お掃除の時間
ジークが交戦する十数分前。
「止まれ、両手を挙げろ。
何者か」
「アリシア・バーバラ。
清掃担当の者です。
担当区画は3-1、合言葉はアゲハチョウ」
「問題ない、通ってくれ」
かつてリカール王国が栄華を誇った王城にて。
廃墟となったあとは放置されていたが、今回の会談に合わせ、密かに修復が行われた。
ただ、機密性を高めると言っても、流石に王城一つを修復するのはどうしても人手が居る。しかも、会談の内容が内容の為、数日から数週間かかる可能性も考慮しなければならない。
よって、7カ国連合、通称世界政府は信頼のおける業者を雇うことにしたのだ。
ただ、それでも警備は怠らない。
たった今も、廊下でメイド服姿の女性が完全武装のガスマスク兵に抜き打ちの身分確認を受けていた所だ。
検査を行ったガスマスク兵は再度歩哨任務へと戻った。
(……こんな高レベルの警備、まるで海外から皇族が来た時のようだ。
しかも、リカールの跡地で……何が行われているのだ。
万全の警備の為に機密事項があるというのは仕方ないと思うが、全く、最低限の情報は現場の兵にも与えて欲しいものだ。
ん・・・・・?)
ガスマスクに隠された顔を思い切りしかめながら、内心で愚痴を呟いていた兵士だったが、廊下の向こうから歩いて来る別のメイド服姿の女性に気が付いた。
銀髪、色白……旧リカール王国を含む西大陸の外見的特徴を持つ背が低めな女性だ、と兵士として分析しつつ、彼個人的な感想として、メイド服が良く似合う可憐な女性だなと見とれてしまった。
「ご、ごほん……止まれ、両手を上げろ。
君は何者だ」
「……エリ、エリザベス・トースト。
清掃担当です」
「清掃区画は?
ちょっと待て、何か……」
そこでガスマスク兵は何かの違和感に気づいた。
何か、何か……。
何か恰好が、そうメイド服が他のと少し違くて……あれ、彼女が現れた方向には照らすしかなかった筈、そもそも彼女は何処から現れたんだ?
「清掃区画?」
「あ、ああ。そうだ。清掃区画だ」
「貴方」
「……は? 」
ガスマスク兵は意味が分からなかった。
それに背の低い女性で、しかも自分はライフルを女性に突き付けて居て、女性は両手を上げていた為、危機感が薄れていた。
だって、まさか、メイドが履くスカートの下からナイフがポトリと落ち、そして、地面に落ちる寸前のそのナイフがメイドによって蹴り上げられ、真っすぐに自分のガスマスクを貫き、そのまま自分の人生の幕を閉じるだなんて思わないだろう。
悪夢のようだが、しかし、それが現実だ。
屍となり、倒れるガスマスク兵の上を平然と歩く返り血に濡れた
エリーは此処をよく知っていた。
何故なら、一度攻略済みだから。
ふと、エリーは宮殿の窓から見えるリカールの路地を見下ろした。
補修されているものの、かつての栄光は荒んでいた。しかし、思い出に浸るには十分だった。
彼女の脳裏に、今もなお、往生際悪く残る同級生に囲まれるいじめられっ子エリーの姿が浮かび、エリーは無表情で落ち着かせるように自分の胸に手を添えた。
だが、どこからか微かに断末魔のようなものが聞こえ、そのイメージは吹き飛ばされた。
破壊、虐殺、狂言――誰にとっても悪夢、だがエリーにとっては大事な記憶を思い出し、エリーは頬は火照ったように朱色となった。
そして、前へ、前へとスキップするように走り出した。
(殲滅戦、打撃戦、命令、突撃、拷問、大隊長、大隊長、大隊長、大隊長、大隊長、大隊長、大隊長、大隊長、大隊長……私の大事な、大事な、大事な大隊長……私の好きなあの人が好きな戦争をっ)
「……貴女、どなた?
私達と違う制服見たいだけ……あっ、あそこ人が倒れっ……きゃあああああ!?
だ、誰か――!? 」
歩みを進めていたエリーは、他の清掃担当者と出くわした。
死体と血に染まったエリーのメイド服を見られてしまった上に悲鳴も上げられてしまったが、もう、あまり関係のない話だ。
エリーは、スカートにかくされた太ももから、使い込まれたショートバレルのグリーズガンを抜き去った。
そして、にっこりと微笑みこういうのだ。
「
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