第206話 忘れられたBAD・END

 仕掛けを解いたことで奥の壁が開いた。

「あった、あった! シズ、これが左目でしょ」

「でかいなあ……え? 今回もまたオレが運ぶの?」

シズは剣を収め、大きな青い円盤をよいしょと抱える。

 そして来た道を戻り、仮面の像のもとへ。

「気をつけてください、シズ。結構な高さですから」

「お、おう」

脇の階段をあがれば、顔の正面まで行くことができた。左目の穴に青い円盤を嵌め込むと、カチッと切れのよい音がする。

「さあって。そろそろタリスマンを拝ませてもらおうかな」

下に降り、シズは仲間たちとともに巨像を見上げた。

「……あれ? 反応なし?」

「それはないわよ。わざわざ、こんな像まで用意してるんだもの」

 イーニアのコンパスが急に真っ白な光を放つ。

「きゃっ!」

 一条の光は巨像の仮面へと注がれた。同時に庭園の全体が揺れ、クロードは怯える。

「すっごい嫌な予感がするんだけど……私」

「奇遇だな、ティキ。オレもだよ」

 ついに仮面が割れた。巨像の素顔が露になり、額で第三の瞳が輝く。

「動くわよ! 離れて!」

 唸り声が響き渡った。ティターンはシズたちを見下ろし、両腕を振りあげる。

「クロードは隠れてろ! もっと下がるんだ、みんな!」

 シズはイーニアを抱え、壁際まで後退した。

それでもティターンのリーチが長いせいで、剛腕が掠めそうになる。ティターンの一撃は広間の床を軽々と砕き、石畳の破片が飛び散った。

サフィーユがツヴァイハンダーを盾にして、石片をやり過ごす。

「さすがに大きすぎるわ! シズ、ここはひとまず」

「逃げるしかねえな」

シズとて勇気と無謀をはき違えるほど、向こう見ずではなかった。十メートル大の巨人を相手にして、クロード団が勝てる可能性は低い。

「私も賛成! イーニアもいいでしょ?」

「ですけど、タリスマンが……」

「出直すんだよ! こんな怪物がいるってんなら、準備も必要だろ?」

 まだマンドレイクを用いる上級魔法の用意もなかった。シズたちはティターンに背を向け、回廊をまっすぐに駆けていく。

 そのつもりが、再びティターンのもとへ戻ってきてしまった。

「ええっ? ど……どうなってんの?」

「も、もう一回だ! 逃げるぞ!」

 同じ回廊をひた走り、扉の向こうへと駆け込む。

 だが、またしてもシズたちはティターンと相対する羽目になってしまった。噂に聞くループの罠に掛かったらしい。

サフィーユは潔くツヴァイハンダーを握り締める。

「逃げさせてはくれないみたいね……やるしかないんだわ」

「……ああ」

 シズも覚悟を決め、シルバーソードを抜いた。

 相手は巨体とはいえ、ティキやサフィーユの攻撃は通用するだろう。シズやイーニアの魔法も充分な効果が期待できる。

 幸いにしてティターンは腰が床と一体化しており、移動はできなかった。

「で、でも……あんなおっきいやつと、どーやって戦うわけ?」

「要はゴーレムだから、どこかにコアがあるはずよ」

 ゴーレムはマジックオーブを核とし、泥や木材、岩などで身体を構成する。サフィーユの読みが正しければ、ティターンは身体のどこかにコアを持っていた。

「とにかく腕を破壊するのが先だぜ。オレとティキで右腕をやっから、イーニアとサフィーユは左腕を当たってくれないか」

「わかりました。サフィーユ、お願いします」

「なるべく側面を取るように意識するのよ、みんな。まだ能力を隠してるかもしれないから、くれぐれも注意して」

 シズたちに目掛けて、ティターンが瓦礫を投げつけてくる。

「は、離れてても意味ないじゃんか!」

「当たるなよ! 頭を低くしろ」

 シズはティキとともに瓦礫をくぐり抜け、巨兵の右側を取った。イーニアとサフィーユも左側を取り、挟み撃ちに持ち込む。

 ところがティターンは首をこちらに、身体を向こうに回転させた。

「うげえっ?」

「し、しまった!」

 シズとティキの真上から大質量の頭突きが降ってくる。

 間一髪、シズたちは頭突きをかわした。しかし足を取られ、シズは剣を落とす。

「無事か? 立てるな、ティキ」

「なんとかね……あいつの身体、どーなってんのさ?」

 ゴーレムは人間の身体を模倣して作られているだけで、人体の構造を踏襲しているわけではなかった。そのため、作りようによっては関節が逆にも曲がる。

 反対側でもイーニアたちがティターンの猛攻に晒された。

「きゃあああっ?」

「落ち着いて、イーニア! ……シズ! そっちから背後を狙って!」

「よ、よし! ウインドカッター!」

 シズの手が風の刃を放つ。

 しかしティターンは『こちら』を向いているため、完全に読まれてしまった。巨兵の顔面が障壁を展開し、風の魔法を阻む。

「やばいって! とりあえず廊下に逃げたほうが、よくない?」

「そうだな……」

 二手に分かれたことで、一点突破の攻撃力も半減していた。イーニアたちが見えないことも少なからず動揺を生む。

(こんだけの巨体の動力だろ? コアも相当でかいはずなんだが)

 この窮地を切り抜けるには、ティターンのコアを狙うほかなかった。ティターンは大きすぎるため、エネルギー切れを起こす可能性もある。

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