第117話 相談とお願いと

 食事を済ませ、ちびっ子と酔い潰れたギデオン殿、ラーデン殿を除く全員で後片付けを始める。


 全く、全然懲りておらんではないか。

 見よ、ミミ殿とククル殿の殺気の籠った視線を。ワシに向けられている訳でもないのに、先程から冷汗が止まらんのだぞ!?

 それを平気で受け流す二人は、元大魔王であるワシ以上の胆力の持ち主、ということだ。

 ……違うな。此奴等の危機察知能力が低過ぎるだけだな。


「マルグリット様! ちゃんと自分の分は後片付けしないと駄目ですよ!」

「えー、ですわ……」

「えー、じゃありません!」


 お、ちびっ子もライラに叱られ、渋々後片付けを始めおった。うむうむ。

 しかしちびっ子の奴、ワシの言うことは全く聞かん癖に、ライラの言うことは良く聞きおる。


 そんなこんなで。


 後片付けも終わり、ちびっ子達お子様は早々にテントに入って就寝中である。

 ワシ達は、取り敢えず邪魔な酔っ払い二人をテントに押し込め、辺りを警戒しつつ、メルザの淹れてくれたお茶を飲んでいる。


「ふむ、しかしギデオン殿が泥酔してしまった所為で、警護がワシとミミ殿になってしまうな」

「……大丈夫。お姉ちゃんに任せて」


 ……一体ミミ殿はどれだけワシに“お姉ちゃん”と呼ばせたいのだろうか。

 そんなことを考えておったのだが、何気ないワシの言葉に、メルザが素早く反応した。


「ちょ、ちょっと待って下さい!? 夜更けに二人で警護するんですか!?」

「? それはそうだろう?」


 何を言っているのだ?

 ギデオン殿が使い物にならない以上、二人で警護するしかないであろうに。


「そ、それだとシードさんが……こ、これはマズイです……」

「? メルザ、貴女一体何を心配……二人…………ハッ!?」


 メルザが何やらブツブツ言い出したかと思いきや、その様子を見ていたライラが何かに気付いたのか、思いっ切り目を見開いた。


「……大丈夫。私はお姉ちゃんだから、寧ろ二人のこと応援してる。それに、そもそも非モテのシードに、そんな奇特な人間、二人しかいない。ププ」


 ミミ殿が何を言っているのかは解らんが、取り敢えず馬鹿にされたことだけは理解した。ちくせう。


「そ、そうですか……? そ、それでしたら……」

「う、うん! そそそうだよね! そんなの、私達くらいしかいないよね! ね!」


 ミミ殿の言葉を受け、何やら二人は頬を赤らめつつも複雑な表情をしている。

 あれか? お主達もワシが非モテだと思っているのか? 事実ですが何か? ちくせうちくせう。


「……という訳で、また交替して警護しなきゃいけないんだから、二人共早く寝る」


 そう言って、ミミ殿はピッっとテントを指差した。


「そ、そうですね……」

「う、うん。そろそろ寝よっか……」


 そうして、二人はすごすごとテントへと入って行った。

 なお、ククル殿は額に青筋を立てながら、かいがいしくラーデン殿の世話をしている。なんだかんだ言って、ククル殿は面倒見が良いのだ。でなければ、今頃ラーデン殿は人生落伍者のロリコン野郎の烙印を押されているであろう。ヤベ、伏字忘れた。


「……ふっふっふ。ということで、お姉ちゃんのお悩み解決コーナーの開催。ドンドンパフパフ」

「ハイ!?」


 ええ!? 皆いなくなった途端、何言い出してるの!?


「……さあシード、お姉ちゃんに悩みを言う。お姉ちゃんはお見通し。本当は悩みがある筈」


 ズビシッ、と指差してくるが、ワシの悩みなど、“リア充”以外何もないし、そんなこと、ミミ殿も知っておるであろうに。

 そして、今まで何一つ解決してもらってないのだが。


「では……ワシはどうすれば“リア充”を手に入れることが出来るであろうか?」

「……うん。ガンバレ」


 ええ!? 超投げやり!?

 しかもどこ見てるの!? なんでワシの方見てくれないの!?


「け、結局何一つ解決してないのだが……」

「……察して」


 ハイ、お悩みコーナー終了しました。

 一体何がしたかったんだろう。


「……シードの悩みに答えてあげたから、次はシードが私のお願いを聞く番」

「へ?」


 何で? ワシ、お悩み解決してもらってないですが?


「……此処から王都までの途中に、私達が育った“孤児院”がある。其処に寄り道するように、シードがみんなに提案して」

「ハイ?」


 そういえば、以前ルインズの孤児院で、ミミ殿とギデオン殿が孤児院出身だと言っておったな。

 孤児院は二人にとって実家のようなものなのだろう。久しぶりに帰りたいと考えても不思議ではない。

 だが、何故ワシがそれを提案するのだ?


「ええと、ミミ殿? であれば、別にミミ殿が話をすれば良いと思うのだが。特にラーデン殿なんか王都に行きたがらないので、寄り道大賛成だと思うぞ?」

「……ダメ。私が言うと、ギデオンが勘繰って、絶対に反対する」


 ふうむ、ギデオン殿は孤児院に帰りたがらないが、ミミ殿は帰りたいと。

 何かギデオン殿に帰りたくない理由でもあるのだろうか。


「取り敢えず、ギデオン殿が反対すると思う理由を聞いても?」

「………………………………大した理由じゃない」


 あれ? 何だかミミ殿の“……”が何時もより長いんですけど。

 だけど、大した理由じゃないって、嘘だよな。

 うーむ、だからといってこれ以上込み入った話をミミ殿から聞き出すのもな。[翡翠の眼]で見れば直ぐに分かるが、そんな信頼を失うような真似はしたくない。


 ……はあ、やれやれ。

 ワシ、こんな勘違い系主人公みたいな台詞を吐くようなタイプではないのだがな。


「……分かった、理由は聞かん。取り敢えず、明日の朝にでも皆に提案してみよう。それで、その孤児院は何処にあるのだ?」

「……王都への街道から少し離れた村で、名前は“ヘレル”っていう。明日コース変更すれば、その二日後には到着すると思う」

「うむ。分かった」


 ……が、どんな理由にするかな。

 そもそもルインズの街しか知らんワシが、突然そのヘレル村に行きたいと言ったら、ギデオン殿に不審に思われること請け合い。

 少しでも行く理由を見つけねば。


「で、だ。そのヘレル村には何か名物とか特産品とか、観光名所的なものとかあったりしないか? ほら、理由がないのにワシが提案しても、不審に思われて反対されるのがオチだぞ」

「……ない」


 オイオイ、詰んだぞコレ。

 うーん……あまり、こういう人に迷惑を掛けるようなことしたくないのだがなあ……。

 仕方ない、何時も世話になってるミミ殿のためだ。

 ……“大魔王モード”になるか。


「……シード、それはダメ」

「んお!? な、何がだ?」

「……シードが悪役になってまでするのは違う。シードには似合わない」

「む、むう……」


 何で分かったのだ!?


「……それは勿論分かる。私はシードのお姉ちゃん」


 ミミ殿がムン、と薄い胸を張る。

 くうう、お主が無理難題を吹っ掛けて来た癖に! ならばどうしろと!?


「……大丈夫。実は、ヘレル村の先に“ロヤの森”というところがあって、其処を抜けた方が王都への近道になる。それに、村だと休息も取れるから、ククルさんは絶対にその提案を受け入れる筈」


 ええー……そういうことは早く言って欲しい。

 ワシ、真剣に悩んだのに……。


「うむ……ならば明日、ワシが【風脚】で偵察に向かう体で確認してきた振りをするので、ミミ殿がそれに乗っかる、ということで良いか?」

「……うん。それで良い」


 ふう、取り敢えず何とか話はまとまった。

 ミミ殿とギデオン殿、それとその村に何があるかは分からんが、おかしなことにならなければ良いが……なるようにしかならんか。


「ふむ。では話もまとまったので、ワシは周辺を見回って来る」

「……分かった。でもシード、女の子達のテントに忍び込んだら……って、そんな度胸ないか。ププ」


 ぬお!? ワシ、そんな真似はせんぞ!? ていうか、ワシにだってそんな度胸位……ないな。


「で、では、行って参る」

「……シード」


 ワシはいたたまれなくなったので、そそくさとその場を離れようとしたところで、不意にミミ殿に声を掛けられた。


「な、何だ?」

「……ありがとう」

「……うむ」

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