プロローグ

 此処は何処かの国の教会。


 大聖堂というほど豪勢ではなく、所々に傷や汚れが垣間見れる年季の入った古い田舎スタイルの教会だった。




 が、そこには多くの敬虔な信者が詰めかけており、彼らは皆静かに祈りを捧げていた。


 彼らが祈りを捧げている教会の祭壇には、修道服の女性が立っていた。


 少女というほどではないが、若い女性のようだ。


 修道服の頭巾からはみ出ている栗色の髪の毛が、シスター相手にこんな感想を述べるのは不敬かもしれないが、服の合間から見える白い肌は美しく、服の上からも分かるほど随分と豊満な体つきだ。


 それも含めて神秘的で、落ち着いた立ち振る舞いからも、人々から愛されているという理由がよくわかる。


 だが、表情は良く分からない。


 何故なら、彼女の目元は、黒い布で覆われているからだ。


 どうやら、彼女は盲目のようだ。




「聖女様、貴女様のような人が世界を導いて下されば……!


 私共は、詐欺師たちに騙され続けてきました。




 もう、何を信じればいいのか……!」




「いいえ、私にはそんなことは出来ません。


 私が出来るのは、神のお言葉を皆様にお伝えするだけ。




 そして、それに従うか、背くか……それを決めるのは、一人一人の人間なのです。


 ですから、まず、貴方は自分自身を愛し、信じなさい」




「おお……!」




 何か思い悩んでいた様子の老け込んだ老人の震えた腕を、聖女と呼ばれた彼女が優しく包むと、教会内は優しい温かさに包まれた。




 が、そこから少し離れた場所、教会の後ろ側では雰囲気が違っていた。


 教会の前の席の貧しい身なりの信者たちとは違い、彼らは高そうな背広を着た役人風の男達だった。


 彼等はその光景を、冷笑していた。




「聖女サラか……胡散臭いね、正直」




「やめなされ、我々に協力して下さるというのに。


 まぁ、庶民相手には、ああいう女性が望まれるのでしょう。




 我々のような嫌われ者、政治家と違ってね」




「はっ、違いありませんな。




 ふむ……しかし、実現できるのでしょうか、統一政府とやらは」




「でなくては、困る」




 彼等は大国の議員たちのようだった。


 そして、彼らが話している計画……それが"世界統一政府計画"だ。




 今もなお、この世界はリバーシのように白と黒が入れ替わり、平穏とは程遠い。


 これでは秩序もクソもない。


 だったら、いっそ大国で結託して、世界をまとめ上げようというのが彼等の考えだ。




 だが、当然、支配者と支配される側を分けるという意味でもあるこの計画はあまりに傲慢だ。




 だからこそ、必要なのだ。


 人々を導く女神が。


 聖女サラはその候補の一人なのだ。




「しかし、サラ様は第二選択肢に過ぎません。




 第一選択肢は……」




 男が背広の内ポケットから取り出した白黒写真、そこに映し出されていたのは、シルヴィア・ヴィン・トリスタンだった。




「うむ、わかっている。


 確かに、女王の影響力は計り知れない。


 だが……だからこそ、あの女こそもっと信用ならん。


 我々と手を取る気はあるのかね?」




「いいえ、取らせますよ。


 彼女を揺する為には十分かと。それに、例の獣の息の根を止めるのもこれで、十分かと」




 さらに、男が取り出したもう一枚の写真を見て、男たちは満足げに頷き、勝ち誇った笑みを浮かべた。




「終わりだな、ジーク・アルト」


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