戦争前夜
この作品は、日本が世界に誇るダークファンタジー漫画をリスペクトした作品です。
ご意見等は、作者ノート"ご意見募集、前線劣等生の今後の更新について。"をご覧になられていただけると幸いです。
◇
「鈍感が過ぎるぞ、童貞。
俺は数多くの戦場に行ってきた、いろんな憎悪と狂気を見て来た。
既に敵はすぐ傍だ、戦争前夜だ」
「な、何を訳の分からないことを!?」
「だってそうだろう、貴様らの直ぐ傍に敵はいるんだ。
それも何年も前からだ、ずっと侵略し続けられているんだ」
ジークの言葉に、騎士団の面々はどよめく。
言っている意味は分からないが、死屍累々の中、この騎士団で最強の団長を一瞬でねじ伏せた男の言葉だ。
聞き入ってしまう。
「貴様らは国民に好かれていない、そうだな?
税金泥棒だの、野蛮人だの……必死に騎士団という勇ましい名前で誤魔化しているようだが、それは無駄なことだ」
「部外者が分かったような口を聞くな”
我々は謙虚だ。貴様の様に暴力で解決したりなどしない!」
「じゃあ、シルヴィアがどんな目にあったか、聞きたいか?
彼女はガソリンで火炙りにさせられ、挙句の果てに性奴隷として売り出されるところだったんだぞ」
「……本当なのですか、王女様?」
若手の兵の問いにシルヴィアが無言で頷いた事から、更に騎士団の動揺は広がる。
騎士団というが、十人十色。
ただただ、団長に忠誠を誓うものも居れば、心からシルヴィアを守りたいと思う者もいる。
彼らは、確かに国民とシルヴィアが上手く行ってないことは知っていた。
だが、まさかそれほどまでとは考えていなかったのだ。
「貴様らだって例外じゃないぞ。
例えば、そこのお前。
さっきそこの死体を見て、一瞬笑ったな。どうしてだ?
言ってみろ。良いじゃないか、そいつはもう死んでる」
いきなり指を指されたアレフというの名の兵士は慌てた。
だが、ジークの言うことは事実で、彼の言葉は何かを吐き出させるようなものだった。
彼自身も吐き出したかった。
「こ、この男は俺の息子に石を投げたんだ。
殺人鬼の息子だって……」
「ああ、そうか。
やっぱりそうだ、国民達は貴様らを殺したがってるぞ」
「ふっ、それは理論の飛躍だ。 たったそれだけのことで……」
団長は部下達を冷静にさせる為、ジークの論を一笑しようとした。
だが、それはジークを援護してしまった。
「……団長、たったそれだけとはどういうことですか!?」
「……っ! ちっ、違う! 話を聞くんだ、アレフ!」
「おいおい……聞いたか、皆。
部下の息子のことをそれだけ呼ばわりだぞ?
指導者は冷酷であれというが、これが正しい姿なのだろうか?
そうだ、皆、毒されているんだ。
国民達は税金を払っているからという理由で、貴様らに暴言を吐いた。
そして、次は兵舎に落書き、いやがらせ、果ては子供に石を投げ始めた。
お前達はそれを仕方ないと思い始めている、そうだな?」
「……っ!?」
図星だった。
全ての責任を押し付けられた、シルヴィアよりマシとは言え、彼らの扱いも酷いものだった。
名家出身の騎士団長やその他幹部はまだいい。
末端の兵士は、良いストレス発散の道具として指を指され嗤われ続けていた。
その結果、彼らはすっかりプライドを無くしていた。
自分達は子供にすら笑われる、無能な集団だと。
「これは侵略だ。
戦争だぞ、もう既に仕掛けられているんだ。
国民達はか弱いふりをして、団結して、お前達を追い詰めているんだ。
奴らは強いぞ。
お前達が市民に暴力を振るえば、軍人による卑劣な暴行だ、それは悪の所業だ。
だが、市民が一致団結して、軍人をなぶり殺しにすればそれは正義の革命だ。
奴らは既に理論と正義で武装している。
平気で暴言を吐き、こんなか弱い女王に寄ってたかる連中だぞ、お前達が彼らに殺されないという保証はどこにある?
お前の妻が、息子が、犯されて、殺されないという保証は誰がしてくれる?
それだけじゃない。
お前の隣のそいつは本当に味方か?
出世の為に蹴落とそうとしているのでは、お前を恨んでいるのでは?
誰が味方であるということを保障する?
誰が、誰が?」
「ああ……!」「殺される、嘘だ。そんなの……」
「止せ、ジーク・アルト!何がしたいんだ!?
姫! こうしている間にも、我が国は他国から攻められるのですぞ!?」
だが、その問いにはジークが答える。
「騎士団長なら、それを止めることが出来ると?
姫君一人守れない騎士団長が、大軍勢を止められると?」
「……ああ、止めて見せよう。
姫を護れなかったことが汚点というならば、その汚点は返上させて頂く。
それが出来た暁には、貴様には死んでもらうぞ」
団長は強い視線でジークを睨みつける。
そして、ジークはシルヴィアに頷きかけた。
「……わかりました。
騎士団長、メルド・アルファ。
命を懸けて、祖国を守りなさい」
◇
騎士団が去っていった後、シルヴィアは思わずジークに尋ねた。
「ジークさん。
騎士団の不安をあおるようにしたのは何故ですか?
あれでは恐怖を倍増させるだけでは……。
あの場で騎士団長を弾劾するだけでも、上手く行きそうだった気がするのですが……」
「その場しのぎの忠誠心じゃ困るのさ。
生と死の間で、人間の奥深くが見える。
だから、俺は人間を戦場で確かめる。
それで何人死のうが、そいつはそれだけの存在だったということだ。」
「……なんとなく意味が分かってしまいます」
「だろう? ……恐らく、そろそろだな。
周辺国の皆様は明日の昼下がりにはおいでになられるだろう。
夜が来た。
始めようか、歓迎の準備を」
ジークは完全に闇へと落ちた空を見上げてそう呟いた。
◇
その翌日の早朝。
「団長、何故あんな挑発に乗る必要が……?
あの場であの男を殺してしまえば!」
「ならん、それではあの男がやった蛮行と同じだ。
それに、それでは何の解決にもならん。
民衆が予想以上に愚かだった、あの男が唆したから、無論あの男は死んでもらう。
……だが、結局は姫は道を違えられた。姫にはこれを悔いてもらわなければならん。
そして、その後正しく導くのが、我々大人の役目だ。
隣国ビザンツ帝国には、古い知り合いがいる。彼と掛け合ってみれば……。
私は私のやり方で戦争を終わらせる」
「確かに。
姫をこのまま見捨てては、今は亡き王に顔向けが出来ませぬ」
団長は忠実なる部下と、作戦を練っていた。
だが、彼は気づかなかった。
彼に向けられる、部下たちの疑いの目に。
いや、彼らは互いに互いを疑い始めた。
狂気は伝染し始めていた。
"お前の隣のそいつは本当に味方か?"
その時、城の様子を見に行った部下が叫んだ。
「居ません!
ジーク・アルトが何処にもいません!
この国を密かに出たのかと!」
「……逃げたのか!?」
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