ストリップショー
「おっ……お帰り」
廃列車の中にジークが戻って来た。
どうやら、
エリーに関しても、傷の応急処置は上手く行ったようだ。
だが、ジークはエリーの目の前を素通りすると、立ち止まったかと思うと、首を振って、また歩き出した。
まるで、複雑な計算を頭の中で暗算するかのように。
が、何かの合点がいったように、完全に立ち止まった。
そして、シルヴィアの方へと顔を向けた。
「どうかしましたか……? 」
顔を向けられたシルヴィアは顔を赤面しながら、小首を傾げ、おずおずとそう尋ねた。
「いいことを思いついた。
シルヴィア、良い服を着ているな」
「え……?
あ、ありがとうございます。
これは国で最も歴史がある仕立て屋に仕立てさせたもので……それを軍の研究機関によって防弾性を――」
「うん、そうか。
でも、まぁいい。
それ、脱げ」
「――っ!? 」
「ストリップショーだ。
世界中が熱狂するような」
◇
アラン達は延々と王都を回り続けていた。
援軍を合わせ、総勢200名あまりでの大規模な捜索。
だが、この広い王都跡地の何処かに居るたった三人を探すのは、極めて困難なことだった。
分隊規模で捜索し、見つけては、蹴散らされ、その残像を追いかけては、仲間の変わり果てた姿を見る。ストレスフルな仕事だった。
流石の屈強な兵達の額にも、汗と疲れが見え始めた。
その時、通信士が背負う無線機がけたたましいブザーを響かせた。
「ア、アシタカよりハンマーヘッドへ! ハンマーヘッド、アラン中佐、聞こえるか!? 」
「ああ!
奴と遭遇したか、場所は!? 」
「わ、わからない!
路地で奴らを見かけて、追いかけた。だが、誘い込まれたんだ! 建物に囲まれてる、なんだこれ!?
今は無線士の無線を借りて……死んだよ、他の奴は死んじまった! 生き残りは俺だけだ!」
「落ち着け、一度身を隠すんだ!
敵は何人で、今どういう状況下、少しずつ、一つずつ順序立てて報告するんだ、出来るな!?
何か目印になるような……そこに何が見えるか!? 」
「居るんだ、此処には悪魔が居るんだ!
ああ、夕日が……神様……?
助けてくれ、神様!
人殺しの罪を償うから、兵隊なんてやめる。
もう、人殺しなんてしないから。
神様、居るなら、たすけ」
「居ねえよ、此処には」
何かの囁きを拾った後、遠方の味方の声を届けていた受話器は完全に沈黙した。
アランは一度押し黙った後、受話器を空に放り投げた。
「アラン隊長……? 」
「クソ、俺のせいだ。
何時まで経っても上がらない成果に、お偉いさんも苛立ってるようだ。
何も、何も上手く行かない。
畜生が! 」
「隊長、貴方はよくやっています。
見てください、違う国の英達がともに歩いている。これだけでも素晴らしいことです! 」
「だが、だからこそ……!
ちっ、さっきの奴のことは良く知らなかった。だから、もっと知りたかった。この戦いでの勝利を祝って、酒でも飲み交わしたかった。
最後に神に縋ってたな、信心深い真面目な奴だったんだろう」
「いいや、アイツはどちらかというと、神を信じないタイプだった。
そんなアイツが神を縋るだなんて……あの化け物はどんな殺し方をしたんだ! 」
その嘆きに、アランはふと違和感を感じた。
軍人というのはプライドが高い連中だ。そんな男が、最期に神の名を出した。
それは最後の祈りというわけではなく、寧ろ……。
「教会……? 」
「は? 」
「確か、死ぬ前に夕日がとか、神様が、とか言ってたな?
あれは教会の十字架に夕日が差していたのが見えたからじゃないか?
学園のバカでかい教会だ!
その神秘的な光景が目に入って、アイツは思わず最後に神に祈った――そうじゃないか!?
狭い路地は、リカールの労働者区画の可能性が高い!
方角を割り出せ、奴はそこに居る!
無線士、近い奴を片っ端から向かわせろ! 」
「りょ、了解! 」
「これ以上時間がかかればどうなるか分からん!
総員、俺の賭けに乗ってくれ! 」
日が落ち、夜が来て、また日が昇り、そして、また日が堕ちようとしている。
だが、まだ落ち切ってはいない。
兵士達はそれが沈む前に、走り出した。
その先に、希望があると信じて。
数分後、別動隊から無線が入った。
「報告です!
劣化して崩落した歩道の底に、何者かが落下したようです! 暗くてよくわかりませんが、特徴はシルヴィア嬢が来ていたコートと合致します。
まだ赤い血が付いているようにも見えます! 落下して間もないのかもしれません」
「女王の……!
死体の身柄は明確に判断できるか? 」
「いえ、コートの裾だけが見えています。
如何せん穴が深くて、潜って確かめるには……専門の高所機動隊でも半日は掛かりそうです」
「ただの罠か、足止めの可能性が高い!
だが、痕跡を残したな。
焦ってるんじゃないか、ジーク・アルト!
位置だけマークして、苛立ってるお偉いさんに報告してやれ! 」
どんな挫折や足止めにも挫けず、戦士たちは進み続ける。
だが、日は確実に堕ち始めていた。
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