第104話 真実と諦念と

■マルグリット視点


「……やはり、このままじっとしてる訳にはいきませんわ!」

「どうしたのー?」

「したのー?」


 そうですわ! ワタクシはメレンデス辺境伯の長女、マルグリット=メレンデスですのよ!

 おまけに、あのシードに任せるのは不安しかありませんわ!


「という訳で、カイ、ルイ、ワタクシは少し出掛けて参りますわ」

「えー!? そんなことしたら、エイラ姉ちゃんに怒られちゃうよー!?」

「怒られちゃうよー!」


 そんなことは百も承知ですわ!

 ですが、貴族の娘である以上、ノ、ノ、ノブ、ノブ……ノブナガノヤ〇ウ? 何でしたっけ? 兎に角、ワタクシがお父様をお救いして、貴族の務めを果たすのですわ!


 ワタクシは玄関の扉を開けて、街へと飛び……


「ダメですよ」


 しまった!? エイラに見つかってしまいましたわ!?


「は、離してくださいまし! ワタクシは行かなければいけませんのよ!」

「ハイハイ」


 ワタクシは襟首を掴まれ、ズルズルと引き摺られながら家の中へと戻されてしまいましたわ……。

 不敬ですわよ!


「じゃあカイ、ルイ。貴方達ちゃんとマルグリット様を見張っているのよ?」

「「ハーイ!」」


 くうう……ですが、諦めませんわよ!


 ◇


 オーホッホッホ!


 さすがにこんな時間には起きていないようですわね!

 夕方から寝ていた甲斐がありましたわ!


 さて、それでは………………あら? 今、窓の外で、空が明るく光りましたわ?


 まあ良いですわ。兎に角、さっさと脱出して、お父様を助けに参りますわ!


 ワタクシは無事家を出ると、一目散に……何処へ向かえば良いでしょうか……?

 ウーン、悩ましいですわね……。


 取り敢えずは、やっぱり屋敷ですわね。

 だけど、結構遠いですのよね。何時もなら馬車で移動するから楽チンですのに。


 ですけど、そんなことも言ってられませんわね。

 ワタクシは南西区画から屋敷に向かって兎に角歩きます。


 ハア、フウ……。

 ほ、本当に遠いですわ。

 もうかれこれ一時間近く歩いている筈ですのに、未だ着きませんわ……。

 ですが、遠くではありますが、屋敷の屋根が見えました! あと少しですわ!


「アラ……って、エエ!?」

「あらあ?」


 突然声がしたので其方へ振り返りますと、冒険者ギルドのマスター……確か、アイリンでしたかしら? と、もう一人は……うん、知りませんわね。


「マルグリット様、こんな時間にこんなところで何をしてるのかしら!?」

「あら、ギルドマスター、決まってますわ。お父様を助けて、貴族の務めを果たすのですわ!」


 ワタクシは誇らしげに胸を張ってあげましたわ!

 オーホッホ、二人共、高貴なワタクシの前に、声も出ないようですわね!


「あらあ? 何を言ってるのかしら、貴女は。折角政治的な温情で首の皮一繋がっている程度で、調子に乗るのもいい加減にしたらどうかしら?」

「お、おいっ!」

「…………………え?」


 一瞬、ワタクシは何を言われているのか、分かりませんでした。


「ウフフ、ホントおめでたいわね。貴女、自分の父親が何をしでかしたか、分かっているのかしら?」

「ど、どういうことですの!?」


 一体お父様が何をしたっていうんですの!? そもそも、お父様は被害者ですわよ!?


「おバカな貴女に教えてあげるわ。貴女の父親はねえ……」

「おい!? やめろっ!」


 ギルドマスターが声を荒げてこの女を止めていますけど、それ程までワタクシに知られてはいけない話なんですの!?

 ですけど、この女はそんなギルドマスターを無視して、話を続けるようですわね……ワタクシとしましても、一体何が起こっているのか知りたいですわ!


「貴女の父親は、多くの人を攫ってアウグスト司教に提供し、人体実験をさせていたのよ。勿論、攫われた人達で、生きている人もいないみたいね。どう? とんでもない悪党だと思わない?」


 え?

 この女、何を言っていますの?


「う、嘘ですわ! お父様がそんなことする筈!」

「あらあ、本当よ? だから、私達王国の運営管理局が動いてるんだから」


 そんな……。

 ワタクシの身体の力が抜けて、思わずへたり込んでしまいます……。


「ホント、おめでたい頭してるわねえ。王国としても今回の事態を許すわけないし、貴女の父親であるメレンデス卿は勿論、その一族、関係者とその家族全て粛清の対象となるに決まってるじゃない。当然、その中には貴女も含まれるわ」

「おい、ちょっと待て! それじゃシードちゃんとの約束も反故にするってことか!?」


 ……シードとの約束……って、なんですの?

 ダメ、頭がボーッとして、何も考えられない……。


「あらあ? そんなの、シード君に言わなきゃ良いんでしょ? ……何、険しい顔しちゃって」

「つまりテメエは、シードちゃんや俺達ギルドと事を構える、ってことで良いんだな?」

「凄んだってダメよ? この件は既にギルド本部とも調整済みで、向こうからもこの件についてギルドは関知しないってお墨付きも貰ってるんだし」

「はあ!? そんな馬鹿な! あの“セレン”がそんなことする筈がねえだろう!」

「あらあ、残念。“本部長”以外のギルドの理事全員が此方に賛同しちゃったんだから、しょうがないわよねえ?」

「チッ! あのバカ共が!」


 ワタクシは蚊帳の外で、二人の言葉の応酬が続いている。

 けど……もうどうでも良いわ。


「……もう一度聞く。本当に俺達を敵に回すんだな……?」

「だから言ってるじゃない。何なら、貴方達全員、国家反逆罪で拘束しても良いのよ?」

「……そうか。後悔するなよ?」

「あらあ? それは貴方達ではなくって? ……まあ良いわ。ということで、貴方はこのまま拘束させて貰うわ。大人しく付いて来ることね」


 ◇


 気が付けば、ワタクシは冒険者ギルドの部屋の中にいた。

 此処までどうやって来たのかは覚えていない。


 そして今、ワタクシは二人の男に両肩を抑えられていて、身動きが取れないでいる。

 隣にはワタクシと同じように、女の人が二人……一人はシスター……アウグスト司教の部下でしたわね……それと、もう一人は……誰かしら?


 すると、部屋の外からドカドカと歩く音が聞こえたかと思うと、部屋の扉が勢い良く開けられた。


「ふいー……取り敢えず、教会の制圧は終わったぜ!」

「……(キョロキョロ)」


 入って来たのは、冒険者の男女二人だった。


「……! ねえ、これはどういうこと?」


 冒険者の女の人が、厳しい表情で尋ねた。


「あらあ? 見て解らない? 今回の事件の関係者を拘束しているだけよ?」

「ああ!? どういうことだバルバラ!」


 冒険者の男の人が、あの女に詰め寄る。


「はあ……面倒ね。だから、こんな真似を企てた連中を、高々“魔術”なんて怪しい魔法が使えるだけの男一人相手の約束を守ってまで放っとく気はさらさらないってことよ」

「っ! テメエ!」

「……絶対に許さない!」

「あらあ? 許さないからって何? つまりは、王国に逆らうってことで良いのかしら?」


 ふう……もうどうでも良いですわ。

 ただ、どうせ死ぬなら、お父様の本当の気持ちを聞いてから……。

 丁度、ワタクシの肩を掴んでた男達も、あの女と冒険者達に夢中のようですし。


 ……お父様のところに、行こう。


 ◇


■アイリン視点


「チョ、チョット!? マルグリット様は何処!?」


 バルバラとギデオンちゃん達が言い争ってる隙に、あの子が何時の間にかいなくなっちゃってるわ!?

 バルバラの馬鹿がこんな真似をしただけじゃなく、万が一あの子に何かあったら……!?


 間違いなく、この国は滅んでしまうわ……!


「と、兎に角! マルグリット様を探さないと!」

「そうねえ……“清掃員”達、あの子を探してきなさい。あ、生死は問わないわ」

「バ、バカヤロウ!」

「あらあ? 当たり前でしょう? あの子は逃げ出したのよ? 十分死に値するわ」

「……分かった。取り敢えず、お前が死ね」


 ミミちゃんが静かにシミターを鞘から抜いた。

 いよいよになれば、ワタシが何とかするしかないカシラ……ワタシの命一つで収まれば良いんだけど……。


「な、何だこれは……!?」


 最悪のタイミングでシードちゃんが帰って来ちゃった……。

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