第110話 幕間 ソウとシードと②
ハイ、ワシは今、中央通りに来ています。
実は先日、偶々ギルドでソウとバッタリ出会い、この前の続きとして第二回食べ歩きをしようと誘われたのだ。
その話を横で聞いていたライラとメルザは、「「何時の間に!?」」と不思議なことを言っておった。何時の間にも何も、ワシだって他に冒険者仲間がおってもおかしくないであろうに。
しかも、「「ひょっとしてソッチも……?」」と、大変不名誉な発言もあったが、寛大なワシはその言葉、全力でスルーさせてもらった。
という訳で、今ワシは待ち合わせ場所の噴水広場の前で待っておるのだが……少々早すぎたか?
いや、約束の時間の十五分前であるし、早い、ということはないよな? メルザとカフェデートしたときは一時間近く早く来てもメルザいたし。
「シードさーん!」
などと考えていると、ソウが手をブンブン振りながら、全速力で此方へと駆け寄って来た。
うーむ、これ、シ〇タのお姉様方がワシの立場だったら、キュンキュンするのではなかろうか。
勿論ワシはソッチ側ではないので、何も感じはせんが。ウン、ウソジャナイヨ?
「ハアハア……すいません、お待たせ、しちゃって」
「う、うむ……ワシも来たばかりであるし、未だ待ち合わせ時間にもなっておらんから、気にすることはないぞ?」
ソウは膝に手を置き、俯きながら息を切らしていると、徐に顔を上げ、はにかんだ笑顔を見せた。
……そんな顔したって、ワシは絆されないんだからね!?
「そ、それで、今日はどうする? 前回のように屋台の食べ歩きでもするか?」
ちょっと持ちこたえる自信がなかったので、話題を逸らすため、今日の予定を相談した。
「ええと、そうですね……今日はちょっと趣向を変えて、例えばお互いがお薦めの店に案内するっていうのは、どうですか……?」
ソウがおずおずと提案した。もっと堂々と言えば良いのに。
「うむ、それで良いぞ」
とは言ったものの、一体何処を案内するか……。
ワシが知ってる店など、春の陽亭かフロスト商会のカフェ位しか知らんからなあ。
まあ良い。
「では、先ずは何方からにする?」
「そうですね……じゃあ、シードさんからお願いしても良いですか?」
「うむ」
では、今の時間帯から考えて、あそこにするか。
「では食べ歩き第二弾、行くぞー!」
「オー!」
◇
「うわあ……凄い大きいです……!」
ソウがキラキラした瞳でまじまじと“ソレ”を見つめる。
「そうだろう? さあ、遠慮せず、お主のその小さな口で咥えてみるが良い」
「は、はい……だけど、ボク……」
恍惚とした表情を浮かべながらも、ソウはそのあまりに立派な“ソレ”を前に躊躇する。
「フフ。皆、“コレ”の前ではそうなる。だがな、結局誰一人として抗うことなど、出来んのだよ」
「あ……ああ……」
そして、ソウは恐る恐る“ソレ”へと艶めかしく舌を伸ばす。
「さあ……」
「は、はい………ん、ちゅ……」
ハイ。という訳で、ワシはフロスト商会のカフェへと案内することにした。
そして、名物のデラックスパフェを注文し、今それをソウがニヨニヨしながら食べている最中である。
いや、時間的にもおやつの時間であるし、春の陽亭は夜営業であるからな。
必然的に此処になってしまうのは仕方がないのである。
それに、どうやらソウの奴も満足してくれているようで、先程から一向にスプーンを持つ手が止まらない。
「うふふ~! 前から此処のデラックスパフェ食べたかったんですけど、一人だとどうしても食べ切れる自信がなくて、遠慮してたんです!
「そうかそうか、喜んでもらえて何よりだ。さあ、ドンドン食べるが良い!」
ふむ。ワシも見ているだけではつまらんから、どれ、一口……。
ひょい。
あれ? ワシのスプーンは、確かにデラックスパフェのプリンの部分を捉えたと思ったのだが。
ならばもう一度……。
ひょい。
……コノヤロウ。
「……イヤイヤ。ソウよ、お主一人でこの量を食べ切るのは至難であろう? だから、ワシが手伝ってやると言っておるのだ」
「あ、あはは……大丈夫ですよ、シードさん。と、取り敢えず食べられるだけ食べてみますから、シードさんはお茶でも……」
「イヤイヤイヤ、この後もあるのだからさすがにそういう訳にも行くまい。だからソレを寄越すのだ」
そう言って、デラックスパフェを器ごと手元へ引き寄せようとする。
だが。
「……………………………………………イヤ」
ソウは強引にパフェを引っ張り、挙句、器を隠すように抱え込んだ。ヤレヤレ。
「ふーむ、そんなにソレが気に入ったのか?」
ソウはワシから顔を背けながら、無言でコクコクと頷く。
「ハア……取ったりせんから、一人で心行くまで食べれば良い……」
「! うんっ!」
そう言った途端、ソウの表情はパアアと明るくなり、またパフェを貪るのを続行する。
しかし……その小さな身体の何処にそんな容量があるのだ!?
何時の間にか、既に二分の一が彼奴の胃袋に放り込まれているぞ!?
……性別の違いこそあれ、正しく彼奴はライラと同じ人種である! 間違いない!
と、ソウとライラの多すぎる共通点について色々と考察していると、とうとうソウはあのデラックスパフェを全て平らげてしまいおった。
「はあ……ごちそうさまでした」
見るとソウは、肌をツヤツヤさせながら、至福の溜息を吐いていた。
成程、これが“スイーツ男子”という奴か。
「ふむ、それは良いのだが、次はお主のお薦めの店に行くことになるのだが……食えるのか?」
あれだけのデラックスパフェを一人で食べ切ったのだ。普通は食えんと思うだろう。
だが、ライラとの共通点をあれ程見出した此奴だ。ライラと同様、無限の胃袋を装備していてもおかしくはない。
で、どうなのだ?
「あ、はい。さすがに今直ぐ、という訳には行きませんけど、夜になれば大丈夫です!」
ソウはむん、と胸の前でこぶしを握り締めた。
何それ。此奴が男じゃなかったら、間違いなく今頃悶絶してるね。
「むむ、それなら良いが……。だが、そうすると夜までどうする?」
「あ、それでしたら、ちょっと散歩しませんか? その、色々とお話なんかもしたいですから」
ふむ、ワシとしては全然構わんが……その、ソウよ。何故そんなキラキラした目をしておるのだ?
「そ、そうだな。それではその辺をブラブラするか」
「はい!」
◇
取り敢えず夜になるまで、ワシ達はルインズの街をブラブラし、その間、お互いのことを色々と話し合った。
冒険者活動のこと。
パートナーのこと。
職業や得意とする能力、好きな食べ物、果てはスリーサイズ? まで。
特に意外だったのは、実はソウがあの“血煙”のリーダーだったとは。
いやはや、人は見掛けによらんものだな。
お蔭で、冒険者として様々なことが学べたぞ。
特に、単にパーティーを組むだけでなく、“クラン”という、冒険者パーティーで構成された組織みたいなものもあることを知った。
そして、“血煙”は此処ルインズで最大のクランであるということも。
するとソウも、相当な実力者、ということだな。
まあ、ワシはソウとの今の関係を気に入っているので、そういったことは言ったり聞いたりするつもりはないが。
ソウの奴もそうなのだろう。特にソウからはクランへの誘いを受けたりもしないが、それでもソウはこうやってワシに付き合ってウマいもの巡りをしている訳だしな。
で、夜になって。
「さあシードさん! こっちです!」
ワシはソウがお薦めする店へと到着したのだが……。
「うむ。春の陽亭、だな」
「はい! って、ひょっとしてご存じでした……?」
ソウがおずおずと尋ねてくるが、当然知っている。寧ろ行き付けである。
「あ、ああ。知っているが、ワシはこの店が好きでな。寧ろ、贔屓にしている店をソウも知ってくれていて嬉しいぞ」
兎に角ワシは、ソウが落ち込まないように努めた。
それが功を奏し、ソウは落ち込むどころか、ゴキゲンになった。うむ、単純な奴め。そういうところもライラそっくりだな。
ということで、ワシ達は店の中に入りテーブルに着くと、折角なのでお互いがこの店でお薦めしたい料理を出し合うことにした。勿論相手には内緒にして。
何だかバカップルがデート先ではしゃいでるみたいだな……イヤイヤ、気にしないようにしよう。
で、チビチビとエールを飲みながら待つこと十五分、お互いがお薦めする料理が席へと運ばれて来るが……ンン!?
「……何というか、その……同じものが来たな……」
「あ、あはは……そうですね」
そう、テーブルには、ワシが注文した“ソーセージ盛り合わせ”が二つ並べられた。
何だろう。これでソウが女子だったら、相性バッチリだー! などとはしゃぐところなのだが……どうしようコレ。
「と、取り敢えず食べましょう! ……だけど、えへへ。このお店もそうだけど、好きな料理まで一緒なんて、ボク達相性良いんですかね?」
イヤ、ヤメテ!? 何か変なフラグ立ちそうなんだけど!?
「さ、さあ食べよう! う、うむ、やはり此処のソーセージ盛り合わせは美味いなあ! ハッハッハ……」
「は、はい! そうですね! それでは……」
ソウはソーセージをフォークで刺すと、それを口に含む。
「はむ……かぷ……」
イヤイヤイヤ!? 前回の屋台で食べたあのお菓子といい、このソーセージといい、なんでそんな卑猥っぽく見えるのだ!?
……ワシ、本当にノーマルのままでいられるだろうか……。
「エヘヘ、美味しいですね」
「う、うむ、そうだな……」
兎に角、そんな状況を何とか耐え抜き、無事(?)食事を終えた。
◇
「エヘヘ、今日も楽しかったですね」
「う、うむ、そうだな……」
食事を終えたワシ達は、店を出て待ち合わせ場所だった噴水広場へとやって来た。
だが、ソーセージ盛り合わせ食べた時から、ワシ「うむ」と「そうだな」しか言ってないような気がする。気のせいか。
「シードさん、その……また遊びましょうね!」
「う、うむ、そうだな……」
取り敢えず、今日のところはこれでお開きとなった。
◇
■ソウ視点
「ふわああ、今日も楽しかったなあ」
シードさんとの出来事を思い出し、思わず頬っぺたが緩んでしまう。
やっぱり、シードさんは凄く優しいなあ。今日もカフェや春の陽亭でも、ボクの口元が汚れてたら拭いてくれたり、さり気なく奥の席にエスコートしてくれるし……ホント、シードさんの彼女さんは羨ましいなあ。
……はあ、ボクが女の子だったら……って、何考えてるんだろう、ボク……。
「もう! 見てたわよ!」
大声で叫ぶ声を聞いて振り返ると、モニカがプンスカと怒りながら近付いてきた。
「ホントにもう! 何なのあの男! “私の”ソウを勝手に連れ回して……消し炭にしてやろうかしら……」
「ちょ、ちょっと!? やめてよ!」
モニカが物騒なことを言い出したので、慌てて止める。
「そうだな。いっそ、あの男には自分の立場というものを理解させる必要がある」
今度はリエラが不穏なことを言う。
「そ、そうです! ソウに近付くゴミムシは排除するです!」
……エレナもなの?
「も、もう、いい加減にしてよ! シードさんの悪口言うの、やめてよ!」
ボクがそう言って窘めるけど、みんな全然聞いてくれず、シードさんをどうやって貶めるか、そんな話ばかりしている。
……もう怒ったよ。
「……ねえ。ボク、“やめて”って言ったよね? それと、もしシードさんに何かしたら……解るよね……?」
ボクは少し低い声でみんなを咎めた。
「ご、ごめんなさい! ……そ、そんなつもりじゃ……」
「も、申し訳ありません! で、出過ぎた真似を……」
「あ、あわわ……スイマセンです……」
三人は平身低頭謝って来た。
「はあ。ホントに……」
みんながボクに気を掛けてくれるのは解るけど、シードさんに何かするなら話は別だからね。
今日もそんな三人に辟易しながら溜息を吐くと、次はシードさんと何をしようかと、期待に胸を躍らせていた。
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