第12話 気遣いと鑑定と

「お前のその、何だ。“右眼”は大丈夫なのか?」


 ギデオン殿が心配そうに尋ねてきた。

 はて? ワシの右眼の一体何を大丈夫と聞いているのだろうか?


「ギデオン殿、それはどういう意味だ?」


 ワシは首を傾げながら質問の意図を尋ねる。


「いや、何つーか、その……さすがに目玉が裏返ったりするなんざ、普通じゃねえからな……」

「ああ」


 まあ、それはそうか。

 普通、そんな風になったら、異常だと思うわな。

 実際、肉親ですら気味悪がっていたし、ワシが地下に閉じ込められておった原因の一つでもあるからな。


「まあ、お主が不気味に思う気持ちも分からんではない。だが……」

「ああいや、そういうんじゃねーんだけど……」

「?」


 む? 結局ギデオン殿は何が言いたいのだ?


「その、右目が何かの病気だったりするんじゃねーか……と思ってな。もし治ったりするもんだったら、ルインズに着いたら治療したらどうかと思ってな……」


 何と! まさかワシの右眼の心配をしておったとは……。

 というか、この男はどこまでお人好しなのだ。これは一生付いて行くしかないな。


「いや、心配には及ばん。この右眼には七つの権能が宿っておってな……」


 ワシはギデオン殿に右眼について説明する。

 何時の間にか、傍にいたラーデン殿と先頭に行った筈のミミ殿が荷馬車に戻って来て聞いておる。いやミミ殿、警護は?


「……おいおい、とんでもなくヤベエ能力じゃねえか……やっぱり魔王ってのは伊達じゃねえな……」

「うーん……商人の僕的には、特に[鈍色の眼]ってのが気になるけどね。それって、どんな物でも鑑定出来て、その価値とかが判るんでしょ?」

「うむ。ただ、別に物に限らず、人物の鑑定も可能だぞ?」

「「「嘘!?」」」


 おお、三人とも相当驚いたようだ。


「な、なあ、つまり、“俺達”も鑑定出来るってことなのか!?」

「それは勿論可能だが、ワシはそれをするつもりはないぞ?」

「……それは何故?」


 ミミ殿が理由を尋ねる。しかし、ギデオン殿もラーデン殿も、ミミ殿が此処にいることについて何も言わんが、良いのか?


「それはそうであろう。いきなり[鈍色の眼]に切り替えれば丸分かりであるし、なにより相手に失礼過ぎる」

「いや、魔王なのに気遣い半端ないな!」


 いやいや失礼な。ワシ常識人だからな?


「……じゃあ、試しに私を鑑定してみて」

「は?」


 いやいや、ミミ殿は一体何を言っているのだ?

 相手に失礼だからやらないって言ったよね?


「……大丈夫、私はそういうの気にしない。それより、私の評価がどんなものなのかが知りたい」


 ミミ殿がズイ、と顔を近付ける。いや、近い、近いぞ!?

 フオオオオオ!? 息が掛かった!?


「コホン。う、うむ、そこまで言うならば、鑑定しようではないか」


 だけど、決してミミ殿に絆された訳じゃないんだからね!?

 ワシは右眼を反転させ、[鈍色の眼]へと切り替えると、右眼にミミ殿の情報が一覧となって羅列される。


・名前 :ミミ

・種族 :人族

・性別 :女

・年齢 :21歳

・職業 :剣士

・能力値:

 ・HP  137/137

 ・MP   51/ 51

 ・STR 168

 ・ATK 341

 ・VIT 118

 ・DEF 121

 ・INT 103

 ・MAG  37

 ・RST  94

 ・DEX 279

 ・AGI 622

 ・LUK 136

・スキル:

 [双剣術]LV8 [短剣術]LV6 [瞬歩] [八艘飛び] [円舞] [鬼化]

・称号 :舞姫、B級冒険者


 おおう、予想以上に強いのではなかろうか。

 魔族の一般人だと、MP、MAGが二百、あとは軒並み百という数値が一般的だからなあ。

 とはいえ、人界の一般人がどの程度の強さか分からんから、何とも言えんがな。

 それより、スキルに[鬼化]とあるのだが、何だか怖いんですけど。

 あと、称号が“舞姫”って。ヤダ、カッコイイ。


 因みに、ワシの場合はこうだ。


・名前 :シード=アートマン

・種族 :魔族

・性別 :男

・年齢 :22歳

・職業 :魔術師

・能力値:

 ・HP   98/ 98

 ・MP  999999999/999999999

 ・STR  93

 ・ATK  88

 ・VIT 101

 ・DEF  96

 ・INT 463

 ・MAG 999999999

 ・RST 999999999

 ・DEX 121

 ・AGI 108

 ・LUK  14

・スキル:

 [火属性魔術]零式 [風属性魔術]零式 [水属性魔術]零式 [土属性魔術]零式

 [光属性魔術]零式 [闇属性魔術]零式 [空属性魔術]零式 [無属性魔術]零式

 [八大地獄] [真紅の眼] [翡翠の眼] [桜の眼] [柑子の眼]

 [紫煙の眼] [山吹の眼] [梔子の眼] [鈍色の眼]

・称号 :大魔王(元)、童貞、ぼっち


 うむ、見事な一点豪華主義だ。悲しいのは、LUKの低さ、だな。

 しかし、“童貞”と“ぼっち”は称号じゃないだろ! 断固抗議する!


「……どう?」

「う、うむ。人界の字が未だ解らん故、取り敢えず口頭で説明するとだな……」


 ワシは[鈍色の眼]で視た情報を備に伝えた。


「……むふふ、やはり私は強い」


 どうやらミミ殿はご満悦のようだ。


「(だ、だが良いのか? お主のスキルとか、結構人に聞かれてはマズイ情報もあったのでは……?)」


 ワシは思わずミミ殿に小声で耳打ちする。


「……無問題。ギデオンは勿論、雇い主であるラーデンさんも知ってる」


 そ、そうなの?


「い、いや、それなら良いの「僕も! 僕のステータスも見てよ!」」


 ラーデン殿が食い気味に来た!


「ちょっと待てよ旦那! 次は俺の番だ!」


 え!? ギデオン殿も!?


「「で、どっちから視るんだ(い)?」」

「わ、分かったから落ち着け!」


 ということで。


・名前 :ギデオン

・種族 :人族

・性別 :男

・年齢 :24歳

・職業 :戦士

・能力値:

 ・HP  288/288

 ・MP    0/  0

 ・STR 191

 ・ATK 199

 ・VIT 305

 ・DEF 426

 ・INT 121

 ・MAG   0

 ・RST 227

 ・DEX  64

 ・AGI  90

 ・LUK 189

・スキル:

 [盾術]LV9 [長剣術]LV2 [不撓不屈]

・称号 :難攻不落、B級冒険者、亡国の落胤


・名前 :ラーデン=フロスト

・種族 :人族

・性別 :男

・年齢 :33歳

・職業 :商人

・能力値:

 ・HP   96/ 96

 ・MP   23/ 23

 ・STR  87

 ・ATK  62

 ・VIT  80

 ・DEF  76

 ・INT 327

 ・MAG  15

 ・RST  88

 ・DEX 111

 ・AGI  73

 ・LUK 229

・スキル:

 [算術]LV9 [交渉術]LV8 [弁舌]

・称号 :物流の麒麟児、フロスト商会ルインズ支店長


 二人に伝えると、喜色満面の笑みを浮かべた。


「おお、凄え! しかも聞いたかよ、ミミ! どうやら俺は、何処ぞの王子様っぽいじゃねえか! いやあ、やっぱり身体から溢れ出る気品? みてえのが分かる奴には分かるんじゃねえの?」

「いやいやいや、そうだよねえ! そりゃあ僕の辣腕ぶりを見れば、この能力も頷けるよねえ! アッハッハ!」

「あっはっは~……」


 二人共すこぶるご満悦のご様子。

 だけど、ギデオン殿の称号に聞いちゃいけないようなものがあったんですけど!?

 まあ、本人ゴキゲンだし? 本当だと思ってないようだし? 良い、のか?


「……ギデオンとラーデンさんのくせに生意気」


 こらこらミミ殿、何故に上からなのだ。一応、この中ではお主が一番年下なのだが?

 ま、良いか。


「さて、白の旅団の撃退に加えて自分の能力が分かるなんてサプライズもあったけど、後はルインズの街までこのまま何も無ければ良いねえ」


 ラーデン殿が馬車の中でゴロン、と横になる。


「賊共が狙っているものが分からん以上、再度襲ってくる可能性もある。油断は出来ん」


 取り敢えず、ラーデン殿に脅しをかけておく。実際、警戒しておくに越したことはないからな。



 二日後。

 何事もなく、無事にルインズの街に到着した。あれ? もっと襲撃されると思ったんだがなあ……。


 しかし、あの賊共は一体何だったのか……。

 この隊商を狙う理由は間違いなくある筈だ。でなければ、高々この程度の隊商にあの規模で襲うことなどあり得ん。

 再度襲ってこなかったのは、諦めたのか、それとも既に目的を達成したのか……。


 ワシ達は、少しの不安を残し、ルインズの街の門をくぐった。

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