考察の上へ

民兵たちの戦車は破壊された。

 しかし、それでもなお……いや、いっそやけになったかのような民兵たちの突撃の試みはやまない。


「現状は、訓練通りの流れとなっています。

 奴らの勢いは抑えられ、防衛線は維持され、こちらには数名の負傷者が出た程度。

 ただ……ここから押し切るだけの火力も人員も足りません」


「了解、報告ありがとう。落ち着いて、このままの冷静さを保つんだ。


 ええい……応援を頼んだ筈なのに、何故、誰も来てくれないんだ 

 首都の連中なんて暇を持て余しているだろうに」


 エミリーは歯噛みした。

 この世界が健全な物語であれば、健気に戦っている者達に心を打たれ、今まで仲たがいしていた者達が助けに来るというのが王道だ。

 だが、現実的な話をすると、エミリーの応援要請は、方面軍司令部のお偉いさん方が宰相閣下の機嫌を損ねることを危惧し、あたふたしているところだった。

 そこに更に嫌な知らせは入った。


「何!?

 ……屋上から狙撃を担当していたマッドからの連絡です。

 さっき、弾幕の一瞬の隙を突いて、3人くらいが侵入して来たようです!」


「報告の仕方がなってないな、訓練通りにやれ」


「し、失礼!

 3名、軽装、向かった先は西区の工場のようです!」


 兵達に動揺が走った。

 当然、奴らは観光目的で侵入したのではない。

 祖国を燃やす為に来ているのだ。


 だが、ジークは首をコキコキとしながら、笑みを浮かべていた。



「無茶苦茶な突撃を繰り返してたが、意味はあったみたいだな。

 数十名を犠牲にしての、たった数名の進撃。

 感動的じゃないか、してやられたよ」


「そんなことを言っている場合か!

 どうする、あの手荒な避難誘導で近くに人はいないが、街には人がいる。

 パトロールしている警官達の装備では無理があるし……」


「なら、俺が行く、エミリーも付いて来い。

 その他の連中はこの場を死守」


「ですが……お二人に抜けられたら、この戦線が!」


 青年兵が悲鳴のような声を上げる。

 ジークとエミリーが抜けるということは、指揮面でも、実力面でも大きな損失になるからだ。

 だが、ジークは時計を確認すると、こう呟いた。


「たしか、もう暇にはなっているな。

 ……正直、民兵共をこの街で暴れさせた方が、良い感じになると思うんだが」


「なんだって、銃声で良く聞こえなかった!」


「いや、問題ない。

 実は此処には誰かの為に、命を張るような誠実な奴らが居るんだ」


 ジークは煙幕を空高くに投げると、それを狙撃して、更に、大空に打ち上げた。

 白い煙は空高く舞い上がった後、その場におちて来た。暫くし、この男は何をやっているんだという無言の動揺が広がり始めたその時だった。工場街から十名程度の男たちが、全力疾走で現れた。


「待て、こっちは危険だ、来るな!

 あいつら、銃を持ってるぞ、しかも覆面まで! 民兵たちか!?」


「撃つな、あれは敵じゃない。

 武器は……拾ったんだろう、多分。

 紹介しよう、俺の友人だ」


 やってきた覆面姿の男たちは、銃声に怯むことなく、お手本のように、即臨戦態勢を整え、ジークの方を見つめた。


「友人諸君、彼らを手伝ってくれ」


「ち、ちょっと待て、部外者を戦闘に参加させるなんて……!」


 一人の兵が、困惑気味に抗議するも、まるで、部外者の指揮棒で戦っているお前は何なんだと言わんばかり、ジークは自分のことを指さした。


「コンニチワ、ヨロシク」


「えっ……ああ、どうも」


 何処か遠く離れた国の友人とリストニアの兵が困惑気味に握手するのを見届け、ジークは行動に移った。


「じゃあ、仲良くしてやってくれ。

 行くぞ、エミリー」


「な、なぁ、あの君のご友人の体格……入国検査の時に見覚えが……」


「行くぞ」


 ◇


 黒っぽい煙が煙突からモクモクと上がり、作動中の機械ががんがんと音を立て、白っぽい蒸気が下に溜まっている、そんなむき出しの工場の狭い足場を二人は走っていた。


「この工場には、かなり巨大な炉がある!

 もしあれを爆破されたら、町中が大変なことになる!」


「連中、考えたな、いい狙いをしている」


「す、すまない、君に着いて行くので必死で良く聞こえないんだ……!

 一体、君はどういう身体をしているんだ!


 それで、炉は此処から降りたところだが、これだけ広いとどうやっても5分はかかってしまう……」


 一刻も猶予がない時に、5分は大きすぎる。

 すると、ジークは突然立ち止まった。


「わかった、ナビゲート助かった。

 此処から先は最短ルートで行く、俺の銃を持っててくれ」


「えっ……ちょ、ジーク少佐!?」


 突如、ジークは狭い高所足場から身を投げ出した。

 思わず、目を覆ったエミリーだったが、どすんという落ちた音は聞こえず、おそるおそると目を開けた。

 ジークは落下中だった。

 むき出しのパイプを掴み、垂れ下がったホースを掴み減速し、最後に縦に伸びた管に蹴りを入れ、バク宙して着地時の姿勢を整えた。

 そして、何事もなかったかのように立ち上がると、白い蒸気の中へとゆっくりと姿を消していった。


 エミリーはジークの事を、恐らく、過酷な訓練を受けた特殊部隊の人間だろうと考えていた。

 だが、たった今、その自分の考察を疑わなければいけなくなった。


「……本当に、人間なのか……?」

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