第114話 ククル殿と依頼と

「あ! シードさん! 丁度良かったっす!」


 何故かギルドの窓口にいたククル殿が此方に気付き、声を掛けながら此方へと駈け寄って来た。

 はて? 丁度良かったとは?


「ククル殿、一体どうしたのだ? しかもその口振りだと、まるでワシ達に用があるようだが」

「そうっす! 実は、シードさんやギデオンさん達に指名依頼をしに来たっす!」

「指名依頼?」

「シードさん、指名依頼とは、特定の冒険者を指名する依頼方法のことです」


 疑問に思っていたのに気付いたメルザが、指名依頼について説明してくれた。


「ふむ。であれば、直接言ってくれれば良いと思うのだが」

「ええ、それも考えたっすけど、やっぱりギルドを通した方がシードさん達に迷惑が掛からないんじゃないかって、うちの若旦那の判断っす」

「そうなの?」


 ワシは隣のメルザに視線を送る。


「そうですね……私達冒険者は、ギルドが斡旋する依頼で成り立ってますから、ギルドとの今後の付き合い等も考えると、その方が良いかとは思いますが……私達には全く影響ないですね」


 それもそうか。

 そもそも、メルザがギルド職員を兼務している訳だし。だが、職員であるお主がそれを言っても良いのだろうか。


「それで、ワシ達への依頼というのはどのような依頼なのだ?」

「はい、実は若旦那とウチなんですが、本店から召集が掛かりまして、王都へ行かないといけないっすけど、その道中の護衛を頼みたいっす」

「「「王都までの護衛!?」」」


 いや、何ともはや……丁度ビセンテ局長の頼みを断ったところで、別の所から同じような依頼を受けるとはな。何と因果な。


「それで、この依頼受けてくださるっすか?」


 ククル殿がおずおずと尋ねてくるが、そんなもの、返事は一つである。


「勿論。その依頼喜んで受けさせていただこう。二人共、良いか?」


 ワシは二人に念のため確認する。

 まあ、ダメであれば、ワシがソロで受けても良いと思っているが。


「はい、大丈夫です」

「うーん、私も多分大丈夫だけど、その……」

「ああ、エイラ達か」


 ふむ。確かにライラは妹弟の世話もあるからな。だがそれは、ワシの【転移】で全て解決ではあるが。


「多分、夜間の護衛でみんなに負担掛けちゃうから……」

「何を言ってるんですか。それくらい、私達だけでカバー出来ますよ。まあ、どうしても来れないのであれば、仕方ありませんね。その間、私がしっかりばっちりシードさんのお世話をしますので」

「なっ!?」


 メルザはフォローしてるのか煽ってるのか良く分からんな。


「む、む~! 分かった、私も行く! 絶対に二人だけにさせないんだから!」

「そうですか、それは残念」


 全くメルザめ。残念と言いながら、少し嬉しそうにしているのはどういうことだ?

 それとライラよ。ラーデン殿達がいるのに二人きりになれる訳ないではないか。


「ということで、ワシ達は参加だ。よろしく頼む」

「あ、ありがとうございますっす! 因みに、ギデオンさんとミミさんは既にOK貰ってるっす!」

「そうかそうか」


 ふむ、これは楽しい道中になりそうだ。


「あーらシードちゃん、今の話、聞かせてもらったワ!」

「ヌオッ!?」


 突然アイリン殿がひょっこり登場した。心臓に悪いぞ。


「ネエネエ、それだったらビセンテ局長の依頼も一緒に……」

「断る!」


 それとこれとは話が別である!


「エー、結局同じじゃない……受けてあげても良いと思うケド?」

「全然違うのである! ……そんなに勧めてくるとは、ひょっとして何かあるのか……?」

「ドキ」


 オイ、自分で「ドキ」って言いやがったよ。

 そんな者がいるとは……。


「ふーん、で? 一応聞くが、一体何があるのだ?」

「エート、ソノー、ア、アハハ、実は……」


 アイリン殿はそのデカイ身体を小さく丸めながら、ポツポツと話し出した。


 冒険者ギルドは西方諸国の各国から独立した組織ではあるものの、各国とは協力関係にあること。

 今回の一件で、ちびっ子やメルザ達が不問、又は監視程度に収まったのは、これまでの王国とギルドとの関係を活かした結果であり、王国に借りを作っている状況にあること。

 ギルド本部としても、王国がワシと接触したがっていることは承知しており、これをもって借りを返す体にしたいこと。

 で、これを何とかするよう、ギルド本部からアイリン殿に圧力が掛かっている、とのことらしい。


「……という訳で、シードちゃん……お願いヨオオオオオオオオオオオ!」

「アイリン殿の事情は理解した。だが断る!」

「な、何でよ!?」


 アイリン殿が両頬を手で押さえ、この世の終わりみたいな表情になる。

 そして、その表情を見たワシは、更にこの世の終わりみたいな気分になった。

 だが、言うべきことは言わねばならん!


「ビセンテ局長のあの態度を許してしまったら、ワシにとって最も大事なライラやメルザが今後同じような目に遭っても、我慢しろと言うのか!」


 そう啖呵を切ると、


「エ、エヘヘ……」

「ウフフ……」


 二人が顔を赤らめながら、ニヨニヨとはにかんだ。


「エヘヘ……そ、そうだアイリンさん。提案なんですけど、例えば王国からギルドに直接依頼があった体にして、ギルドとしてシードに王都へ向かうよう依頼を出したらどうですか?」

「む」

「マア!」


 ライラから予想外の提案を受け、アイリン殿の表情がパアア、と明るくなる。だが、そんな表情を見せても需要は皆無である。


「ウフフ……そうですね。それならギルドとして王国に借りを返す形になりますし、私達としてもビセンテ局長の頼みを袖に出来ますから」


 メルザも嬉しそうに口元に人差し指を当てながら、ライラの提案に賛同した。


 ふむう……ワシとしては二人が良いのであれば、それもやぶさかではない。

 さて、アイリン殿、どうする?


「ネ、ネエ、シードちゃん、それでも……良い?」

「そ、それなら、構わんが……」

「あ、ありがとうシードちゃあああああああああん!!」

「ヒエッ!?」


 突然襲い掛かって来たアイリン殿にビビったワシは思わず身構える。

 すると。


「グエッ!?」


 間一髪、メルザ殿がアイリン殿の襟首を掴まえ、事なきを得た。


「マ・ス・タ・ア? いい加減にしてくださいね?」

「ハイ」


 メルザのプレッシャーを受け、アイリン殿が借りてきた変態みたいになった。あ、元々変態だった。


「あのー……もう話は終わったっすか……?」


 イカン! ククル殿が置き去りであった!


「ま、誠にスマン……兎に角、ワシ達は依頼を受けさせてもらうが、王都へは何時出発するのだ?」

「明日っす」

「「「明日!?」」」


 何とも急な話だな、オイ。


「そうっす。急な話で申し訳ないっすけど、本店にいる大旦那……若旦那のお父さんなんすけど、これがまたせっかちなお方でして。若旦那も大旦那には頭が上がらないっす」


 ふむう、しかしそうなると、準備は間に合うのか?

 いや、ワシは所詮独り身の男であるので問題ないが、女子は何かと準備が必要(薄い本情報)であるし、ライラは妹弟もおるからな。どうなのだ?


「あ、因みに旅に必要なものはフロスト商会で用意するっすから、手ぶらでも大丈夫っすよ」


 おお、気前が良いな。さすがはルインズ一の商会だけのことはある。

 これであれば、二人も準備等に手間取ることもないだろう。


「そうですね……それでしたら、私は大丈夫です」

「私も」

「うむ。もし必要な物が途中で生じたら、また取……モガッ!?「わーわー! だ、大丈夫だから!」」


 【転移】で取りに戻れば良いと言おうとしたところで、後ろからメルザに口元を抑えられ、ライラには会話を遮られた。

 何故!? ……って、そういえばククル殿はワシの魔術のこと知らんのだった。


「? 取り敢えず、集合場所は店の前で、明日の朝8時に集合っす! 皆さんどうぞよろしくお願いするっす!」

「うむ!」

「「はい!」」


 そして、ククル殿はお辞儀をした後、ギルドを出て行った。


「さて。アイリン殿、ということなので、ビセンテ局長の相手はよろしく頼むぞ?」

「…………………………エ!?」

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