第一章 『自分』を取り戻せ
01:知ってる天井だ
※序章を飛ばした人用あらすじ
元いじめられっ子だった地方公務員の俺には、かつて大切な友がいた。
その友が、失意のうちに失踪してからもう20年。
冬のある日、俺は事故に遭い、せめて友にもう一度会いたいと願いながら、その一生を終えたのであった。
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ハッと目を覚まし体を起こすと、見た事の無い…いや、何か見覚えのある天井と部屋が見える。
そう思い込んでみると、人の顔に見えなくもない天井板の木目模様。
妙に懐かしいけど、真新しい室内。
窓から見える空は、まだ薄暗い。
これは夕方?
いや、この紫色っぽい空の感じからすると、明け方か?
学習机の上にある時計に目を移すと、もうすぐ6時を指すところだった。
ん?
学習机?
だんだんと頭が覚醒してくると共に、思わず声を上げそうになるが、すんでのところでその衝動を抑え込む。
『冷静に冷静に』と、頭の中で呪文のように唱えながら、再び布団に横たわる。
長年の社会生活で積み重ねてきた精神力は、まるっきり無駄なモノでは無かったらしい。
寝床は、長年愛用してきたベッドでは無く、畳に敷いたセンベイ布団である。
横に顔を向けると地面がすぐ近くにあるのは、かなり久しぶりだからか妙な感覚だ。
布団の上に仰向けになり、自分の両手をまっすぐに伸ばす。
ちょっとプニプニしてるけど、皺や産毛一つ無いきれいな肌。
パジャマは、当時流行りのウルトラマンや怪獣がいっぱい散りばめられたプリント柄だ。
少し上半身を持ち上げ、パジャマのズボンをビローンと伸ばして、中を覗き込む。
・・・うん、新品。
紛う事なき未使用品だ。
「・・・なんだこれ?」
またもや無意識に叫びたくなる衝動をぐっと閉じ込めて、絶えず湧き上がってくる不安や動揺を何とか制し、深呼吸を何度か繰り返す。
さて、落ち着いて状況を確認しよう。
何度もほっぺたをつねったり横に伸ばしたりしてるが、ちゃんと痛感も触覚もある。
脇の下に指を挟み入れると、熱も感じられる。
だがこれらの感覚も含めて、夢なのではないかと言う思いも否めない。
改めて、周囲の状況確認。
ここはどこだ?
・・・間違いなく、小学生時代の自室だ。
となるとこの家は、田舎から都心近くに引っ越してきたときに買った建売住宅だろう。
当時、恥ずかしいぐらいに貧乏だったウチが、建て売りとはいえ都心近郊に新築の家を買う事ができたのは、以前に住んでいた借家と借地が高速道路建設のために立ち退きとなったからだ。
お上が買い上げてくれたからか、結構いい値段を支払ってくれた。
そのおかげ?で、単身ここに来るはずだった父が新居を構え、家族ごと引っ越す事になったのだ。
ただ、兄はすでに就職していたため、地元に残って会社の運営する寮に住む事になったが。
俺は寝床から起き上がり、学習机に向かう。
机の背にある立ち上がった部分は一番上が本棚になっていて、今は新しい教科書や辞書が並んでいる。
その下のスペースには教科時限表(時間割)が貼ってある。
机の横には通学用に使う鞄。 左側にランドセル、右側には肩掛け鞄がかかってる。
これから通う学校では、低学年までしかランドセルを採用しておらず、手提げや肩掛けの鞄が指定されている。
俺が転校前まで使っていたランドセルは、これでもうお役御免だ。
後に、父がこの、お下がりになった黒いランドセルを妹に使わせようとして、妹が泣き叫んだのを思い出した。
ピチピチ新入生の女の子に使い古しの黒いランドセルとか、そりゃあ泣き喚くわな。
うちの父は、そこら辺の配慮がかなり足りない人だったのだ。
まだ新品のノートには『成田 実』の文字が。
これは母の字だな。 父の字はもっとカクカクしてるのだ。
まだ新品でピカピカの机にぼんやりと映る俺の顔は、どう見ても小学校時代の俺だ。
「…もしかして、もしかするか?」
もっとちゃんと確認しようと、部屋から出てそのまま洗面所に向かった。
ドタドタと二階からの階段を降り、洗面所に向かおうとしたところで、母が台所からひょっこりと顔を出し
「あら?今日は早いのね。
もしかして、転校初日だからよく眠れなかった?」
と、声をかけてきた。
そんな母の顔を見て、反射的に「うわっ、母ちゃん若っ!」と叫んでしまったのは、仕方のない事だと自己弁護しよう。
「突然何言ってんのよ、この子は!」と突っ込みを入れながらも、母はなんだか嬉しそうだ。
洗面所で歯ブラシをシャコシャコと動かしながら、鏡に映った自分の顔をまじまじと見る。
うーん、どう見ても昔の俺の顔。
髭なんか、これから生えてくるなんて想像できないぐらいスベスベだ。
これは確定だな。
五感の全てが、『ソレ』を肯定している。
これってアレだろ?
ネット小説なんかで割とポピュラーな『逆行転生』とか『巻き戻り』ってやつ。
鏡に映る自分の顔をまじまじと観察しながら、どうせ巻き戻すんなら、ついでにルックスなんかももう少しサービスしてくれて良かったのにと思ったが、贅沢は言うまい。
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