第6話 女子とちっぱいと
「は? 魔王が冒険者??」
ギデオン殿が呆けた顔で、此方を見る。
成程、どうやらワシの言葉が信じられんようだな。では、このワシの冒険者に懸ける思い、存分に聞かせてやろう!
「うむ! ワシは、冒険者となるために人界までやってきたのだ! ワシが冒険者を目指す理由は唯一つ! 最高の冒険者となり、“リア充”を手に入れるのだ!!」
ふふふ、どうだ! 驚いたであろう!
其処の女子、ワシに惚れても良いのだぞ? ほら、ワシに声を掛け……ゲフンゲフン、いや、まだその時ではあるまい。ワシが冒険者となり、トーク力と免疫力のスキルアップをしてからでも良いか……。
チラリと二人の様子を窺うと、驚きつつも、残念なものでも見るかのような目で此方を見ている。何故だ?
「……ねえ、その“リア充”って何なの? お宝?」
「……………」
「……無視?」
違うんです。無視してるんじゃないんです。勇気がないだけなんです。
「……取り敢えず、そのよく解らねえ“リア充”ってえ宝を手に入れるために冒険者になるってんだな。で、お前は“リア充”とやらを手に入れて、一体どうするんだ?」
「良い質問だ、ギデオン殿! “リア充”とは即ち、男なら誰しも目指す頂! “リア充”を手に入れれば、それは全てを手に入れたも同義! それは、世界を手に入れることなど足元にも及ばんほど価値があるものだ!」
ワシは、冒険者に、“リア充”に懸ける熱い想いを二人にぶつけた。熱すぎて思わず鼻息がムフーッとなってしまった。
「そ、そうか。ま、まあいいんじゃねえか?」
「…………?」
取り敢えずは、二人と争わずに済んだようだな。良かった良かった。
「うむ、では改めて。ワシは魔界グレゴリアスから来た元大魔王、シード=アートマンである。どうか、よろしく頼む」
「あ、ああ……。俺はギデオン、ルインズの冒険者だ」
「……私はミミ」
ワシは右手を差し出し、ギデオン殿と握手した。
ミミ殿も右手を差し出してきたので、ワシは右手をズボンで拭いてから、あらためて握手した。
ヤバイ、初めて女子に触った。
どうしよう、ドキドキする。
「……ねえ、なんで目を逸らしてるの?」
「……う、うむ……」
さらにどうしよう、目が合わせられない。
「ん? おいおい、何だ? ひょっとしてお前、女が苦手か?」
ギデオン殿が少しニヤついた顔で訪ねてくる。
ああそうだ、ワシは女子とどう接して良いか解らんよ。
だからお願いです、女子との接し方を教えてくださいマジデ。
「……そうなの?」
ワシは更に顔を逸らす。
どうしようどうしようどうしよう。
女子が苦手な訳ではないんです。女子とどう話して良いか解らないだけなんです。
チラリ、とミミ殿の様子を窺うと、不思議そうに首を傾げながら此方を見ている。
ええい、ままよ。
「マ、マサカ! ワシは元とはいえ大魔王であるぞ!? じょ、女子と握手したり、会話をするなど、造作もないこと! さ、さあ、何でも話してみるがいい!!」
「おいおい、何息巻いてるんだ? そうかそうか、魔王ってなあ女が苦手なのか。こいつはおもしれえな!」
ダメダ、ギデオン殿が面白い玩具でも見つけたかのような悪い顔で此方を見てくる。
「苦手ではないと言っているであろう! ワ、ワシにかかれば、女子の一人や二人……!」
「……なあ、シード。そもそも、別に何でもねえ奴は、女のことを”女子”なんて言い方しねえんだよ。そんな言い方する奴は、女に免疫の無い奴って相場が決まってるんだ」
「………な………ん……だ、と……!?」
ワシはその事実に驚愕した。
では、ワシはギデオン殿の掌の上で転がされていたというのか……!?
認めん、認めんぞ!
ワシはこれから冒険者となり、魔界では果たせなかった“リア充”を手に入れる男!
此れしきの窮地、見事乗り越えて見せようぞ!!
「フ、フフン、まあ何とでも言うがよい。魔界では、女のことを“女子”と言うのが当たり前の世界だった故、ギデオン殿になじみがないのも仕方のないことよ」
「よし、ミミ。シードにお前の顔を近付けてみてくれ。何だったら、試しに抱き着いてみてもいいぞ」
「……わかった」
「な!? ちょっ!? やめっ!?」
あああああああ! ミミ殿の顔がワシに近付いてくるうううううう!!
ワシは咄嗟に、ミミ殿の肩を掴み、押し返した。
って!? ミミ殿の肩を掴んじゃったあああああああああ!!!
「ワハハハハハハハ! シード、やっぱり女が駄目なんじゃねえか!」
「あああああ! ミミ殿やめて! ワシには……ワシには無理いいいいい!!」
「……ええ~……」
ギデオン殿は腹を抱えて転げまわり、ミミ殿は微妙な顔でワシを見ている。
そして、ワシはといえば、頭を抱え、しゃがみこんで蹲った。
◇
「……ゴメンナサイ、本当は女子が苦手です。ですが、決して女子が嫌いというわけではありません。寧ろ女子好きです、大好きです。所詮ワシは、女子に憧れるおっぱい大好きおっぱい星人です」
「……ああ、そうか……なんか、笑っちまってすまなかったな……いや、別に馬鹿にしたわけじゃねえんだ……その、なんだ……」
ギデオン殿が心底憐れむような目で、正座したまま俯くワシを見つめる。
お願いだからそんな目で見ないでほしい。凄く惨めな気分になってくる。
「……やはり、魔王は滅するべき」
「何故!?」
ミミ殿がとんでもない殺気を放ってくる。
魔界史上最強と謳われたこのワシが、その殺気に戦慄した……!
何処が、何処がいけなかったのか。
あまり女子を見たことが無いワシの目が、それとも、女子と触れたことのないワシの手が、ミミ殿に不快感を与えていたのか?
「……ギデオン殿、ワシの何がミミ殿の逆鱗に触れたというのだろうか……?」
「……ああ、あれだ。お前、胸の話をしただろう? ……あとは察しろ」
すると、とんでもない速さでミミ殿が”シミター”と呼ばれる曲刀の柄を掴み、鞘から一気に引き抜くと、その刃の先はギデオン殿の頬を掠めた。
「おい! 何しやがる!」
「……ギデオン、貴方は決して言ってはならないことを言った。その発言、万死に値する!」
ミミ殿の胸は、確かに小さい。いや、小さいというより、寧ろ無いと言ったほうが表現として適切だろう。
成程、ミミ殿はそんな胸にコンプレックスを抱いているようだな。
ここは一つ、大きかろうが小さかろうが、女子の胸は尊いことを理解していただこうではないか!
「ミミ殿、胸に貴賎はない! “ちっぱい”にも確かな需要はあるのだ! 何も卑下することはないぞ!」
すると今度は、ワシの両頬を刃が掠めていった。
そのあまりの速さの斬撃に、ワシは指先一つ動かすことが出来なかった。
「……次はその口に剣をねじ込む」
ワシは身震いし、直立不動の状態から腰を九十度に折り曲げる。
「すいませんでした!!」
「……二度目はない」
直ぐに謝罪したのが功を奏したのか、取り敢えず許しを得ることが出来たようだ。
ワシは頭を上げようとしたとき、今度は脳天の髪を剣がかすめた。
「……誰が頭を上げていいって言った」
「はい!!」
すかさず頭を元の位置まで下げる。
「おいおい、シードも悪気があったわけじゃねえんだ。許してやったらどうなんだ」
「……私はギデオンも許した覚えはない」
ミミ殿はギデオン殿の眉間に剣先を向ける。
「やけに騒がしいけど、何かあったのかい?」
荷馬車の中から、茶色の背広を着た金髪の男が出てきた。
「ラーデンの旦那。珍客が来たんで、その対応をしてたところだ」
「えー? こんな砂漠の真ん中で客って、普通あり得ないでしょ。どういうことなんだい?」
「いや、それがまさかの“魔王”様のご来訪だ」
それを聞いたラーデンと呼ばれた男が、思わず固まった。
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