02:初登校りたーんず
これは現実であると腹をくくり、少し早いが食卓に座って朝食を摂る。
父に「おはよう」と声をかけると「おお、早いな」と一言返して、また新聞に目を落とした。
今日は転校初日なので、父の車に乗せて貰っての登校となる。
居住地は同じ学区内にあるのだが、家から学校までは電車で駅二つ分、バスで30分程度の距離があった。
家より都心中心部方面に学校があったので、たった電車二駅とは言え混雑具合が常軌を逸してる。
普通に並んでいれば、電車を一つ乗り過ごすのは当たり前、小さい身体を生かして無理矢理潜り込んでやっと乗れる程度だった。
手から鞄を離しても下に落ちないぐらいの混雑具合と言えば、ご理解頂けるだろうか。
この学校がランドセル通学を奨励していないのは、コレが理由なのかも知れない。
ちなみに、低学年まではスクールバスが回っているので、問題ないらしい。
この先8年近くも『コレ』に乗り続けるなんて冗談じゃ無い。
どうしても必要な時や、よっぽどの悪天候でも無い限り、電車通学は避けようと思っている。
自転車通学が出来れば一番良いのだが、小中学生の自転車通学は校則で禁じられていた。
身体を鍛える必要もあるし、徒歩かマラソンで通うとするか。
春休みの間に転校手続や転入試験も済ませ、そこで教科書も貰ってある。
試験結果は、それほど悪くなかったと記憶している。
田舎の学校は生徒数が少ない分、生徒全員に目が届く、ある意味『英才教育』の場となるのだ。
義務教育時点での平均レベルは、総じて高い傾向にある。
まだ引っ越したばかりでもあり、親の転勤手続等もあったため、他の生徒達に三日遅れての転入となった。
校長室に入り、父と一緒に校長先生方に挨拶をする。
頭頂部が見事に光輝く校長先生は、いかにも温厚そうな笑顔を浮かべ、その隣には、この先二年間担任になる『菱田 涼音』先生が、思い出とピッタリ一致する『目が笑ってない』笑顔で礼を返していた。
年の頃は、見た目20半ば。
肩より少し長い、少しウエーブがかかった髪に、つり目がちの目が放つ陰険そうな眼差し。
生徒達の間では『ヒス先生』と呼ばれ恐れられている、ある意味有名な女教師だ。
今も父を前に
「うちのクラスは前学年度、最優秀クラスとして表彰されましたのよ」
だの何だの、自慢話を披露している。
今になって思い返してみれば、こいつが諸悪の根源ではなかったかと思う。
放課後のHRでは生徒同士の密告を奨励し、竹やプラスチックで出来た定規をいつも持ち歩き、反抗的な生徒や違反者には体罰を与えることで規律を保っていた。
俺がイジメの標的となっていた事を充分に承知していながら、あえて放置するどころか、俺を生け贄にすることでクラスの結束を高めていたようにも思える。
クラスメイト達の精神が歪んだのは、こいつのせいじゃないんだろうかと今も疑っている。
この糞女の顔を見るのは二度と厭だったが、この学校に来なければ
今は我慢だ。
挨拶が終わり、父は車に乗って職場へと。
俺はヒス先生の後ろに従い、朝の
先生は、教室に入るなり軍隊のように起立する生徒達の前で
「今日からこのクラスの一員となる、新しい生徒が加わります。
みなさん、イロイロと力になってあげて下さいね。
それじゃ成田くん、挨拶をして下さい」
と俺を見て、自己紹介を促した。
俺は、先生から手渡されたチョークで、黒板に大きく自分の名前を書いた。
とは言えまだ、身長130cmソコソコの子供だ。
黒板の下の方にしか書けなかったけど、仕方ないよね。
「○○県から越してきた『成田
皆さんよろしくお願いします」
その場でペコリと礼をして、先生に振り返り「僕の席は何処ですか?」と尋ねた。
先生は
「え?それだけ?
もっとちゃんと自己紹介してもいいんですよ」
とか言ってるけど、こいつらと今更話す事なんて何もない。
オロオロしたヒス女が「じゃあ、質問コーナー!」とかやり出したもんで、ありきたりな受け答えを5分ほどやらされる羽目になった。
もう1限目が始まる時間になったので、俺はやっと席を案内され一息吐くことが出来た。
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