護りたいモノ
「うーん、これは……ピンチ? 」
「かもな」
ジーク達は学園から500m程の裏手にある長く放置され、錆が目立ち、剥がれ落ちた外層から鉄骨が見える程に果てた高層住宅の一室に居た。
学園迄あと少し、だが、それを阻むかのように眼下の大路地には兵士達が隊列を組んで、こちらへと向かってきていた。
ジークはその様子を窓辺から手鏡越しで観察していた。
完全な位置は把握されてはいないようだが、時間の問題だろう。
先頭で指揮を執る、顔に幾つのも傷を負った色黒の男の堂々とした立ち振る舞いはそう思わせるほどのものだった。
「……正義の味方か、絶滅していたと思っていたが、実際に見ることが出来て、嬉しいな。
今仕掛ければ、先手だけは取れるな」
「先手だけ?
この人数差でやりあうの? 」
「もう種は撒いた。
彼らが頑張らない限り、戦争は止められない。
だが、今、この時、この場所でも、戦争は続いている……だから、俺はやる」
エリーはジークの様子をやれやれと呆れた様子で見ながらも戦闘準備を始めた。
シルヴィアも少しサイズの大きいヘルメットを被りなおした。
まるで、愛おしく、尊いものを見るようにジークは目元を緩ませながら、あの時とさほど変わらないままの愛銃ガーランド・ライフルのバイポッドを立てた。
そして、高所からスコープ越しに正義の味方達を見下す。
目元は緩んでいる……だが、その眼光は殺気に満ちていた。
「そっちが護りたい
◇
突如、気まぐれな突風が吹いた。
そして、それはアランの元へと迫っていた死の運命を少しだけずらした。
「ぐはっ! 」
「っ!?
正面だ! 伏せろ! 」
自分の右側に居た部下の頭部が破裂したのを、直ぐに狙撃だと看破するとアランは直ちに命令を下した。
すぐさま、他の兵達は遮蔽物に身を隠そうとするが、一部の兵達は間に合わずに、撃ち殺されてしまった。
「追い詰めたぞ!
迫撃砲の支援は要請できるか!?」
「駄目です、風に吹かれて、学園に命中する可能性が! 」
「ちっ! ならば、大戦果は俺達のモノだ!皆、やるぞ!
正面のレンガ造りの建物の8回あたりに居る!
遮蔽物で身を隠しながら応戦しろ! 」
「了解、交戦すっ――! 」
アランのすぐ隣にいた兵の頭がまた鮮血と共に飛び散る。
遮蔽物に身を隠しながら、ほんの少しだけ、頭を上に出しただけ。向こう側のジークからは、小さな、小さな陰にしか見えない筈なのに、撃ち抜かれたのだ。
数人減ったとはいえ、圧倒的な数的有利はこちらにある。ジーク達を追い詰めている……その筈。
だが、アランは確証が持てなくなってきた。
長い戦いの末、ジーク達は疲弊している筈だと思い込んでいた。しかし、向こう側から飛んでくる銃撃はとても効果的だ。
一つはセンスはあるが、まだ未熟な弾道を描いている。それ故に、予想しずらい。
もう一つは、フルバーストで効果的な制圧射撃を仕掛けて来ている。サポートに徹した熟練の技だ。
「あの塀を盾にしろ、行け! 」
「わかっ、ぶぐっ! 」
「だ、駄目だ……どこもかしこも、奴らの射程範囲だ! 」
それらの二つの弾幕を通り抜けながら、最も効率的で、最小限度で、尚且つ致命的に、凄まじい命中精度で射抜いて来る弾丸がある。
アランは確信した、これが
戦場で疲弊などしない。寧ろ、ジークにとって戦場は研ぎ石だ。長く居れば、居る程殺傷力が増す。
たった今も、また一人、遮蔽物の薄い所を撃ち抜かれたこの世を旅立った。
アランの脳裏に悪夢のようなイメージがよぎった。
戦場に長く居続け、やがて、誰にもどうしようもなくなった少佐が、全世界を燃やし尽くすイメージが。
それでも、悪夢を振り払うようにアランは首を横に振り、胸元のポケットから一枚の写真を取り出した。
彼の妻と、生まれたばかりの赤子の写真だった。
そして、十字架を切った。
「……全員、俺の合図に合わせて、一斉に動いてくれ。
リスクは覚悟してほしい……だが……! ]
「ご命令を、隊長! 」
「そうだ、負けっぱなしなんて御免だ! 」
「逃げて帰っちゃ、お袋に怒鳴られますんでね! 」
「ふん、ようやく一個の軍隊らしくなってきたな!
さぁ、お望み通り、やってやろうぜ、戦争を!」
◇
だが、無情。
「……決まり、ですな。
では、結論を述べさせて頂きます!
多数決により、現在進行中のジーク・アルト暗殺作戦は即時中止と決定致します!」
戦場は会議室へと移っていたのだ。
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