20:TVデビュー②

やがて夜が来て、オンエア20分前に指定された場所で待機となった。

時刻はすでに夜の11時過ぎ。

俺たちの演奏放映順は最後だとの事で、深夜1時を優に過ぎてからが出番だ。

控室のモニター越しに現在放映中の番組を見るのは、なんか変な気分だ。


さっきウザ絡みしてきた彼らは『ボルテックスウォリアー』と言うらしい。

なんか、とてつもなく厨二っぽい。

ちなみに演奏は典型的なロックンロールで、俺はやるぜみたいな感じだった。


長々と待たされた末、係の者に先導され舞台裏へと。

この番組のおかげで一躍超売れっ子になったアシスタントのお姉さんが

「次のバンドはコイツらだいっ!」

と明るく叫ぶのに合わせ、係の人が裏でカーテンを引っ張り開いた。

TV画面を見てる分にはハイテクに思えたが、舞台セットのギミックは、意外とアナクロだったのだ。


開かれたアーチ形の通路を潜り、スタジオセットに出てくる俺たち。

すると、スタジオに招待された一般客の座っている客席から、大きなどよめきが起こった。しかも観客だけではなく、事前に話を聞いていなかった審査員からも、驚愕の表情を見て取れた。


俺たち四人が横一列に並んだ状態で、インタビューが始まった。

メンバーの紹介から始まり、差し障りのないインタビューに移る。


「この番組に応募した切っ掛けは何ですか~?」


「正直に言うと、俺個人の我が侭です。

俺達は中学1年の頃から今まで、一度も中断する事無くバンド活動をやってきたんですが、振り返ってみると、俺達がバンドとしてコンクールとかに出て、他人と競った事なんか一度も無かったんですよね。

丁度俺達も大学生になったし、記念に参加してみようって事になりました」


俺の語る、なんとも気の抜けた動機とやらを聞いた審査員一同は、苦笑いを浮かべて脱力していた。


「ちなみに皆さん、どちらの大学に?」


「「「関東邪馬壹ヤマト大学です」」」


「あれ?リーダーのミノルさんは別なんですか?」


「俺は、T大工学部ですね。まあ、ゆくゆくはヤマ大に合流するつもりですが」

コレを聞いた番組司会者も、審査員も、そして茶の間でTVを観ていた視聴者までもがみんな吃驚仰天した。

後で聞いた話では、大喜びしてたのは今宮先輩だけだったそうな。


「え~、なんて勿体ない・・・」


「俺にとってT大入学はコネと実績作りが目的でしたから、もう終わりました。

それに、ヤマ大もそんな捨てたモンじゃ無いですよ?」

よし!これだけ言っておけば、笹山会長への義理も果たしただろう。


唖然とするみんなをよそに、楽曲紹介が始まり画面が演奏録画へと切り替わる。

一人の駄目出しを出す事もなく、3分間の演奏を無事終える事が出来た。


現役ドラマーでありロック評論家でもあるP氏の

「正直、彼らがこの番組に出るのは反則ですね」

と言うコメントが、スタジオ内の雰囲気全てを物語っていた。


***


ほとんど出来レースと言われても仕方の無い雰囲気で今週のキングが決まり、いよいよチャンピオンが別室から登場した。

二度の人生を通じ、初めて肉眼で見る『ポメラニアン』のメンバー。

しかし俺はその感激より、能面のような彼らの表情と、そして手にした楽器を見て、イヤな予感がどんどん膨れ上がったのであった。


彼らは短くタイトルを告げると、スタジオセットに一列に並び楽器を手にした。

北林はいつものようにリードギターを下げているが、東山はタンバリン、南里はマラカス、西川に至ってはエアホーンと呼ばれる、ラッパの後部にゴムで出来た黒いボールが付いた、ボールを潰せばパフパフと音が鳴る、楽器とも形容のし難い物を手にしていた。


リードギター一本によるイントロが始まり、南里がソロボーカルで淡々と歌を歌う。時々手にした楽器を、効果音のごとくパフパフシャラシャラと鳴らすだけで、何の抑揚もない平坦な旋律だけがただ続く。

あえて音楽に例えるなら、昔の読経のような仏教音楽に似ているだろうか。

最後は四人揃って、ハーモニーも糞もなく、ただ一緒になって歌うだけ。

約1分30秒のとても短い歌が、沈黙の中で終わった。


場内は俺達の時以上に、唖然とした雰囲気が流れた。

確かにインパクトは充分だし、ある意味面白くもあった。

審査員達はどう評価したモノかと、引きつった笑みを浮かべるばかりだったが。

そんな中、してやったりと心からの笑みを浮かべているのは、東山ただ一人だけであった。



***



いつもより少し長めのCMタイムに入り、審査員は別室に移って緊急会合を開いていた。


「おいおいマジかよ。あいつら、やりやがった・・・」

番組製作担当が、思わず頭を抱えた。

突発的なアクシデントは、生放送の宿命である。


「それで・・・みんな事前の話し合い通りに、投票をお願いします」


「あの~・・・」

そっと手を挙げる、オペラ歌手のS女史。

「音楽家としてのプライドに関わるので、チャンピオンへの投票は拒否します」


「悪い。俺も拒否させてもらう。周囲の反響が怖すぎて、今後の仕事に差し障る」

そう言って拒絶の意を示したのは、音楽評論家のM氏だ。


ドラマーのP氏も「どうしてもポメに入れろというなら、俺はこのまま帰る」と駄々をこねた。


結果、ディレクターの懇願に渋々ながら応じた四人がチャンピオンへの票を入れるという事で結論が出た。


「それでは、いよいよ結果発表です!

青の旗はチャンピオン、赤の旗はチャレンジャーとなります。

では審査員の皆さん、一斉に旗を挙げて下さい!」


「赤!赤!青!赤!

・・・どうしましたか?

おっと、ファッションコーディネーターのU氏、悩んだ末に青を挙げました!」

しばらく苦渋の表情を浮かべながら、なおも踏ん切りが付かない残り二人。


「おっと、青の追加だ! コレで同点。

最後は、審査委員長のO氏だけだが・・・

ああ~っ!最後の旗は青でした!グランドチャンピオン誕生~!」


その時、ヒロが俺にボソリと

「お前、コレの事言ってたの?」

と訊いてきたので

俺は「ああ」と短く返事を返した。

隣で俺達の会話を聞いてた二人も、納得顔をしている。

俺の言わんとした事が、言わずとも通じたらしい。


「「「「おめでとう~!!」」」」

と大はしゃぎの番組スタッフを、ジト目でただ見つめるポメラニアンの四人。

その表情は、これっぽっちも嬉しそうじゃない。


「ポメラニアンさん、おめでとうございます。今のお気持ちは如何ですか?」


「正直、勝てるとは思っていませんでした。ホント吃驚です」

東山は、ニコリともせずにそう返した。


そして、空気の読めないアシスタントのお姉さんは、俺にマイクを向け

「今のお気持ちはいかがですか?」とか抜かしやがった。


「そうですね。

ポメラニアンさんは、俺がずっと注目していた本物のアーティストなので、同じスタジオで対決できたのは嬉しかったです。

感想はそれだけです」


そんな中、審査員達のとってつけたような賞賛がしばらく続き・・・

審査委員長のO氏が

「リンクスの皆さんは、チャンピオンに敗れたとは言え、とても素晴らしい演奏を披露してくれました。

こんな素晴らしいバンドが、たった一度の登場で消えてしまうのは非常に惜しい!

従って、リンクスの皆さんにはこのまま暫定チャンピオンとして残留して戴き、来週もまた参加して頂ければと思うのですが如何でしょうか?」


スタッフ全員は、それはいいと拍手喝采だ。

でも俺は

「や。俺達だけ例外としてルール破っちゃ、今まで敗れた人達に申し訳ないんで」

と、謹んでその提案を辞退する事にした。






・・・お前らの汚らしい皮算用に乗ってたまるかよ。

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