や危機を伝えるアラートは一切鳴り響かない。


 何故なら――


「その程度で――壊れるわけないでしょうが!」


 拳に集約されたオルゴエネルギーがエネルギー被膜を形成し、蛇の光線ベクトルを逸らしたからだ。


 蛇は仕留めたと思い込み、その舌先を慢心で震えさせている。


 残光溢れる中、私は蛇の口内に巨神の拳を叩き込んだ。


 そして――


 蛇の口内に打ち込んだ拳の五指を開かせる。


「五連フィンガー砲、フルバースト!」


 巨神の五指に内蔵された五つの砲口は蛇の後頭部を貫いた。

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