不幸の鳥
「ちっ、何時まで経っても面倒な国だよ、此処は! 」
臨時隊長、アランは思わず毒づいた。
アランのリーダシップもあり、統合政府軍はある程度の統率力を取り戻した。
とにかく、ジーク・アルトを抹殺。
その単純かつ明快な目標を目指し、彼らはジークらを追撃した。
夜も明け、ゆっくりと夜明けがやって来た。
まるで天が彼らを応援するかのように。
だが、皮肉なことにそれに影を差したのは、他でもないジークが滅ぼしたこのリカール王都だった。
世界で最も美しいと呼ばれたその王都は、当時としては近代的な街並みと、それでいて、各地の植物を集めた自然の美しさを感じられる緑豊かな大規模な自然公園が王都のど真ん中に位置していた。
リカール国民に愛された優しき王子、アサドの発案とも言われるこの機能性と美しさを兼ね備えたリカール王都だったが……草木を整える者が居なくなった現状、外来種が集まる自然公園は、最早日の入らないじめじめとしたジャングルと化していた。
厄介なことに、ジークらは恐らく、此処に逃げ込んだのだ。
上がった兵士達の前向きな表情も、汗と疲労と憂鬱さで満たされ始めていた。
「……森林の中に迷い込んだみたいだぜ……」
「クソ、ツタが絡まって」
一人の兵士が、足元に絡まった何かを強引に足で引きちぎろうとした。
暑さでうんざりしていたアランはその様子を見て、ああ、軍の教本でこんなイラストを見たなとぼんやり思った。
一拍遅れて、肝が冷えた。
「止せ、罠だ――! 」
それは蔦じゃなくて、先端が手りゅう弾のピンと繋がっているワイヤーだ。
アランの警告は間に合わなかった。
予想通り、茂みからピンの抜けた手りゅう弾が転がって来て、直ぐに爆発した。
「て、敵だ! 」
「畜生、化け物めええええッ! 」
「しゃがめ! 」
「(横列、横列、警戒範囲を広げろ!) 」
「(制圧射撃だ、辺り一面を撃て!) 」
「何!? 敵はそこにいるのか!? 」
だが、流石は精鋭達、怖気るよりも早く反撃の為に行動を起こした。
しかし、その勇敢な行動は仇となった。
彼らはいつも厳しい訓練に耐えて来た精鋭達、咄嗟の事態に対してももちろん訓練を重ねて来た。
だからこそ、それぞれ、祖国でやってきたことをしてしまったのだ。戦術も、言葉も、考えもバラバラだった。
それで完成するものは、一流の戦闘とは程遠い、統率の取れていない杜撰な戦闘だった。
「待て、近くに敵は居ない!
無駄弾を撃つな、敵に我々の数を教えているようなものだ! 」
「……!
(射撃止め、射撃止め! 全員背を低くしっ)」
ダンッ
「お、おい!?
しっかりしろ! 」
別の国の若い青年士官が、アランの制止の声を翻訳し、より大勢に伝えようとした。が、その勇気は草むらの向こうの悪によって撃ち消された。
アランは身を低くしながら、拳を地面に叩きつけ、奥歯を噛みしめた。
自分達には帰るべき祖国も、誇り高き使命も、護るべき人も居る。
……なのに何故、一匹狼如きに歯が立たないのだろう
とても理不尽だ。
空では、彼を嘲笑うかのようにカラスがカァカァと鳴いていた。
アランの勇敢な正義が、少しずつどす黒い憎しみへと変わっていった。
◇
一方、その頃。
自由国家、アーゼン共和国の国防省に一枚の手紙が届いた。
「……姉さまから? 」
「正確には、トリスタン外務省のエミリー・アイロット様からの手紙ということになりますが……」
宛先はエミリー・アイロット。
差出人はアリス・アイロットからだった。
もう二度と交わる事のないと思っていた姉からの手紙に困惑しつつも、エミリーは封を切った。
”私を満たす最愛の君主が消えてしまった今、空っぽの私の中に存在したたった一人の貴女へ"
そういう文言で始まった手紙には驚くべきことが書かれていた。
シルヴィアが失踪したとの内容だった。
そして、何時まで経っても居場所すら分からず、パニックになったアリスは、無茶苦茶になった記憶の底から、エミリーの存在を見つけ出し、助けを求めたのだ。
が、手紙の内容を理解したエミリーが最初に思い浮かべた顔は、アリスではなく、もちろんシルヴィアでもなかった。
エミリーは庁舎の執務室から、夕焼けに染まる空を見上げた。
迫り来る闇に向かって、カラスたちが群れをなして飛んでいた。
心が疼くのを感じた。
「ふふ……まだやっているのか、本当に……本当に仕方のない人だ、君は……」
「……大臣? 」
「役職で呼ぶのはやめてくれと言っているだろう、私はお飾りじゃない。
まだ戦えるんだ……戦うんだ、私は。
諜報部隊、クロウ隊に出撃命令。
探せ、私達の親鳥を。彼の
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