おサルの王様の三つの願い
ふうりん
第1話 おサルの王様の三つの願い
太平洋に浮かぶある小さな島に、おサルのくにがありました。
そのくにのサル達は働き者で、田畑を耕して、米や野菜を作ってつつましく暮らしていました。そして、そのくには、信心深いおサルの王様が治めていました。
王様は、社を建て神様を祀り、毎日、くにが豊かになり、皆が幸せに暮らせるよう願いをかけていました。
ある夜、王様の枕元に神様が姿を現し、おっしゃいました。
「王よ、そなたは、よく私を祀ってくれている。三つの願いをかなえてあげよう。そなた、そして子と孫、三代の王のそれぞれ一つずつの願いを聞き届けることにする。このくにが
王様は、「なんとありがたいことだ。」と、社の方角に向かい手を合わせました。
翌朝、王様は重臣を呼び、昨夜の出来事を話し、「我が治世において、一つなすべき事として、どのようなことがよかろうか?」と問いました。
「賢明なる王様、まずくにを豊かにするには、産業の振興でございましょう。モノづくりを盛んにし、皆が、便利な生活を送れるようにすることが大事かと存じ上げます。」と重臣は答えました。
「もっともなことだ。」と王様は思いました。
そして、社の前に行き、「どうぞ、このくにで産業が発達しますように。」と神様に祈りました。
すると、どこからか、「よーし、お前の願いはかなえられよう。」という、重く響くような声が聞こえたような気がしました。
数年の年月が経つと、おサルのくにでは、皆が一生懸命働き、モノづくりが盛んになりました。
色々な食料品や工業製品が、サルの家々に豊富にいきわたるようになり、サル達は皆、豊かで楽しい生活を送れるようになりました。
王様は、「やはり、神様は願い事をかなえてくださった、本当にありがたいことだ。」とお供え物を豪華にするなど、一層熱心に神様を祀りました。
そして、月日が流れ、王様の子が次の王様になりました。次の王様は、お父さんの王様から、神様と願い事のことを教えられています。自分の代には、何をしてくにを一層栄えさせようかと一生懸命考えました。しかし、なかなか自信を持って、これをなすべきということは思いつきませんでした。
そして、重臣に問いました。
「我が治世において、一つなすべき事として、どのようなことがよかろうか?」
「賢明なる王様、今、くにはモノに満たされ、皆食べ物に困らず、良い服を身に着け、便利な楽しい暮らしをしております。しかしながら、いかに楽しく暮らしていても、病やけがにより生活が苦しくなることや、命を落とすことに不安を抱いている者も少なくありません。これからは、医療を発達させ、皆が長く楽しく生きていけるようにすることが重要かと存じます。」と重臣は答えました。
「なるほど、もっともなことだ。」と王様は思い、社の前で、「どうぞ、このくにで医療が発達し、皆が長生きできますように。」と神様に祈りました。
すると、どこからか、「よーし、お前の願いはかなえられよう。」という、重く響くような声が聞こえたような気がしました。
数年の年月が経つと、おサルのくにでは、医療が発達、普及し、病気やけがをしたサル達が元気になるようになり、皆長生きできるようになりました。
王様は、「やはり、父上の言われたことは本当だった。神様は願い事をかなえてくださった、本当にありがたいことだ。」とお供え物を更に豪華にするなど、一層熱心に神様を祀りました。
そして、また月日が流れ、王様の子が次の王様になりました。
その頃には、くにの様子が昔と随分変わり、おかしなことが起こっていました。モノが豊富で生活が楽しくなると、サルたちは子育てが面倒臭くなり、子供をあまり産まなくなりました。また、皆が長生きするようになり、年寄りのサルがやけに多くなってきていました。
今度の王様も、お父さんの王様から、神様と願い事のことを教えられています。
王様は、自分の代には、何をしてくにを一層栄えさせようかと一生懸命考えましたが、現在のような状態が続くことは、まずいということはなんとなく感じるのですが、これをなすべきということは思いつきませんでした。
そして、重臣に問いました。
「我が治世において、一つなすべき事として、どのようなことがよかろうか?」
「賢明なる王様、今の状態が続くと、何年か後には、田畑を耕すサルや他のしごとをするサルが少なくなり、とても、多くの年寄りのサルたちを養っていくことができなくなってしまうでしょう。まず、子ザルを増やし、年寄りサルを減らすことが重要かと存じます。さすれば、くには末永く繁栄し、後世まで王様は名君として讃えられましょう。」と重臣は答えました。
「なるほど、もっともなことだ。」と王様は思い、社の前で、「どうぞ、このくにで子ザルが増え、年寄りサルが減りますように。」と神様に祈りました。
すると、どこからか、「よーし、お前の願いはかなえられよう。これが、最後の願いである。」という、重く響くような声が聞こえたような気がしました。
その翌年、2020年の春のこと、おサルのくにでは、これまでサル達が経験したことのない、病気が流行しだしました。その病気は不思議なことに、年老いたサルがかかると病が重くなり死んでしまいますが、若いサルは1か月程家でゆっくり休むと回復するというものでした。
王様は、「まさか、これは神様がなされたことではあるまいな。私は、このようなことはお願いしていない。」とびっくりしました。そして、社の前で何日もお祈りを続けましたが、何の啓示もうけられませんでした。
仕方なく王様は、「この病が大流行したら、このくにが滅んでしまう。何をなすべきであろうか?」と重臣に問いました。
「賢明なる王様、この病は、サル同士が密接に接触すると感染が広がるようでございます。皆に外出を自粛し、家に留まるようお命じになるのがよろしいかと存じます。月日がたてば、病禍も収まりましょう。」と重臣は答えました。
「もっともなことだ。」と王様は思い、お触れを出しました。「皆、外出を自粛するように。」
ほとんどのサルたちは、王様の指示に従い、家で過ごすことにしましたが、その夏、病気が大流行してしまい、年老いた多くのサルたちが亡くなりました。幸いなことに、冬が来るころには、多くのサルが、この病気の免疫を持つようになり、自然と流行は収まりました。
年が明けると、家にこもっていたサルの家庭には次々と子ザルが生まれ、サルのくににはベビーブームが訪れました。
「くにに子ザルが増え、年寄りサルが減りますように。」という王様の願いはかなったことになりましたが、以後、このくにでは、神様を『疫病神』と呼ぶようになったそうな。
(了)
おサルの王様の三つの願い ふうりん @akagioroshi
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