17:真夜中の衝撃

「俺達の出演予定は6月の最終土曜日。

生放送なんで、夜中の一時頃からの出演になるけど頑張ろう」


「番組の流れって、どんな感じなの?」

今まで一度もその番組を観たことがないというレイカが、改めて初歩的な質問をした。


「まず、一日に10組のバンドが演奏して、最初に3分間完奏するか途中で落とされるかの篩い分けを受ける。

そしてその中から、当日の勝者を選ぶ。ここまでがまず最初の流れ。

ま、演奏は前もっての収録だから、余り気にする必要ないんだけどね。


そこで勝てたら次に、先週まで勝ち抜いてきたチャンピオンに挑戦できる。

現チャンピオンに勝てたら新チャンピオンになって、5週勝ち抜くとグランドチャンピオンになれる」


「丁度チャンピオンが勝ち抜けて不在の時は?」


「その日の勝者が仮チャンピオンになって、翌週の挑戦者に勝てたら正式なチャンピオンに昇格する」


「勝ったら何かイイ事あるノ?」


「グランドチャンピオンになると、手を挙げた事務所と契約して、メジャーデビューできる。

まあ、俺らはある意味デビュー前の余興だから、もしチャンピオンになっても余り意味なさげだけど、同じ志を持った奴らと腕を競えるのって、なんか面白そうだから出てみたかった」


「ミノルがここまでTVに出たがるなんてキャラに合わないと思ったけど、確かに面白そうね」


「まあ、やると決まったからには派手にやったろうや」


「ウン、やるヨー!」


「ありがとう。みんな、全力を尽くそう」


「「「おー!!!」」」


確かに、バンド演奏と言うよりバラエティー色の強いこんな番組に俺が出たがるなんて、ある意味キャラには合わないかも知れない。

でも前世の俺は、この番組をTVで観ながら「ここにヒロと一緒のバンドを組んで出られたら、どれほど嬉しかったろう」といつも思っていたんだ。

前世では叶うはずもなかった、俺の他愛もない夢。

その実現のために、みんなの力を借りるよ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



丁度今晩は放送日なので、控え室(と言う名の別宅)でみんな一緒に観ようかと言う事になった。

当然、それまでは夕食休憩以外、バンド練習に費やす。


そして番組開始時間。

元コメディアンの中年司会者と、全く無名の劇団員アシスタントの進行により、番組が始まった。

個性豊かなバンドが登場し、バンドに輪をかけて個性豊かな審査員が、時には褒め、時には酷評しながら番組が進んでいく。

番組の初期は『のど自慢』のノリだったので、コピーバンドなども多かった。

しかし番組が続くにつれ、最近はオリジナルの曲を演奏するバンドオンリーになってきた。

ちょっとつまらない曲が続き、時間も深夜を相当に過ぎたのもあって、みんなが眠気を堪えていた頃、そいつらは現れた。


「・・・ポメラニアン。 何でこいつら、今出てるんだ?」

余りにも意外な事に、俺は思わずそう声に出してしまった。


「え?このバンドって有名人?」

誰に言った訳でもない俺の呟きを耳にしたレイカが、そう俺に訊き返す。

俺が思わず言ってしまった『今』って単語には反応しなくて助かった。


「・・・ああ、うん。吉城寺界隈のライブハウスでは、インディーズでかなりの有名バンドだよ。ま、聴いてみればわかる」


俺のその言葉に他の三人は、襲い来る眠気を吹き飛ばしつつ、集中してTVに見入るのだった。



笠地蔵のような衣装に身を包んだリードギター。

タンクトップにピチパン鉢巻きで、木魚を抱えバチを手にするドラマー。

スーツにネクタイ、シルクハットを被ったベーシスト。

カジュアルパンツに吊りバンド、明るいチョッキにポロシャツという出で立ちのキーボード。

コメディー色の強いバンドメンバー紹介などのインタビューを終え、いよいよ演奏が始まる。


「え? イントロに長唄?」


「うわ!声高っ!」


「・・・何と言うか、一度聴いたら忘れられなそうな曲ね。構成が見事だわ」




『ポメラニアン』のTV登場が、世間に与えた衝撃はもの凄いモノがあった。

この番組には、審査員席に座る七人の審査員とは別に、レコード会社や芸能事務所が主要メンバ-となった、在宅審査員と呼ばれるモノが存在する。

もし番組で審査員のウケが悪くても、在宅審査員の方からオファーが来る可能性もある訳で、参加者達はむしろ、審査員よりこちらの反応を気にしていたりする。

ポメラニアンの演奏が終わった直後、この在宅審査員からのコールを示すランプが一斉に十数個も輝き始めたのだ。

そして彼らは、当然のように現行のチャンピオンを打ち倒し、新チャンピオンの座に就いた。


「マズいな・・・」

俺は一人、そう呟いた。


「何がだ?」とヒロが訊く。


「おそらくこのまま行くと、グランドチャンピオンにリーチがかかった5週目に、俺達とぶつかる」


「まあ、そうだな。でも、遅かれ早かれぶつかるんなら同じじゃないか?」


「5週目ってのがマズいんだよ」


「え?なんでだ?」


「・・・いや、俺の考えすぎか。気にしないでくれ」


「うん。正直ビックリだったけど、ウチらも彼らに負けてないよ。きっと勝てる」

レイカがなんか燃えている。


一方

「おー!ガンバロー」

と、相変わらず力が抜ける感じのアキさんだった。


俺は内心(多分、勝てないだろうな)と思いつつ、それを固く心の奥底に秘め、口を噤むのであった。

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